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台風3号の進路予報はハズれたのか?(前編) 「予報円」の正しい理解を

片平敦気象解説者/関西テレビ気象キャスター/気象予報士/防災士

進路予報がハズれた?

台風3号は本州の南の海上で進路を東寄りに変え、心配された上陸はなかった。
台風3号は本州の南の海上で進路を東寄りに変え、心配された上陸はなかった。

先週初めは、台風3号の今後の進路が気になっていた方も多かったことでしょう。前々日の6月8日(土)21時にフィリピンの東で発生した台風3号が北上中で、週明けの新聞やテレビでも取り上げられていました。10日昼前の時点では、「13日午前に上陸の見込み」と書かれた記事もあり、なおさら身構えた方もいらっしゃったかと思います。

しかし、蓋を開けてみれば、ご承知の通り。台風は本州の南まで北上してくると動きが急に遅くなり、進行方向を変え、東にゆっくりと進んで、13日(木)03時には熱帯低気圧に変わりました(同09時には、温帯低気圧に変わった)。

「上陸しなかったし、予報がハズれたね」という感想を持たれた方もいらっしゃったかもしれませんが、今回、本当に予報がハズれたのでしょうか。

(なお、台風の実際の進路について、下記のデータは気象庁発表の「速報値」に基づくものです。後日、精査の上で「確定値」が決定されます)

「予報円」とは

台風が発生し、日本に影響するようになると頻繁に報道されるようになる図が「予想進路図」。この進路図の意味を正しく理解されている方は、意外に多くないのかもしれません。

「台風がどんどん大きくなる」

「台風の影響するエリアがこの円だ」

と思われている方に、これまでに何人も出会いました。

台風進路予報の例。予報円と暴風警戒域。(気象庁HPから引用・加筆)
台風進路予報の例。予報円と暴風警戒域。(気象庁HPから引用・加筆)

この予想進路図に描かれている円は、「予報円」と呼ばれます。

「予報円」とは、予想時刻に、70%の確率で、台風の中心が進むと予想されるエリアを円で示したものです。平たく言えば、「台風の中心が進む可能性の高いエリア」と言えます。

台風のような現象について、現在の予測技術は、数日先までの進路をズバリとピンポイントで言い当てるほどの水準には達していません。そのため、台風の進む可能性が高い範囲がピンポイントではなく「円」で示され、台風予報として気象庁から発表されています。

円が大きくなっていくのは、先のことになればなるほど誤差が生じ、進路を絞り込みにくいためで、台風が大きくなっていくわけではありません。また、予想される台風の勢力圏を示すものでもありません。

定義上、この円内の左にも右にも、前にも後ろにも、そして真ん中にも、台風の中心が進む可能性が同じように高い確率である、というわけなのです。

(なお、今回は深くは取り上げませんが、予報円の外側には「暴風警戒域」と呼ばれるエリアが示される場合があります。台風が風速25メートル以上の暴風域を伴ったまま進む場合、このエリアでは暴風域に入るおそれがある、と示すものです(予報円は中心の進む可能性の高いエリア。その外側には暴風域が取り巻くのですから、「暴風警戒域」は予報円の外側に広がりますね。))

台風3号の予報円と実際の進路

台風3号の経路(速報値)と予想進路(9日昼前時点の情報)。
台風3号の経路(速報値)と予想進路(9日昼前時点の情報)。

今回の台風3号はどうだったのでしょうか。9日昼前に気象庁が発表した予報円と、実際の台風3号の経路を比べてみます。

11日09時の台風の位置は、同時刻の予報円の北東側に出てしまっていますが(予想よりも速度が速かった)、コースとしては、概ね進路予報の中に収まっているように見えます。台風は予想された進路の最も東寄りのコースを取って北上したようです。

100点満点とは言えないですが、予報円の意味を正しく理解すると、それほど「ハズれた」とは感じないのかもしれません。

「中心線」表示の良し悪し

ではなぜ、「ハズれた」と感じるのでしょうか。今度は、予報円の中心に「点」を描き、それを結んだ「線」も描き入れた図を見ていただきましょう。予報円そのものは全く同じものです。印象はどうですか?

台風3号の進路予想。予報円「中心点・線」描画の有無。中心を進むと誤解しませんか?
台風3号の進路予想。予報円「中心点・線」描画の有無。中心を進むと誤解しませんか?

平成19年4月から、気象庁が発表する台風の予報円の中心に、点や線を描き加えることが認められています。予報円が小さい時(進路を比較的絞り込めている時)は、台風の動きをイメージしやすく、理解を促すのに有効な手段になると言えるでしょう。

しかし、予報円が大きい時(進路を絞り込めていない時)に「中心点」「中心線」を描き入れると、どうでしょうか。台風がこの中心線の上を通るように、強く意識されてしまう印象を受けます。

前述の通り、台風は予報円内のどこにでも進む可能性がありますので、必ずしも真ん中に進むとは限りません。真ん中だけが確率が高いわけではないのです。予報円の意味を正しく理解していないと、描き入れられた補助的な線が大きな誤解を生む一因になるのでは、と思います。予報円の意味を十分に正しく理解していれば、「上陸の見込み」などと断定的には思い込まずに済むことがお分かりいただけるでしょう。

正しく理解して、上手な利用を

台風の進路や強度の予報は、現在の科学技術では、数日も前からズバリとピンポイントで予測することはできません。でも、何もできない・何もしないというのではなく、ブレ幅を「円」という範囲で示して、防災・減災に役立てようとされているわけです。

私たち自身も、

予報円の中心に進むと思い込まない

自分の住む地域に、予報円の端でもかかっていたら要注意

最新の情報をまめにチェックする

など、上手に利用して、災害に巻き込まれないように心掛けたいものです。

より良い台風予報とは?

そんな台風予報ですが、正しく理解していないと誤解されてしまいやすいという点も否めません。もっと分かりやすい表現方法はないのでしょうか。また、予測技術が進歩していく中で、さらに適切な表現方法はないのでしょうか。後編では、台風予報や予報円の今後について考えてみたいと思います。

気象解説者/関西テレビ気象キャスター/気象予報士/防災士

1981年埼玉県生まれ。幼少時の夢は「天気予報のおじさん」で、19歳で気象予報士を取得。日本気象協会に入社後は営業・予測・解説など幅広く従事し、2008年にウェザーマップへ移籍した。関西テレビで2005年から気象解説を担当し約20年。newsランナー/旬感LIVEとれたてっ!/よ~いドン!/ドっとコネクトに出演中。平時は楽しく、災害時は命を守る解説を心がけ、いざという時に心に響く解説を模索し被災地にも足を運ぶ。趣味はアメダス巡り、飛行機、日本酒、プログラミング、阪神戦観戦、囲碁、マラソンなど。(一社)ADI災害研究所理事、大阪府赤十字血液センター「献血推進大使」、航空通信士、航空無線通信士。

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