アニャ・テイラー=ジョイを新アンバサダーに任命したディオールの思惑
一昨日の10月25日、アメリカ、ロサンゼルスに9月にオープンしたばかりのアカデミー映画博物館で、エドガー・ライト監督の最新作『ラストナイト・イン・ソーホー』(12月10日全国公開)のプレミアが開催された。当夜のレッドカーペットで一際注目を浴びたのは、劇中でヒロインの夢の中に出てくる謎めいた少女、サンディを演じるアニャ・テイラー=ジョイ(25歳)だった。Netflixの大ヒットシリーズ『クイーンズ・ギャンビット』(’20年)で今年のゴールデングローブ賞に輝き、今後も『スーパーマリオブラザーズ』('22年)アニメ版のボイスキャストや、『マッドマックス』シリーズのスピンオフ作品『Furiosa(原題)』(‘24年)でシャーリーズ・セロンから主役を引き継ぐことが決まっている今最も旬な俳優である。
シャーリーズ・セロンとアニヤはディオール繋がりでもある
レッドカーペットでアニャがチョイスしたのは、大胆な胸のカットが印象的なディオールのゴールドのガウンだった。この夜のテーマはシャイニー素材だったようで、同作で共演しているトーマシン・マッケンジー(『ジョジョ・ラビット』’19年)もグッチのメタリックなガウンを着てきらきらを共有。おかげで、トーマシンがブルガリから提供してもらったハイジュエリーの光沢が服に埋もれてしまった感も。
ところで、アニャ・テイラー=ジョイとシャーリーズ・セロンには『マッドマックス』以外にも繋がりがある。シャーリーズが2004年以来務めているハイブランド、ディオールのアンバサダーに、つい先日アニャが就任したのだ。正確には、シャーリーズが務めているのはディオールのフレグランス、ジャドールのアンバサダーで、これからアニャが受け持つのはファッションとメイクのグローバル・アンバサダーだ。ディオールにはアイテム毎にアンバサダーが分散していて、各々時代の顔たちが商品のイメージアップとセールスに貢献してきた。その歴史は30年以上に及ぶ。ここでそれぞれのアイテムと歴代のアンバサダーを紹介しよう。
過去30年以上、ディオールの顔を務めて来たセレブたち
プワゾン・パフュームのイザベル・アジャーニ(1985~1990年代)、ハンドバッグ、レディ・ディオールのカーラ・ブルーニ(1996年)、ヒプノティック・プワゾン・パフュームのミラ・ジョボビッチ(1999~2000年)、キャプチャー・スキンケアのシャロン・ストーン(2005年~)、モニカ・ベルッティの場合はディオール・コスメティック(2006~2010年)、レディ・ディオール(2006~2007年)、ヒプノティック・プワゾン・パフューム(2009~2010年)と、4年間で3つのアイテムを兼任。
そして、ミッドナイト・プワゾンのエヴァ・グリーン(2007~2008年)、レディ・ディオール(2008~2009年)と同じくハンドバッグのミス・ディオール(2011年)のマリオン・コティアール、ディオール・オム・フレグランスのジュード・ロウ(2008~2012年)、ミス・ディオール・フレグランスとディオール・コスメティックのナタリー・ポートマン(2010年~CMでお馴染み)、ミス・ディオール(2012年~)とジョイ・by・ディオール・フレグランス(2018年~)のジェニファー・ローレンス。さらに、ディオール・オム・フレグランスのロバート・パティンソン(2013年~)、ディオール・ソヴァージュ・フレグンスのジョニー・デップ(2015年~)と続く。
また、最近は俳優として活躍しているアフリカ系アメリカ人とイラン人を両親に持つのヤラ・シャヒディ(21歳)がグローバル・アンバサダーに就任。ヤラは今年9 月に開催されたエミー賞の授賞式にディオールの目の覚めるようなグリーンのヴィンテージ風ドレスで登場して、フレッシュなファッショニスタぶりをアピールしていた。また、ディオールはスポーツ界にも輪を広げている。同社は今年の全米オープンテニスを18歳で制したプロテニス選手、エマ・ラドゥカヌともアンバサダー契約を締結。エマは早速、9月末にロンドンで開催された『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』のロイヤルプレミアに、ディオールのクリエイティブ・ディレクター、マリア・グラツィア・キウリが”CRUISE 2022 コレクション”で発表したギリシャ風のガウンで登場。テニスコート上の彼女からは想像できないゴージャスな雰囲気を全身から漂わせていた。
こうしてディオールの歴史を紐解くと、その時代を席巻した映画俳優やセレブ、モデルの変遷を見るようで面白いし、改めてメガブランドの多岐にわたるアイテムと、強かなイメージ戦略には敬服するしかない。
そんなディオールの戦略が最も生かされたのは、ソーシャルメディアとのコラボレーションだ。ディオールの公式Instagramにアンバサダーを登場させて、イメージを一気に拡散する手法だ。中でも最も成功したのは、2015年からディオラマ・バッグ、ジャドール・フレグランス、ディオール・サングラスの3商品でアンバサダーを務めているリアーナとのコラボだ。ディオールの最新ファッションとバッグで決めたリアーナがディオールのオフィシャルInstagramで”Only If For a Night”を歌ったことで、ブランドの知名度が一気にアップ。何しろ、リアーナのインスタ・フォロワー数はディオールの約4倍。こうして、老舗ブランドは本来のターゲット層とは異なる若い世代にまで知れ渡ることになる。
アニャ・テイラー=ジョイのアンバサダー就任も、ディオール本来のゴージャスなドレス類を若い世代にアピールする狙いがあることは確かだ。イメージとしては、これまでレッドカーペットでディオールの最新クチュールを纏ってブランドの魅力をアピールして来た、シャーリーズ・セロンやジェニファー・ローレンスをさらにアップデートした存在になるのではないだろうか。思えば、第85回アカデミー賞授賞式で自分の名前が呼ばれて壇上に上がろうとしたジェニファーが、途中の階段で転けてしまったのは、その時着ていたディオールのバルーンドレスの裾を誤って踏んでしまったからだった。
アニャとディオールはヘアメイクでもコラボ
アニャが最初にディオールを着たのは今年2月に開催された第78回ゴールデングローブ賞の授賞式。マリア・グラツィア・キウリがデザインしたエメラルドグリーンのガウンを見事に着こなすアニヤの姿に注目が集まった。また、9月のゴールデングローブ賞ではバターエローのガウンにカナリアイエローのショールを羽織って現れ、同じく『ラストナイト・イン・ソーホー』が上映されたベネチア国際映画祭では、目の覚めるようなショッキングピンクのドレスで登場。ヘアメイクを担当しているのはディオールのメイクアップ部門でクリエイティブ・ディレクターを務めるピーター・フィリップスだ。今後、アニャはディオールの最新クチュールと、それを引き立てる効果的なメイクの組み合わせによって、グローバル・アンバサダーとして世界戦略に貢献していくことになる。
14歳でデビューして以降、人気コーディネーターのロウ・ローチと一緒にレッドカーペット・ファッションを厳選しているゼンデイア、ハイダー・アッカーマンをメインにスタイリストは付けずに自分で服を選んでいるというティモシー・シャラメ、それに、ディオールの新しい顔になったアニャ・テイラー=ジョイを加えた3人が、当分はヤング・セレブファッションをリードして行きそうだ。
因みに、『ラストナイト・イン・ソーホー』は1960年代の”スウィンギング・ロンドン”が物語の舞台で、アニャはブリジット・バルドーやジュリー・クリスティ等、60sを代表するアイコンをイメージしたファッションとメイクで画面に現れる。そこは、"タイムリープ・ホラー"にカテゴライズされる映画の重要なポイントなので、是非、目を凝らして欲しい。
『ラストナイト・イン・ソーホー』
12月10日(金)、TOHOシネマズ日比谷、渋谷シネクイントほか全国公開
配給:パルコ ユニバーサル映画
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