意外に難しい死因「老衰」
死因の第3位に老衰
先ごろ発表された厚生労働省の「平成30年(2018)人口動態統計月報年計(概数)の概況」によると、平成30年に亡くなった人の死因のランキングで。老衰が死因の第3位になったことが明らかになった。
昨年の4位からランクアップし、ついに3位になった老衰。寿命を全うし、自然に亡くなる人が増えるのはまことにめでたいことだ…。
老衰って何?
ところで、老衰って何だろう。
厚生労働省 平成31年度 死亡診断書(死体検案書)確定マニュアルによれば、死亡診断書(死体検案書)に書く老衰を「死因としての「老衰」は、高齢者で他に記載すべき死亡の原因がない、いわゆる自然死の場合のみ用います。」としている。
私が老衰で思い出す亡くなり方は、首相を務めた宮澤喜一氏の亡くなり方だ。
亡くなる日の朝まで新聞を読んでおり、気が付いたら亡くなっていたというエピソードを聞いたことがある。このように、少しずつ弱っていき、最後はスッと亡くなるのが老衰のイメージだろう。
病理解剖をすると…
しかし、私たち病理医が、そのような亡くなり方をした方を解剖させていただくと、何かしらの病気を見つけてしまうことが多い。
江崎らは、100歳以上の長寿者(百寿者)の病理解剖を検討したところ、解剖した42例すべてに死因として妥当な病気を見つけた 。敗血症16例、肺炎14例、窒息4例、心不全4例などだ。
もちろん、最後に高齢者を死に至らしめた病気には、免疫力の低下、消化管などの粘膜や末梢の血管がもろくなること、異物を食べて処理するマクロファージの働きが弱まったなどといった加齢が原因の状態が背景にある。
医者も迷う老衰
死亡診断書(死体検案書)マニュアルには続きがある。「ただし、老衰から他の病態を併発して死亡した場合は、医学的因果関係に従って記入することになります。」としている。老衰による誤嚥性肺炎と書いてもいいということだ。
しかし、背景に老衰があるか否かは、医師の判断によるわけだから、誤嚥性肺炎や窒息が死因になってしまうことだってありうる。
追記
不正確な表現だったので訂正する。現在死亡診断書に老衰による誤嚥性肺炎と書くと、老衰は無視して誤嚥性肺炎が死因となる。
誤嚥性肺炎と書かず老衰と書けば老衰死となるが、誤嚥性肺炎と書けば、老衰があろうがなかろうが誤嚥性肺炎となる。
老衰による死というのは、このように曖昧なのだ。だから医師も悩んでいる。
東埼玉病院内科・総合診療科・今永光彦氏は、老衰には4つの考え方があると指摘している。
- 医師が「老衰と考えられる臨床像」を各自で持っていること
- 医師が「老衰と診断することへの葛藤や不安」を抱えている
- 上級医や施設長ら他の医師が「老衰」と付けるのを見て「あ、老衰と付けていいのか」と考えるようになった
- 「家族との関わりの重視」
とくに4番目の家族との関わりについて、以下のように述べる。
このように、老衰による死の増加は、医師の考え方の違いや家族と医師の関係など、複雑な要素が絡み合って起きていることだということが分かる。
死を語ろう
老衰とは、医学的な死というより、社会的な考え方によるものだと言える。
つまり、医療者と社会が対話を重ねて老衰とは何かを決めていく必要があるということになる。
何が何でも死因を見つければよいわけではないし、かといって、老衰だからと放置してよいわけでもない。
今回の老衰死第3位の報道をきっかけに、老衰とは、死とは何か、人々が考えるきっかけになることを期待したい。