Yahoo!ニュース

エンゼルスの大谷翔平に、レッズの二刀流マイケル・ロレンゼンはどんな言葉を贈ったか。

谷口輝世子スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 エンゼルスの大谷翔平がトミー・ジョン手術と呼ばれる右肘の靱帯再建術を受けることになった。

 6月に右肘の内側側副靱帯を損傷が判明したときには、手術ではなくPRP注射で回復を図った。そして、9月には投手としてマウンドに復帰。しかし、その直後に肘の靱帯に新たな損傷が見つかり、この数週間、トミー・ジョン手術を受けるかどうか検討していた。

 私がレッズの二刀流、マイケル・ロレンゼンに話を聞いたのは9月中旬のこと。医師の勧めたトミー・ジョン手術を受けるかどうか、大谷が考えている時期だった。

 レッズのロレンゼンの本職はピッチャーだが、昨年の開幕前から二刀流を希望。今シーズンは、中継ぎ投手をしながら、代打として満塁弾を放ち、代走でも起用され、1イニングではあるがライトの守備にもついた。

 ロレンゼンは「投げたい、打ちたい、守りたい、走りたい。野球選手でありたい」といつも強く希望している。大谷とは親交はないものの、二刀流・大谷の心情を理解できる人物のひとりだと思う。

 メジャーの打者としても十分に力を発揮している大谷だけに、手術から復帰までに時間のかかる投手をあきらめ、打者に専念してもよいのではないか。そのような意見もある。

 しかし、ロレンゼンはこう言った。「誰であっても、彼の二刀流の道を閉ざすことは許されないと思う。決めることができるのは、大谷だけだ」

 ロレンゼンは「大谷は両方をやり続ける必要があると思う。まず、彼の肘がよい状態にならなければいけないけれども、彼は彼のままでいて欲しいと僕は思う。だから両方やらなければいけないと思うんだ」と話した。

 ロレンゼンは球団に直訴しながらも、すんなりとは二刀流を認められなかった。今シーズンのレッズは4月にプライス監督を解雇し、ベンチコーチだったリグルマンが監督代行になった。シーズン中の監督交代がロレンゼンにとっては助けになった。リグルマン監督代行はロレンゼンの打力、走力などの総合力を評価し、昨年よりも打席に入る機会を与えたのだ。

 ロレンゼンは今年ここまで、44試合に登板(そのうち先発が2試合)し、3勝2敗、防御率3.35。ロングリリーグして打席に入る他にも、代打として起用され、28打数で8安打、4本塁打、9打点。ヒットの半分が本塁打だった。選手の勝利貢献度を測る指標のWARは、投手としては0.9、打者としても0.7で、合計1.6。

 大谷に二刀流を諦めてほしくない。ロレンゼンは開幕前に話したことと同じ話を繰り返した。「大谷は、あと何年か日本でプレーしてからメジャーにくれば、もっともっとお金を得られた。そういう賭けをしてメジャーに来たんだ。それに彼はまだ若い。誰が彼のやろうとしていることをコントロールできる? 誰もしてはいけないと思う。どうするかを決めるのは大谷だけだ。彼は特別な選手になっていくのだから、二刀流を続けて欲しい」。

 来シーズン、ロレンゼンがどのように起用されるかは分からない。どれだけ打席に入る機会があるのかも分からない。しかし、大谷が開けた二刀流のドアが閉まらぬように、ロレンゼンは足を挟むだけでなく、全身を突っ込むにちがいない。そして、大谷の帰りを待つはずだ。 

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

谷口輝世子の最近の記事