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井岡一翔の誤算、エストラーダの誤算。年末スーパーフライ級統一戦はひとまず見送り

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
エストラーダvs.ゴンサレス(写真:Matchroom Boxing)

ロマゴン戦で高額を獲得

 大みそか日本で計画されていたWBA世界スーパーフライ級王者井岡一翔(志成)vs.WBC同級王者フアン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)の統一戦が当面、見送りになった。エストラーダと彼の陣営が明かしたもので、メキシコのボクシング専門サイト「イスキエルダッソ」(左強打の意味)が13日伝えた。

 同サイトによると、エストラーダ(44勝28KO3敗)は井岡との対戦を想定して2ヵ月前からメキシコシティ近郊でトレーニングを実行していた。2週間前の10月31日、メキシコシティに本部を置くWBCと地元メディアとの懇談会「マルテス・デ・カフェ」に出席したエストラーダは井岡との統一戦の交渉が難航していることを歯に衣着せぬ言葉で打ち明けた。

 宿敵“ロマゴン”ことローマン・ゴンサレス(ニカラグア)との第2戦で100万ドル(約1億5000万円)のファイトマネーを得たと言われるエストラーダは昨年12月の第3戦では最終的にそれを上回る金額を獲得したという。昨年の大みそか、WBO世界スーパーフライ級王者として当時のWBA王者ジョシュア・フランコ(米)と統一戦を行った井岡を、エストラーダははるばる観戦に訪れた。「近いうちに統一戦を実現したい」という思惑があったに違いない。

井岡は名誉、エストラーダは実益

 一度高額報酬を得たボクサーは、どうしても次戦、次々戦は「もっと欲しい」と要求がエスカレートする。あるいは妥協額を高く設定する傾向がある。スーパーフライ級王者4人の中で、これまでの実績から第一人者と評価されるエストラーダとしては、報酬をつり上げることは当然の行為だったのだろう。同サイトによると、懇談会でのエストラーダの発言以後も井岡側との交渉は継続された。そしてエストラーダの報酬は上積みされたという。だが、残念ながらWBC王者を満足させることはできなかったようだ。

 井岡陣営の名誉のために言わせてもらうと、最終的にエストラーダに提示された額は、世界チャンピオンが得る相場に見合う額あるいはかなりそれを超えるものだったと推測される。エストラーダとすれば、大みそか開催が定着した日本のリングで、あわよくばロマゴン戦を超えるマネーを得られるとの腹づもりがあったのだろう。しかし彼と陣営の「売り手市場」は今回、結果を残さなかった。

 一方、4団体統一の目標を掲げる井岡は以前から「エストラーダを引き出すことができれば……」とメキシコ人王者との対決を待望していた。井岡の願望は両者がフライ級王者だった時までさかのぼる。保持していたWBO王座を一旦、返上してWBA王者に鞍替えしたあたりにも統一王者とエストラーダへのこだわりが感じられる。

 しかしエストラーダは乗って来なかった。井岡は“王座統一”という名誉を重視したがエストラーダは“マネー”という実利を優先した。お互いの誤算が残念な結果を生んだと言えるのではないか。

アルフレド・カバジェロ・トレーナーと調整するエストラーダ(写真:BoxingScene.com)
アルフレド・カバジェロ・トレーナーと調整するエストラーダ(写真:BoxingScene.com)

来年実現の可能性あり

 それでも「大みそかの主役」井岡(30勝15KO2敗1分)が今年も大トリを務める可能性は残っている。この時期で試合の発表がないというのは異例にしても期待しているファンは多いのではないだろうか。

 エストラーダもメキシコシティに残り、練習を続行中。郷里ソノラ州に戻るのはクリスマスと年末だけで年明けにはシティにとんぼ返りして次戦に備える予定だ。あるいは12月中にメキシコか米国でリングに登場する見込みもあると彼は語っている。

 そして井岡vs.エストラーダは消滅したわけではなく来年、日の目を見るとエストラーダ陣営は希望的な観測を明かす。大いに期待したいところだ。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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