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イラン産石油をシリアに輸送したタンカーがドローンの攻撃を受けて火災に、容疑者の筆頭はイスラエル

青山弘之東京外国語大学 教授
SANA、2021年4月24日

石油タンカーで火災発生

国営のシリア・アラブ通信(SANA)は4月24日、地中海に面するシリア西部のタルトゥース県バーニヤース市沖に停泊中の石油タンカーのタンクで火災が発生したと伝えた。

火災は、消防隊の消火活動によって1時間ほどで鎮火した。だが、石油鉱物資源省は声明を出し、レバノン領海から飛来した無人航空機(ドローン)の攻撃で、火災が発生したと思われると発表した。

英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、火災で乗組員2人を含む少なくとも3人が死亡したという。

イランの報道

イランのアラビア語ニュース・チャンネルのアーラムは、複数の消息筋の話として、攻撃を受けたのが、バーニヤース市の給油港に寄港していたイランの石油タンカー3隻のうちの1隻だったと伝えた。

タンカーは船首部分と甲板に2発被弾し、物的被害が出たという。SANAが公開した写真からは、甲板への被弾によって火災が発生したことが確認できる。

タンカーは攻撃を受けた時、パナマ国旗を掲揚していたが、シリアに輸送した石油はイラン産だったという。

容疑者の筆頭は言うまでもなくイスラエル

一方、シリア人権監視団のラーミー・アブドゥッラフマーン代表は、AFPに対して「攻撃がイスラエルによるものかを確認していない」と述べた。この発言の背後に、イスラエルが攻撃に関与したとの疑念があることは言うまでもない。

『ウォール・ストリート・ジャーナル』が3月11日に米国及び中東諸国の複数の高官の話として伝えたところによると、イスラエルは2019年末以降、シリアに石油、鉱物資源、武器などを搬送するイラン籍船舶12隻を攻撃している。12隻はいずれも沈没は免れたが、2隻はイランへの帰還を余儀なくされたという。

こうしたイスラエルの挑発を阻止する一方で、欧米諸国のシリアに対する経済制裁を打破することを目的として、ロシア、イラン、シリアが最近になって、石油、小麦などの物資を安全かつ安定的に輸送するための「作戦司令室」を設置したことが伝えられている(「ロシア、イラン、シリアは米国の制裁と資源盗奪に対抗するための作戦司令室を設置」を参照)。

今回の攻撃は、「作戦司令室」設置以降初めてであり、イランに対する新たな挑発と受け止めることができる。

イスラエルは4月22日、「イランの民兵」が展開するとされるダマスカス郊外県に対して爆撃を行った。だが、シリア軍の迎撃を受け、その際に発射されたS-200がイスラエル南部に着弾し、防空システムの不備が露呈した(「シリアがイスラエルに攻撃をしかけたのか、イスラエルがシリアに攻撃をしかけたのか?」を参照)。石油タンカーへの攻撃は、イスラエルによるものと断言し得ない。だが、仮にそうだとした場合、面目を躍如しようとする行為と解釈することもできる。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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