食用はたったの1%!? おからをおいしく食べる秘訣は愛知の醸造文化にあり
・食用はたったの1%
料理についていろいろ教えていただいた料理屋の女将は、私が「おから」というと「卯の花と言いなさい」とたしなめるのが常だった。
豆腐や豆乳を製造した際に発生するのが、「おから」である。関東では「卯の花」、関西では「雪花菜(きらず)」などと呼び、丁寧に料理されたものは、非常に美味である。しかし、実際には、食用に使われるのは、発生する「おから」のわずか1%未満。ごくわずかでしかない。
・水分が多いから腐敗が早い
日本豆腐協会の資料によると、豆腐などへの大豆の使用量は年間約49万トンあり、そこから発生する「おから」は約66万トンある。原料よりも多いのは、水分が約70%前後含まれているからである。水分を大量に含むために、腐敗が進むのが早く、このことも食用への活用が進んでこなかった理由でもある。
この「おから」を発酵食品にし、長期保存ができるようにしてしまおうという取り組みが、愛知県で進んでいる。
「腐敗」と「発酵」は、言葉は違えど、実は同じ現象。人間の体に悪いものを作り出す「腐敗」がしやすいのであれば、それを人間の体に良いものを作り出してくれる「発酵」に変えてしまおうという発想は、いかにも「発酵」技術が育まれた豊かな醸造文化が根付く愛知県ならではだ。
・おからをおいしく食べる挑戦の秘訣は愛知の醸造文化にあり
愛知県は、自動車産業のイメージが強いが、実は食品産業も盛んである。酒、みそ、しょうゆなど、発酵食品が歴史的に根付いていることも特徴である。当然ながら、民官ともに、その技術やノウハウの蓄積は深いものがある。
今回、豆腐業界からの要望から、2012年に「おからを乳酸発酵させて保存性を高める技術」を開発したのは、愛知県のあいち産業科学技術総合センター食品工業技術センターだ。
・商品化の取り組みは民間企業団体で
おからには、食物繊維やイソフラボンなどの有用成分が豊富に含まれている。乳酸菌で発酵させることで、これらの有用性を生かし、保存性を高めると同時に新たな有用性を付加することを目指したのだ。
ちょうど、未利用材料の活用に着目していた食品関連企業の団体である包装メーカーなどが作る包装食品技術協会の食品創造研究会が、この乳酸発酵おからの活用に取り組むことになった。
・乳酸菌で発酵させた酸味を生かしたドレッシング
この乳酸発酵おからの特性を生かして、開発したのが乳酸発酵おから入りドレッシング「食べるフレッシュドレッシング」だ。開発の中心となったのは、株式会社味食研代表取締役社長の木葉裕章さんだ。第一弾として販売をしたのは、あいちの伝統野菜である「木之山五寸(このやまごすん)にんじん」を合わせた「CarroOkaドレッシング」だ。
「CarroOkaドレッシング」は、4月末から大府市の「KURUTOおおぶ」や「食のアウトレットモール北名古屋」で一般販売された。おからの触感を生かした作りになっており、ドレッシングというよりもサラダの具材として活用できる。試食会では「寿司ネタにしてみたら、意外なおいしさで好評だった」という声もあった。
・体に良いおからに、さらに体に良いものを加えて
「試作段階で大量生産できる状況ではなく、伝統野菜の木之山五寸にんじんも希少で限定でしか製造できていません。販売してみると、予想以上の好評で驚いています。」(木葉社長)
今後、ほかの愛知の伝統野菜を使って、シリーズ化したいという考えを包装食品技術協会食品創造研究会は持っている。メンバーの一人でもあり、豆腐メーカーのパイミート株式会社代表取締役の沓名悟さんは、「醸造文化は愛知の誇るもの。体に良い乳酸菌でおからを発酵させることで、おからにさらに新しい価値を加えて、愛知県から発信していきたい」と話す。
沓名さんは、「国内市場は人口減少で縮小する一方。中小メーカーも様々な取り組みをしていかなければ生き残れない。」と話す。食品メーカーやその関連企業が連携し、それを自治体の研究機関が後押しをする。それぞれ、保有している技術やノウハウを持ち寄ることで、その土地らしい新商品が出来上がる。
・それぞれの地域の伝統的な食文化とそれに付随する技術やノウハウをいかに活用するか
「乳酸発酵おから」は、元々は豆腐製造の際に大量に排出される「おから」を長期保存させる目的で開発されたものだ。「現段階では、工業的に大量生産できる状況にはまだないが、おからの有効活用や利用促進のために、今後も研究開発を続けていきたい。今回の新商品で、乳酸発酵おからの知名度が上がることを期待」(食品工業技術センター)しているという。こうした研究開発は、中小メーカーだけでは難しい。公設試験場ならではの連携支援策だ。地域産業活性化の大きな要は、地域産業に密着した研究を行ってきた公設試験場にある。
それぞれの地域には、伝統的な食文化とそれに付随する技術やノウハウがある。それと強みとして、地元生産者、加工業者、包装業者などに加え、自治体や研究機関が連携することで、特色ある商品を開発していくことは重要だ。縮小する市場を前に、こうした小さくて、地道な取り組みが、地元中小企業にとって、より一層、大切になるだろう。