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台風20号はバシー海峡から南シナ海へ 43年前の台風20号は大根を白首から青首へ世代交代促進

饒村曜気象予報士
大根を収穫する農家(写真:アフロ)

台風20号が西進

 令和4年(2022年)10月15日15時にフィリピンの東で発生した台風20号は、発達しながら西進し、バシー海峡を通って南シナ海を西に進んでいます(図1)。

図1 台風20号の進路予報(10月17日0時)
図1 台風20号の進路予報(10月17日0時)

 日本への影響はありませんが、43年前、昭和54年(1979年)の台風20号は、10月19日に和歌山県白浜町付近に上陸しています。

最低中心気圧870ヘクトパスカル

 昭和54年(1979年)の台風20号は、いまでも、台風の統計が行われるようになった昭和26年(1951年)以降で、6番目に遅い上陸台風です(表)。

表 上陸日時が遅い台風
表 上陸日時が遅い台風

 昭和54年(1979年)の台風20号は、現在も破られていない台風の最低中心気圧の記録である870ヘクトパスカルを観測した台風です。

 当時は、アメリカ軍が台風に対して飛行機による観測を行っていましたが、この台風は特に観測回数が多かった台風です(図2)。

図2 飛行機観測が一番多かった昭和54年(1979年)の台風20号の中心位置の航跡(カッコ内は1日当たりの観測数)
図2 飛行機観測が一番多かった昭和54年(1979年)の台風20号の中心位置の航跡(カッコ内は1日当たりの観測数)

 この台風は、日本に接近するにつれ多少勢力を落としましたが、大型で暴風域が極めて広く、ほぼ全国を暴風域に巻き込みました。

 最大瞬間風速は千葉県館山市で50.0メートル、東京で38.2メートルを観測し、鉄道や高速道路などの交通機関が麻痺状態となりました。

 北海道東部では暴風による漁船の遭難や転覆などが相次ぎ、北海道の死者・行方不明者は72人となるなど、全国の死者・行方不明は115名でした。

大根は白首から青首へ

 かつて大根というと、ピリッと辛みのきいた大きな白い大根(白首大根)が主流でした。

 三浦大根とか、練馬大根など、地名のついた大根が有名ですが、これらは白首大根です。

 しかし、核家族となったことで大きな大根1本は食べきれないとか、タクアンを漬ける家庭が減ったとか、ピリッとした辛みを好まない人が増えたなどの理由が重なり合って、現在では、小ぶりで甘みのある青首大根が主流となっています(図3)。

図3 大根の種類(イメージ)
図3 大根の種類(イメージ)

 この白首から青首への流れを加速したのが昭和54年(1979年)の台風20号です。

 このときの台風20号は、前線の影響もあって、九州南部や四国、紀伊半島や東海地方などでは400ミリを超える大雨となり、神奈川県三浦半島などの大根生産地は大きな被害を受けています(図4)。

図4 神奈川県三浦の風速・風向と1時間降水量
図4 神奈川県三浦の風速・風向と1時間降水量

 大根の種のまきなおしを迫られましたが、三浦大根などの白首大根では季節的に遅すぎ、愛知県北西部の春日村宮重地区で栽培されていた宮重大根などの青首大根の種がまかれました。

54年秋の雨台風で、神奈川・三浦半島の大根産地は、まき直しを迫られた。だが、時期的にもう、中京以西の「青首大根」でないと間に合わない。結果は青首の方が値段が高く、生産者は目を白黒。おっかなびっくり翌年もそうやったところ、やはり同じ。その後、毎年、大きく転換が進んで、今年は青首一色。

引用文献:日経新聞(昭和58年(1983年)12月2日)

 その結果は、青首大根が消費者の心をとらえて高値で取引され、大根が白首から青首へと世代交代が一気に進んでいます。

 現在、神奈川県三浦市は、大根の産地として全国的に有名で、ここ数年、全国市町村別生産額順位で、絶えず1位か2位を誇っていますが、生産される大根のほとんどが青首大根です。

 白首大根である三浦大根は1%に満たない生産量ですが、肉質はたいへん緻密で柔らかく、煮物やなますなどに向いていることから、直売所での人気は根強いものがあります。

 これからどんどん寒くなり、大根を多く消費する冬がやってきます。

図1の出典:ウェザーマップ提供。

図2の出典:饒村曜(平成5年(1993年))、続・台風物語、日本気象協会。

図3の出典:筆者作成。

図4、表の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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