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【将棋】女流棋士の順位戦が佳境へ~第2期ヒューリック杯白玲戦・女流順位戦は残り2戦~

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
記事中の画像作成:筆者

 記念すべき第1期を西山朋佳白玲・女王が制し、西山白玲への挑戦権と昇級を目指す第2期ヒューリック杯白玲戦・女流順位戦は各クラス残り2戦となり佳境を迎えている。

 A級では里見香奈女流四冠が実力をみせて独走状態に。

 B~D級では昇級と残留をかけて混戦が続いている。

 各クラスの全成績は公式ページをご参照ください。

 ここでは、A級の挑戦争いと残留争いについて。

 そしてB~D級の昇級争いについて解説する。

A級

里見(香)女流四冠は、6回戦が延期になっていて消化が1戦少ない
里見(香)女流四冠は、6回戦が延期になっていて消化が1戦少ない

 挑戦争いは全勝の里見(香)女流四冠が大きくリード。2敗は伊藤沙恵女流名人のみで一人旅の様相となっている。

 延期分含めて残り3戦で2勝すれば挑戦が決まる。仮に星が並んだ場合はプレーオフとなる。

 里見(香)女流四冠は第15期マイナビ女子オープン五番勝負でも西山女王に挑戦中で、タイトル奪取まであと1勝としている。里見(香)女流四冠の勢いを誰も止めらない状況だ。

渡部愛女流三段は、6回戦が延期になっていて消化が1戦少ない
渡部愛女流三段は、6回戦が延期になっていて消化が1戦少ない

 A級は残留争いにも注目が集まる。降級枠は2名。

 未だ1勝の石本さくら女流二段は残り2戦を連勝するしか助かる目がない。非常に苦しい状況にある。

 前期七番勝負に登場した渡部愛女流三段も苦戦しているが、6回戦で貴重な2勝目をあげて残留へ光が見えてきた。

 その6回戦で渡部女流三段に敗れた山根ことみ女流二段は残留争いに巻き込まれた格好だ。

 2勝の鈴木環那女流三段の次戦は里見(香)女流四冠。厳しい相手だが、ここで鈴木女流三段が勝つとリーグは一気に混戦となる。

 今期A級のクライマックスともいえそうな一番だ。

B級

B級は全部で10名
B級は全部で10名

 昇級枠は2名。全クラス通じて一番の大混戦で、2敗の3名を3敗の3名が追っている。10名中6名が昇級を争う構図だ。

 この展開になると前期成績に基づく順位が大きく影響する。

 実質的にチャンスがあるのは香川愛生女流四段までか。

 そしてこれだけの人数が争うと直接対決も多くなる。

 中村真梨花女流三段は残り2戦を3敗勢と対戦する。

 岩根忍女流三段は残り2戦でどちらも2敗勢との対戦だ。

 B級は実力のある中堅と勢いのある若手という争いだったが、ここまでは中堅に軍配が上がっている。

 その中で気を吐いているのが塚田恵梨花女流初段だ。ここ3年高勝率を誇っており、着実に実力をつけてきた印象がある。

 いまは他力だが、混戦の中では最後に白星を並べた人に幸運の女神が舞い降りることが多いともいう。

 10代の女流棋士で唯一B級以上に入っている小高佐季子女流初段は降級が決まってしまった。上位の壁は厚い。

 下に記すように10代の女流棋士の活躍も目立ってきている。小高女流初段も来期の巻き返しに期待したい。

C級

2敗以上は表の6名のみ
2敗以上は表の6名のみ

 昇級枠は3名。室田伊緒女流二段が全勝で頭一つ抜けている。

 単純な昇級確率(該当者の勝ちと負けを50%で計算)は99%でほぼ当確といえるだろう。

 2番手につけているのが野原未蘭女流初段。昨年度は挑戦者決定戦までコマを進めるなど活躍の目立つ10代女流棋士である。

 残り2戦で1勝すれば昇級が決まる。B級への昇級を今後の活躍の足がかりとしたいだろう。

 そして3・4番手にベテランが続く。

 日本将棋連盟の女流棋士会会長を務める山田久美女流四段が1敗で健在ぶりをアピールしている。

 次戦は2番手の野原女流初段との直接対決となる。C級の昇級争いを占う大一番だ。

 2・3番手の直接対決があるため、4番手の清水市代女流七段は残り2戦を連勝すれば昇級の可能性が高い。レジェンドが終盤に向けて力を発揮するか。

 清水女流七段以外の2敗勢は2名。1敗勢の3名より順位が下のため、逆転はかなり難しい。よって実質的に清水女流七段までの4名に昇級争いは絞られたといえそうだ。

D級

4勝2敗も4名いる
4勝2敗も4名いる

 昇級枠は4名。加藤結李愛女流初段がこちらも全勝で頭一つ抜けている。

 単純な昇級確率は98%で、ほぼ当確といえる。

 加藤女流初段も10代女流棋士。活躍を期待される俊英がクラスを上げそうだ。

 D級は新人が入っていることが一つの特徴といえる。

 新人4名の中で、唯一昇級争いにからんでいるのが田中沙紀女流2級だ。

 女流2級の資格を得られず一度アマチュアとなり、再びプロの世界に戻った苦労人が黒星発信からの5連勝と波に乗っている。

 次戦は中村桃子女流二段との直接対決となるため、田中女流2級は自力の権利を持つ。順位が低いため昇級には連勝が必要だ。

 3番手の山口恵梨子女流二段と4番手の高浜愛子女流1級は最終戦に直接対決を迎える。

 山口(恵)女流二段は前期7割近い勝率を残している。非公式のレーティングでも15位以内に入っており、D級では抜けた存在といえよう。

 しかし高浜女流1級の勝負強さには定評があり、ここ一番で強さを発揮する。

 抽選のアヤで最終戦に大きなヤマを迎えそうだ。

 なお4勝2敗も4名いるが、加藤女流初段よりも全員順位が下のため、昇級争いはこの5名に絞られたといえよう。

BSフジで放送中!

 ヒューリック杯白玲戦・女流順位戦は第1期で順位が決まり、第2期から本格的な「順位戦」となった。

 先日、筆者はD級の一斉対局と同日に対局を行ったが、対局に臨む女流棋士の表情がいつも以上に険しいように感じた。

 リーグが終盤に向かうにつれて、一戦ごとに重みが増してくるからだろう。

 本稿では触れなかったが、A級に限らずB~D級も残留を争う戦いを繰り広げている。

 思わぬメンバーが苦戦を強いられるなど、女流棋界の実力の底上げを感じさせられる。

 さて、様々な女流棋士に密着して知られざる素顔をみせてくれる、BSフジで放送中の『白玲 ~初代女流棋士No.1決定戦~』。

 次回は6月19日(日)に予定されている。

 筆者もいつも楽しみに観ている。リンク先では今年放送された過去の放送回を観ることも可能なので、ぜひご覧ください。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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