Yahoo!ニュース

江川さん「官」か「民」かの議論はもう古い! 災害ボランティアの組織・資格化を

木村正人在英国際ジャーナリスト
大きな被害を受けた熊本県益城町(4月15日)(写真:児玉千秋/アフロ)

「行政万能主義、ここに極まれり」は言い過ぎだ

熊本地震を受けて、エントリーされた兵庫県西宮市の今村岳司市長のブログ「被災地への支援は、行政ないしは信頼できる団体の要請を受けておこなうべきものです」が論議を引き起こしています。神戸新聞の木村信行編集委員が「行政万能主義、ここに極まれりの感がある」と批判したのが発端です。

今村市長のエントリーは「被災地の本音」を訴えているように筆者には感じられました。善意はありがたいけれど、善意だけで来られてもというのはその通りかもしれません。今村市長はこれまでメディアや議会への批判を繰り返し、取材者をビデオ撮影するなどして物議をかもしてきました。

神戸新聞から今村市長は「就任2年、目立った成果なし」とたたかれており、木村編集委員のコラムはその延長のようにも見えます。この問題について、著名ジャーナリストの江川紹子さんがYahoo!ニュース個人で「【災害支援】ボランティアは行政の下請けか?!」とエントリーしました。読んでいて、しっくり来ませんでした。

というのも今村市長は「行政」ないしは「信頼できる団体」ときちんと書いているからです。今村市長のエントリーには私たちがすぐにでも考えなければならない災害支援の重要なポイントが含まれています。災害に際し、被災地に何かを送りたい、ボランティアとして入って手伝いたいと思うことは大切な第一歩です。

しかし被災地のボランティア活動に参加する前に十分な準備が必要です。国連開発計画(UNDP)、セーブ・ザ・チルドレンなどを通じ中東・北アフリカで子供の支援に携わってきた支援活動のプロ、田邑恵子さんは「『官』か『民』かの議論はもう古い」と言います。

行政、ビジネス・コミュニティー、市民コミュニティーの役割

[田邑恵子]江川さんは「エイドワーカー」という単語を使われ、今村市長は「他、類する信頼できる団体」という表現を使われています。そして、お2人とも「現場のプロ」として経験も知識も有する団体(とそれに所属する個人)と「何ができるか分からないけれど、駆けつけたい、助けたいという気持ちを持った個人のボランティア」を明確に区別している立場には相違点がないのではないかと思われます。

今村市長が「現場のプロ」としてその実力を認めている団体を、江川さんは「エイドワーカー」と呼んでいます。その一方で「何ができるか分からないけれど、駆けつけたい、助けたいという気持ちを持った個人ボランティア」の中には、残念ながら「知識、経験のない観光気分のボランティア」が含まれることがあり、今村市長はこういった「観光気分のボランティア」は迷惑にしかならないと戒めています。

今村市長は「観光気分のボランティア」について語っているのであり、それは、江川さんの言う「被災地域外からのボランティア全員」とは、必ずしもイコールではないと読み取れるからです。

問題があるとすると、江川さんと神戸新聞の木村編集委員が「外からのボランティアは迷惑」=「民のボランティアは迷惑」=「民の団体すべて迷惑」=「行政万能主義」と理解してしまったことが双方の溝を広げた一因ではないかと思います。

今村市長は 「あらゆる支援」が自治体や国を通して行われるべき、とは言い切っていません。市長は「紹介と要請は、当事者である被災地行政が発信元となるべき」と述べています。

これには「行政には、自分たちの限界について判断できるだけの適正な判断能力があり、必要であれば、他の専門機関の助けを依頼することは厭わない。ただ、混乱を避けるためには、支援の要請、実施の窓口は一本化されるべきである」というニュアンスが含まれているように私には読み取れます。

今回の熊本地震では、調整機能の外からのソーシャルメディアの発信による功罪も浮き彫りになりました。地域の団体、あるいは被災された当事者からの要望は、きちんと統一した調整システムの中に反映され、その中で精査され、対応され、対応の善し悪しがきちんと評価されるようにならなければいけません。

熊本地震は、この調整機能がまだ確立されていないことを、改めて浮き彫りにしました。たまたま、この「システムの一元化」の方針と今村市長の「観光客気分のボランティアに対する嫌悪感」が同時に語られることによって、双方の溝が深まったのではないか?と考えます。

3次元論

長く支援の現場にいた者として、現場では「官」か「民」かという2次元論は、かなり昔に終焉していると感じています。それに代わり、「行政」と「企業などに代表されるビジネス・コミュニティー」と「市民、NGO/NPOなどの市民団体、報道機関などに代表される市民コミュニティー」の3者が、それぞれの特性を生かし、補完し合うように違った役目を果たすことが、最善の結果にたどり着くために求められていると思います。いわば、3次元論です。

画像

NGO/NPOなどの市民コミュニティーは、いわば、正三角形の「角の1つ」として独自に担う役割と行政にはない強みがあるという自負も、そこで働く人間として持っています。それは、公のサービスではこぼれ落ちてしまいがちな個別のニーズを拾い上げ、それを行政、ビジネス・コミュニティーに伝え、改善に向け協同すること、支援を受ける方々の声を聴くことで、新しい課題を発掘し、その解決を目指すことです。

そして、被災された方など「当事者」の声を代弁するに留まらず、当事者の方が発言しやすい環境を整え、その声を行政やビジネス・コミュニティーに直接届けるサポートを行うことです。

例えば、「反児童労働キャンペーン」などは、市民コミュニティーが、それまで問題とされてこなかった課題をあぶり出し、市民を動かし、世論を動かし、行政とビジネス・コミュニティーを動かした好例ではないかと思います。

「児童労働により生産された製品を作りません、販売しません」という考えは今日、まだ100%実現はしていないものの、企業においても、国の政策においても、目指すべき基準であるというコンセンサスを形成するに至りました。

また、ノーベル平和賞を受賞したマララさんは、NGOが代弁することなく、彼女の言葉で、彼女の意見を述べたことが、画期的であったと思います。また、彼女の行動は、同じような環境に生きる他の女の子たち、「もう1人のマララちゃんたち」が発言できるように大きく勇気づけました。

NGO/NPOの強み

NGO/NPOが持っている強み、特性にはどんなものが挙げられるでしょうか。

(1)地域、国を超えて蓄積された汎用性の高い知識や経験があること

(2)経験から導かれた最低限のルール・基準が導きだされていること

(3)行政よりも、小回りが効き、早期対応が可能なこと

(4)専門性が高く、特化した訓練、研修を受けたスタッフがいること

(5)チーム力、組織力を有し、機動力があること

(6)(現場に意思決定力があるため)現状に即した、臨機応変な対応がとれる可能性が高いこと

(7)評価を実施し、改善点を明らかにし、向上させるシステムがあること

などが挙げられます。

こういうノウハウがあるNGO/NPOは数多く存在します。その一方、国内においてはそのような団体の存在を知らず、一緒に働いたことのない地方自治体、社会福祉協議会、住民の方が多数派である地域も数多く存在します。

東日本被災地域もそうでした。「(東日本被災地では)海外での活動経験があるような専門性の高いNGO/NPOがボランティアの枠に入れられ、そのため素人的な形で行政から対応されて、初期段階で十分に力を発揮できなかった」(内閣府、防災ボランティア活動に関する論点集より)

「現場のプロ」団体の一員になろう

拙稿「ボランティアに行く前にできること」でも述べたように、「被災地のために何かしたい」と思うことはとても重要なことです。そして、被災された方を傷つけず、効果的に支援を行うためには、こういった個人の方が、直接現地に入るのではなく、地元の団体を調べ、自分の得意な事やスキルに応じた団体に所属し、そこで一緒に研修を積んだり、チーム力を高めたりすることで、より効果的な支援が可能となります。

また、現地に入る前の「事前研修」は制度化され、必須であると認識される必要があります。災害ボランティアの資格化が急務と考えられます。言わば、個人ボランティアではなく、「現場のプロ」団体の一員となることが求められます。

個人の方は、状況によっては、被災者になるかもしれませんし、NGO/NPOに所属するボランティアとして、支援をする側になるかもしれません。自分の地域を守るために身につけた知識、経験と組織で活動できる能力は、他の地域でボランティアとして活動する際に必ず役に立ちます。

地方自治体の職員の多くが参加する自治体大学などの防災研修のカリキュラム内容は、情報管理、災害対策本部の立ち上げ、防災訓練、要配慮者支援、インフラ復興整備、広域連携、避難所運営、関連団体との調整機能など、本当に多岐の項目を含みます。その反面、研修に参加する時間も人員も限られている上に、異動もあり、地方自治体職員の間には、特化された専門力は育ち辛いという構造上の問題があります。

NGO/NPOは、特化された分野の専門性の高いスタッフを有しますが、担当分野以外に関する見識は限定的です。また、被災をした地域に関する知識も限られています。だからこそ、この3者がそれぞれの強みを補完し合い、お互いに情報を交換し一緒に活動する体制を整えることが急務です。

東日本大震災で活動したボランティアは被災3県の災害ボランティアセンターで受け入れた人数が141万9千人(全国社会福祉協議会HP)、赤い羽根「災害ボランティア・NPO活動サポート基金」の助成を受けて活動した人数は約538万人。これ以外に、直接、個人のツテで活動をしたボランティアも相当数いると考えられています。活動する前にボランティアに研修の義務づけを行っていた団体は極めて一部しか存在しませんでした。

今回は、いち早く福岡市が、災害ボランティア派遣前講座を4月27日に実施しています。またいくつかの人道支援団体も、個人ボランティアあるいはボランティアを派遣する団体を対象に、急遽、研修を実施しました。

現地に行く前に考えて欲しいこと

私がいくつかの熊本地震の緊急エントリーを投稿したのは、熊本市などが個人ボランティアの受け入れをしますというニュースを知ったことがきっかけでした。「現地に行く前に、考えて欲しいこと。それは、身支度だけでは十分ではない」ということを広く知っていただきたかったからです。

江川さんの記事で紹介されている「全国災害ボランティア支援団体ネットワーク準備会」(JVOAD)は、今年2月に「災害時の連携を考える連携フォーラム」を主催し、400人を超える 地方自治体、民間企業、支援団体が一堂に集まり、広域調整や最低限の基準を満たす避難所運営などに関する分科会協議を2日間にわたって行いました(このような動きが本年2月になって初めて立ち上げられたという遅い開始であったことはとても残念ですが、少なくとも、スタート地点には立ちました)。

今後、JVOADあるいはジャパン・プラットフォーム(JPF)などの中間支援団体が中心となって、災害ボランティアの組織化、能力強化ついて制度化を進める体制が整うことを個人的には強く希望しています。

JVOADは、4月28日にボランティアとして参加することを検討する人が参考にできる包括的な資料の一覧を更新しています。ただ、残念なことに、折角まとめたこれらの情報を、被災地域外の個人の方、あるいは行政に向けて、積極的には広く発信されなかったのでは?という懸念もあります。

支援団体と報道機関との関係には、改善できるところも多く浮き彫りとなったと思います。

事前研修の受講を

私は大学生の時、札幌YMCAで子供さんと一緒に活動するボランティアとして4年間活動をしました。障害をお持ちのお子さんや友人との関係作りが苦手なお子さんと活動したり、自分たちで企画、立案をしたりするなど、様々な経験をさせていただきました。

ボランティア登録にあたっては、事前研修の受講が全員に義務づけられていました。研修内容は、子供たちの発達に関すること、緊急救命講習、障害のあるお子さんへの対応、グループワーク研修、プログラムの狙いと目標立案など、多岐にわたりました。全項目を履修して、初めて子供たちと一緒に活動を開始することができました。

それは、心身ともに発達段階にある子供と接する立場にあって、責任のある行動をとり、子供を不必要なリスクにさらさないためには、不可欠な研修であったと今でも、ありがたく思います。その後、所属した法務省の任意団体では、研修を全く受けずに、中学生のお子さんと接することになり、とても面食らったことを今でも覚えています。

災害発生時には、家族を失う、家財産を一瞬で失う、あるいは大切な人と連絡が取れないなど、普段の生活からは想像もできないような様々な辛い経験を多くの方がされておられます。

そんな思いをされた方にさらに追い討ちをかけるような支援とならないよう、「行政」「ビジネス・コミュニティー」そして「市民コミュニティー」が「被災された方に寄り添う支援とは何か?」について、真剣に議論を進め、早急に対応することが求められていると感じます。

次の災害は、明日来るかも知れないのです。

(おわり)

【熊本地震緊急エントリー】

報道とボランティアの皆さんも「心理的応急措置(PFA)」を忘れずに

非常用持ち出し袋には「心の栄養になるものを!」

「賢い」支援をするために 善意を届ける前に考えてほしいこと

なぜ日本の防災計画は「子供に優しくない」のか

女性が安心できる避難所を!

ボランティアに出かける前にできること

災害報道で浮き彫りになった報道機関と支援団体の「情報ギャップ」

田邑恵子(たむら・けいこ)

北海道生まれ。北海道大学法学部、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス大学院卒。国際協力の仕事に従事。開発援助や復興支援の仕事に15年ほど従事し、日本のNPO事務局、国際協力機構(JICA)、国連開発計画(UNDP)、セーブ・ザ・チルドレンなどで勤務。現在はフリーランスとして活動している。中東・北アフリカ地域で過ごした年数が多い。ブログ「シリアの食卓から」

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

木村正人の最近の記事