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ノーベル・プライズ・ダイアログ東京2018年開催、「持続可能な食の未来へ」その課題とは

池田恵里フードジャーナリスト
Nobel Media AB より

第3回、ノーベル・プライズ・ダイアログ開催

横浜パシフィックにて3月11日に開催されたノーベル・プライズ・ダイアログ。

「持続可能な食」について、多角的な議論が交わされ、一般の人々と学者との見識の乖離を埋め合わせるべく行われているとされる。

私にとって、多くの学びがあり、現状の問題への解決の急務もさることながら、将来にむけて飢餓における子供の脳の発達における影響、そして文化から見る食について密度の濃い時間であった。午後まで参加させていただいたが、その中で午前の部の一部を取り上げることにした。

さて、今回登壇されたノーベル賞受賞者は以下のとおり。

ヨハン・ダイゼンホーファー 

1988年ノーベル化学賞

ティム・ハント       

2001年ノーベル生理学・医学賞

フィン・E・キドランド   

2004年経済学賞

アダ・ヨナット       

2009年ノーベル化学賞

大隅 良典         

2016年ノーベル生理学・医学賞

総勢30人の有識者の方が登壇した。

参加者については、アフリカ・アジアから100名以上の博士課程の学生もいたことは興味深い。

スウェーデンと日本の関係は150年

今年、2018年は、スウェーデンと日本の外交関係樹立150周年にもあたる。スウェーデン-日本150周年化学面での結びつきを強めるために「ノーベル・プライズ・ダイアログ」はその取り組みの一つとされる。

開催されたことで広く、化学技術への理解を一般の人々にも深めてもらうことが目的となっている。

そして今回のテーマは「食の未来」である。

貧困は減っているが、飢餓の問題は今も残っており、気候変化によって、すでに地球の食糧は限界、もしくは超えていると言われている。

今回、参加したことで知り得たことは、食生活はなんらかの形で変化をせざるを得ない状況に瀕していること、その結果、将来がマイナスの方向に導かれるか否かは断言できなく、むしろ新たなるステップなのかもしれないことがわかった。

今後、100億人の食を賄えるのか? 食卓と地球

岩永勝国立研究開発法人国際農林水産業研究センター理事長(以下、岩永氏)は次なるパネルディスカッションの前にテーマの導入講演をされた。

岩永勝 国立研究開発法人国際農林水産業研究センター理事長(筆者撮影)
岩永勝 国立研究開発法人国際農林水産業研究センター理事長(筆者撮影)

現在、世界の人口は既に75億人を超え、2050年には100億人に達すると予測されている。

これまで食に関して美味しい食事を家族や友人とともにし、口にする食事はごく当たり前とされていた。しかし、その前段階である生産するにあたって、どこから来るのかを考えたことがあっただろうか。

確実に人口は増えているなか、問題はどうやって人々が必要な栄養を供給するのか?も大切である。

そのためには現実を知る必要がある。

・飢餓は次第に減っているとはいえ、依然として8億人以上の人々が十分に食糧を得られない。そのため毎晩、空腹のまま床に就いている。

・20億人が隠れた飢餓に苦しまれている。つまり微量栄養素の摂取が十分でない。ビタミン・ミネラルが十分に摂取できていない人たちである。

・オーバーウエイトの人、肥満などに苦しむ人も増加している。

食品生産・健康への問題は深刻な問題と言え、それを認識しないといけない。

既に持続される人口増加、そして食習慣の変化によって、より多くの動物性食品が製造されている。たぶん今後、作物生産を少なくとも70%以上を増やさないといけない。

このように伸び続ける食糧の需要を増やすことで満たすことができるのか?

次に地球の状況を見てみよう。

環境劣化の主たる原因は農業によって起こっている。

つまり限りある資源を農業によって大量に消費され、水、湛水、土壌の劣化は農業によって起こっており、特に畜産業は大量の温室効果ガスを放出しており、世界の温室効果ガスの全体の約25%を占めているという。

環境劣化の主たる原因となっており、土壌侵食、生物多様性の損失、森林破壊の原因にもなっている。

つまりわれわれの食は、持続可能な未来の犠牲の上で成り立っているのだ

気候の変動は、農業の第一のリスクであり、さまざまな異常気象、例えば干ばつ、熱波、そして洪水が起こっている。

その異常気象を目の当たりにして、気候の変動を知ることができる。

そしてこれは農業のみならず、日常生活にも悪影響をもたらしている。

農業に支障が出ているのであれば、

・このような状況下、何を食べないといけないのか。

・何を食べていけばいいのか?

しかし決まった答えはない。

大切なことは世界の人々がともに力をあわせて、次の事柄を実践できるかにかかっている。

・作付け面積をこれ以上増やさない。

・食物の生産性を70%上げる。

・外部投入物の利用効率を上げる。

・生活様式、社会を変える。

・技術のイノベーションを適用すること。

健康な食、持続可能な食料生産、そして環境破壊しないこと、限界を超えないように実現することが大切である。いまこそ行動すべきである。

次なるディスカッションによって、異なる意見、そして知識を得ることができた。

パネルディスカッション「地球は100億人を養えるのか」

登壇者

フィン・E・キドランド

2004年アルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞、カルフォルニア大学サンタバーバラ校

アキンウミ・A・アデシナ

アフリカ開発銀行総裁

マリオン・ギュー

フランス農学・獣医学・林学研究院 アグリ二ウム取締役会 会長

岩永勝

国立研究法人国際農林水産業研究センター理事長

モデレーター アダム・スミス

ノーベル・メディアABチーフ・サイエンテイフック・オフィサー

ここでは冒頭に提起された「百億人を養えるのか」についてディスカッションが行われた。

いまこそアフリカに目を

アフリカ開発銀行総裁のアキンウミ氏(以下アキンウミ氏)

私たちは食べるために生きるのではなく、生きるために食べることが大切である。

つまり命の源である食べもの関して、100億人をどうやって養うかを考えると

・土地はどこにあるか?

・農地・食糧生産に向いている土地はどこにあるのか?

アフリカでは食糧が不足と思われがちである。

しかし、耕作地可能が65%ある。これはアジアでもなくアメリカでもない。アフリカにあるのだ。

サハライナに関しては6億ヘクタールあり、4億ヘクタールは実は耕作可能であり、そのうちの10%、つまり4000ヘクタールあれば良い。確かに生産性を上げる必要性もある。例えば酸性の高い土壌を変えていった結果、ここが一大農業生産、輸出の源になっている。健康に対して、より強靭な柔軟性のある農業を育てることも大切。ただ生産性をあげるだけではなく、雇用も考え、インフラも必要でプロセス、保存、市場の流通も考えなければならない。

食糧に関してアフリカが何をやれるのかを考えることが重要であり、そして開拓すべき場所なのである。

耕作地はこれ以上増やせないと呪文のように言われるが、アフリカはもっと開拓するべきなのだ。

フランス農学・獣医学・林学研究院、アグリ二ウム取締役 会長

マリオン氏(以下マリオン氏)

農業というのは重要な役割を果たしている。今のところ、地球上のすべての人は、平均をとれば十分な食料がある一方、8億人の人が食糧が足らない。食の多様化もあり栄養の問題がある。つまり量の問題ではなく、食料に対する物理的なアクセスが必要なのである。それが欠けているのが8億人。

原因として、紛争で妨げられたり、経済的のアクセスなどの問題である。まずそこを解決するのが必要である。全体といえば、健康であるという要素も大切。抗生物質の耐性の菌も問題になっており、既に抗生物質を家畜の繁殖にも使われていて、これらも取り組みたいと思う。さらに言い換えると農作物は最適化が大切で、どうやって都市化の拡大をコントロールするか、いかに森林を保全するか。これは土地の利用の問題と思う。

2004年アルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞、カリフォルニア大学サンタバーバラ校

フィン氏(以下フィン氏)

私自身は食の研究をしていない。しかし実際、多くをコペンハーゲンのコンセンサスメンバーとして世界の解決策を考え、どうすれば最も高い費用対効果ができるのかを検討してきた。研究のなかでスーザンホトナーとジョン・ホビナーの論文に注目した。既に世界には十分な食料が生産されており、それによって90億から100億の人々までも養える。しかしどうやって分配するかが問題である。

インフラの問題もある。そして追加として、評価に関連して、ある解決策、飢餓と栄養不良の分野に関して取り組んだ。60ないし70の解決策のうち、上位10位内に飢餓と栄養不良に関するものであった。これらがいかに重要かということがわかり興味深い。そして栄養不良は教育とも関連する。栄養素が不足すると、認知機能が損なわれるからだ。つまり栄養不足は教育に悪影響がある。

グアテマラの35年前の研究でどれだけの影響が、微量栄養素、たとえばビタミンA、亜鉛、あるいは鉄強化をどれだけプラスの効果があるのかを検討した。結果、驚くほどの費用対効果があることがわかった。次にフォローアップの研究も行われた。35年後、参加した人々のフォローアップしたところ、参加しなかった人より平均66%の改善が見られた。単に国の教育水準おいて重要だけではなく、どれだけ経済全般が発展したかにも関連してくる。

アキンウミ氏

単に食を増やせというのではなく、栄養摂取が大切である。そのためにはアクセスが重要となっている。そして懸念しているのは、5歳未満の子供たちで1億5600万人に関しては発達が妨げられている。アフリカでは5800万人。脳の機能、認知機能、学習機能は十分な栄養が得られなかった場合、学習が続かない、そしてこれはしいては将来、十分な所得の可能が失われることにもなる。下層の問題も言われるが、やはりインフラの問題なのである。

道路、橋は壊れたとしてもやり直せるが、子供の脳細胞が一度でも壊れてしまうと回復できない。そして子供が躓けば、将来の経済にも関わってしまう。これは重大項目である。

そのためにも子供に強化食品、微量栄養の強化が重要である。

その一方、肥満の問題がある。どのようにカロリーの高いものを食べ、どういった形で供給される一方、ビタミン、亜鉛が少ない。これは高齢者のライフスタイルにも関わっている。つまり健康的な食が大切である。

マリオン氏

革命が必要と言われているが、むしろ作物のシンプル化が大切。一食に含まれる微量栄養が少なくなってきているためだ。そのためには多様性が必要で炭素の循環化が必要である。これらを解決するテクニックはあるが、問題はどうやってこれを農民とともに再考していくか、制度を作り替えなどが大切になってくる。万全なソリューションはないが、ローカルにあったものを使う、これが進化になると思う。

これからの10年が重要であり、土壌の機能は単に物を支えているものではない。1000億の細菌が1gの土壌のなかにあり、つまり命なのである。これによって植物は育ち、土壌は生きているのだ。まず良い土壌を作ることが必要であり、通常、土壌には大気より炭素の蓄積量が2倍ある。しかし土壌中の炭素量は現在、減ってきているため、再度、考えないといけない。土壌の炭素保持することが大切なのである。

いろいろな見識を通して

食糧問題について、原因を一言では語れない。しかし多くの場合、アクセスにおける問題により、均等に配分できていないことを学んだ。そして急務な事柄である.その一方で、アフリカにおける耕作可能であることを知り、安心と驚きをもって聞いた。

この記事には取り上げなかったGMOについて。これまでの印象はこの会議で出席する前と随分、変わった。つまりこれまでネガテイブであったのが、学者の話を聞くうちに避けることができない事であり、GMOをいかにコントロールするか、これが最も大切ではないかと思った。最後に、食の問題は未来を担う子供たちに大きく影響すること。これは参加する以前から朧気に分かっていたが、具体的な研究結果から経済的な事柄にまで及ぶことに改めて考えさせられた。

フードジャーナリスト

神戸女学院大学音楽学部ピアノ科卒、同研究科修了。その後、演奏活動,並びに神戸女学院大学講師として10年間指導。料理コンクールに多数、入選・特選し、それを機に31歳の時、社会人1年生として、フリーで料理界に入る。スタート当初は社会経験がなかったこと、素人だったこともあり、なかなか仕事に繋がらなかった。その後、ようやく大手惣菜チェーン、スーパー、ファミリーレストランなどの商品開発を手掛け、現在、食品業界で各社、顧問契約を交わしている。執筆は、中食・外食専門雑誌の連載など多数。業界を超え、あらゆる角度から、足での情報、現場を知ることに心がけている。フードサービス学会、商品開発・管理学会会員

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