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トランプ氏の国家非常事態宣言 背後には“新・影の大統領”がいた! そして日本の国民は世界の恥さらしに

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
バノン氏の穴を埋めた新たな“影の大統領”ショーン・ハニティー 氏。(写真:ロイター/アフロ)

 「国境の壁」の建設のため、ついに国家非常事態を宣言すると発表したトランプ氏。彼の決断の背景にはある黒幕の存在があったようだ。その黒幕とは、保守系政治コメンテイター、ショーン・ハニティー 氏だ。ハニティー氏は330万人もの視聴者を抱えるフォックス・ニュースのニュース番組「ハニティー」のキャスターであり、「ショーン・ハニティー・ショー」というアメリカでも最も人気の高いラジオ番組のホストも務めている。それだけに米国民に与える影響は絶大だ。

 「国境の壁」については、与野党が13億7500万ドルの予算を当てることで合意したが、要求していた約57億ドルをはるかに下回ったことから、トランプ氏は「大喜びできない」と不満の声をあげ、トランプ氏が妥協案をのむかどうかが注目されていた。

 そんな時、ハニティー氏は自身のニュース番組でこう力説した。

「トランプ氏は予算不足の状態だ。壁を建設するには、国家非常事態を宣言する必要がある。今こそその時だ」

 そんなハニティー氏の訴えに背中を押されでもしたかのように、トランプ氏は米国時間2月15日、国家非常事態を宣言。そのため、メディアから、宣言の背後にはハニティー氏の存在があったとのではないかと指摘する声があがった。CNNのキャスターたちは「トランプ氏はハニティー氏の発言通りに行動している」とコメントしたり、ハニティー氏のことを“Co-President(共同大統領)”とまで呼んだりしたほどだ。

バノン氏の席を埋めた

 ハニティー氏は実際、“影の大統領首席補佐官”とも呼ばれている。側近たちを信頼していないトランプ氏は、夜、ホワイトハウスの自宅から、外部の人々と電話で話し、自分の政策に同意を仰いでいると言われているが、ニューヨーク・マガジンによると、ハニティー氏とは週日は毎夜のように電話で話すほどのブロマンスぶりだ。主にハニティー氏は、決断や行動を決めかねているトランプ氏にその正しさを確信させているという。

 「今、ハニティーと話してたんだよ」、「ハニティーはXXと言っていたよ」、「ハニティーに電話するよ」。スタッフたちはトランプ氏がそんなふうにハニティー氏について言及するのをよく耳にしており、「ショーンが外部政治顧問団のリーダーという感じだね。ハニティーがスティーブ・バノン去りし後の空席を埋めているときいたよ」と話しているという。

 バノン氏はトランプ政権を去るまで、トランプ氏を操る“影の大統領”と呼ばれていた。ハニティー氏は、言うなれば、”新・影の大統領”ということか。

過激発言で出世

 

 そのハニティー氏とは、いったいどんな人物なのか?

 同氏を有名にしたある事件がある。1989年、大学をドロップ・アウトした若き日のハニティー氏は、カリフォルニア大学サンタ・バーバラ校のラジオ局でパーソナリティーを務めていた。そして、ゲイ・レズビアン問題を番組で取り上げたある時、彼はエイズをゲイ病と呼び、こんな暴言を吐く。「ゲイは大衆をブレイン・ウォッシュしている気持ち悪い連中だ」

 当然のことながら、リスナーからはクレイムが殺到、ハニティー氏は大学側から解雇された。しかし、「表現の自由」という理由から解雇は不当だと思ったハニティー氏は、米国自由人権協会に協力を要請、協会の助けで、仕事への復帰を勝ち取り、さらには、大学側に、正式な謝罪と放送時間の拡大を要求。しかし、大学側がその要求を拒んだため、退局した。

 この事件で一躍有名になったハニティー 氏は「アメリカで最も話題になった大学ラジオ局のパーソナリティー」と自己PRし、アラバマ州やジョージア州のラジオ局でパーソナリティー職を獲得、じょじょに大きなラジオ局でも起用されるようになり、1996年にはフォックスで自身の名前を冠したショーを持つほどに成功する。ハニティー氏はトランプ氏同様、過激な発言を武器に、人心を掴んで来たと言えるだろう。

 様々な陰謀論も展開した。オバマ氏はアメリカ生まれではないから大統領にはなれないという“国籍陰謀論”をトランプ氏に吹き込んだのもハニティー氏であると言われている。また、2016年の大統領選の際には、民主党やメディアがヒラリー・クリントン氏の健康問題を隠蔽しているという陰謀論も展開。自身の番組では、保守派の人々からも批判を受けるほどトランプ氏に肩入れし、トランプ氏が大統領に就任後も、彼を批判するリベラルなメディアをバッシング、一貫して、トランプ氏を擁護し続けている。

 また、ハニティー氏は、「ロシア疑惑」の鍵を握っているとされるトランプ氏の元顧問弁護士マイケル・コーエン氏のクライアントでもあった。

 もっとも、トランプ氏自身はハニティー氏の影響について、国家非常事態宣言後の記者会見でこう弁明している。

「決断は自分でしている。ハニティー氏は私の政策の素晴らしいサポーターだが、私のサポーターというわけではない。私が見方を変えたら、彼は私を支援しないかもしれない」

日本の民意ではない

 内政ではハニティー氏とのブロマンスを頼みにしているかに見えるトランプ氏だが、外政はというと、トランプ氏が頼みにしているのは安倍首相のようだ。国家非常事態の宣言を伝えた同じ記者会見で、トランプ氏は安倍氏がノーベル平和賞候補に自分を推薦してくれたと暴露した。日頃メディアから評価されていないことに苛立っているトランプ氏としては、暴露することで、自身はノーベル平和賞に値すると訴えたかったのだろう。

 しかし、朝日新聞によると、アメリカ政府側が安倍首相に平和賞候補推薦を依頼したという裏があったらしい。つまり、ノーベル平和賞ほしさに、トランプ氏がした画策だったのだ。アメリカ政府から推薦の依頼がきたのは昨年の米朝首脳会談後のことだという。日米貿易協議を控えていた安倍首相としては、貿易交渉を円滑に運び、トランプ氏とのブロマンスにひびを入れないためにも、お願いは拒否できなかったということだろうか? 

 安倍首相は昨日の衆院予算委員会で、推薦の事実についてコメントを控えたものの否定もしなかったが、問題はトランプ氏の暴露が世界に轟いてしまったということだ。トランプ氏が安倍首相の推薦状の文面を正確に伝えていたとしたなら、そこには「日本を代表し、謹んであなたをノーベル平和賞に推薦する」と書かれていた。つまり、ノーベル平和賞の推薦は日本の民意ということになる。しかしいったい、どれほどの日本人が、トランプ氏がノーベル平和賞に値すると考えているだろうか? 

 NHKが1月15日に公開した日米世論調査の結果によると、「トランプ大統領の印象」について「悪い印象」を持っている日本人は54%と「良い印象」を持っている日本人18%の3倍もいるのだ。また、トランプ氏は米朝関係が改善したことで日本上空をミサイルが飛ばなくなったと豪語したが、「北朝鮮の核・ミサイルの脅威度」について「脅威である」と感じている日本人は81%もいる(「非常に脅威である」と感じている日本人が48%、「ある程度脅威である」と感じている日本人が33%)。

 日本の国民の何%がトランプ氏がノーベル平和賞に値すると考えているというのか? また、世界の人々の何%がトランプ氏がノーベル平和賞に値すると考えているだろうか? トランプ氏の暴露により、安倍首相は自身のみならず、日本の国民も世界の恥さらしにしてしまったことになるのではないか?

(参考記事)

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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