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外国人が古い戸建てを購入するちゃっかりした理由と、危惧されるシビアな近所迷惑

櫻井幸雄住宅評論家
古い一戸建てのイメージ。実際には密集地の極小物件が好んで購入される。(提供:イメージマート)

 安く売られる中古戸建てを外国人が購入し、民泊を行うなど新しい活用法が注目されている。

 京都では「日本人が手を出さない古い住宅を中国人が喜んで購入してくれる」という話も。

 古い戸建て住宅は“負動産(住みたくなく、売ることもできず、税金だけがかかる)”になりやすいとされるなか、この話はひとつの解決法を示すと捉えられがちだ。

 「外国人は目の付けどころがよい」

 「日本人も、見習うべきだ」

 そんな見方をする人も出てくる。

 しかし、そんなにウマい話があるのだろうか。そもそも、外国人はなぜ日本人が買わない戸建てに手を出すのか。外国人が古い戸建て住宅を好んで買う理由と、そこに潜む問題点を解き明かしたい。

外国人が安い中古戸建てを好むリアルな理由

 安い中古戸建てを外国人が買っている、と聞くと、まず思い浮かぶのは、地方の過疎地の古い住宅。自然豊かだが、生活は不便な場所であるため、中古で売り出しても買い手がつかない……そのような家がタダ同然で購入されていると考えがちだ。

 しかし、外国人が過疎地の古い家を買うケースは少ない。理由は、多くの外国人が考える用途に不向きであるからだ。

 過疎地の戸建て住宅を選ぶのは、自ら住みたいと考える外国人で、その場合はいつでも引っ越しできる賃貸居住にするのが現実的だ。

 外国人が好んで購入するのは、便利な場所で、民泊や賃貸として活用しやすい物件である。

 といっても、都市部に建設される新築マンションは価格が高すぎる。中古マンションも都市部では価格が高い。

 そこで、注目されるのが、便利な場所、もしくは観光客が集まる場所の近くで、安く売られる中古戸建てなのだ。

 中古戸建てのなかには、激安物件がある。東京23区内でも1500万円とか、1000万円を切る価格の物件だ。

 円安のおかげで、日本の安い中古戸建ては、外国人にとってさらに安くなる

 たとえば、1500万円程度で売られる中古物件は1000万円前後の印象となる。それを民泊活用すれば、1人利用でも1泊1万円、3人、4人で利用してもらえば、1泊2万円〜4万円の設定にできる。

 1泊2万円で1カ月稼働させたら、約60万円。利回りを計算すると、わるくない投資であることが分かる。日本の税金を払わなければ、さらにおいしい……となるのだが、その点については取材ができていないので、なんとも言えない。

23区内にもある激安中古戸建て

 東京23区内や大阪、京都の中心エリアでも、1500万円とか1000万円を切る価格の中古一戸建てはある。

 安い理由は、古い、狭い、建て替えできないという複数の短所があるからだ。

 「古い」は、築50年以上で、60年前、70年前の建物が多いことを意味する。当然、新耐震基準の前で、耐震補強も行っていない建物だ。

 「狭い」というのは、土地面積も建物面積も100平米を大きく下回り、50平米とか60平米だったりすることを指す。間取りも1DKとか2DKになりがちで、キッチンや浴室も狭い。

 さらに、致命的な短所となるのが「建て替えできない」だ。中古物件の説明では「再建築不可」と記され、公道に面する部分が狭すぎるなどの理由で建て替えが許されないことを意味している。

 つまり、ものすごく古く、狭い家であることに加え、それを壊して新しい家を建てることができない。わるい条件が重なっているわけだ。

 古い家のまま住み続けることはできるのだが、築60年、築70年の家で、この先何年住むことができるのか……そう考えると、買う気になれないのが普通だろう。だから、思い切り安く売られるわけだ。

外国人は「100年以上もつはず」と考えるが……

 致命的な短所がある中古住宅に日本人は手を出さない。しかし、外国人は異なる評価をする。

 まず、「古い」について。

 多くの外国人は、築60年、築70年を古いとは思わない。それは、自国で築100年を超える木造住宅を多くみているからだ。

 しかし、外国、特に欧米と日本は気候が大きく異なる。高温多湿の日本では欧米のように木造住宅が長持ちしない。

 京都、奈良の古い寺社のように、ヒノキやスギの巨木からとったムク材をふんだんに使った建物ならば長持ちするが、一般住宅にはそのような高級木材は使用されない。

 さらに、台風や集中豪雨で大量の雨にさらされるし、夏の日差しも強い。日本の木造住宅は欧米のように数百年ももつ、とはいえないのだ。加えて、大地震の心配もあるので、日本人が古い木造住宅を避けるのは当然である。

 しかし、外国人は「100年以上もつはず」と考えるし、地震の怖さも知らない。だから、「安いのに、日本人が買わない理由が分からない」となる。

 「狭い」ことも、民泊として活用するなら、問題にならない。1人〜3人が宿泊するなら1DK〜2DKで十分だ。

 再建築はできないが、リフォームは可能。そのリフォームも、民泊利用ならば内装をきれいにするだけでよい。

 以上の理由で、日本人が敬遠する古くて狭い中古戸建てが外国人に喜ばれる状況が生まれているわけだ。

想像される「近所迷惑」のシビアな内容

 外国人が古い戸建てを買うことを歓迎する日本人もいる。それは、短所の多い中古戸建てを売る人たちだ。

 日本人はぜんぜん買ってくれない。しかし、外国人ならば喜んで買ってくれる。まさに、渡りに船なのだ。

 とはいえ、外国人に売ることの後ろめたさも感じているのも事実だ。

 それは、普通の住宅として使われず、民泊利用などになることを薄々わかっているからだろう。

 民泊や短期の宿泊施設などに利用されると、夜中に騒いで近所に迷惑を及ぼす心配がある。冬に灯油ストーブを利用し、火事を出すこともないとはいえない。

 「ご近所に迷惑をかけるかもしれない」と思いつつ、日本人が敬遠する家が売れるのはありがたい……複雑な思いで売却が行われるわけだ。

 外国人に売却される古い戸建住宅の問題点は他にもある。

 注目したいのは、民泊として活用するために行われるリフォームの内容。耐震補強をしっかり行ってくれればよいのだが、実際には壁紙を貼り替えるなど模様替え程度となる。素人仕事だし、建築確認申請が必要な場合も行わない。

 場所によっては火が燃え広がるのを防ぐ内装材や延焼防止の窓ガラスの採用が求められるのだが、果たして、決まりを守っているのか。

 民泊として利用する場合、一定の消防設備等が必要なのだが、それを守っているかどうかも怪しい。

 そもそも、民泊の場合「年間180日まで」という決まりがあるのだが、年間180日では儲けを出すには至らないとされている。利益を出すためには、決まりを破って通年営業したり、短期の賃貸活用を組み合わせるなどグレーゾーンの運用が行われる可能性がある。

 そうなると、常に見知らぬ人の出入りが発生することになってしまう。

 さらに、何年か先、いよいよ建物が朽ちてきたとき、後始末をしっかりしてくれるのか、という心配も大きい。

 建物が崩れはじめたら、大問題だ。なにしろ、「再建築不可」なのだから、売るに売れない。取り壊して更地にするのもお金がかかる。民泊として利用できなくなった建物を放置し、持ち主の外国人が帰国でもしたら、迷惑なこと、この上ない。

 そんな家が全国で多発したら……新たな社会問題が発生し、「戸建ての民泊は認めなければよかった」と言われるのではないか。今から心配になってしまうのである。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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