タリバンがCOP29にやって来た理由 彼らはトランプ次期米大統領より気候科学を信じている?
■アフガンの将来に関する国連主導の会議にも初参加
[バクー発]アゼルバイジャンの首都バクーで開かれている国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)のリーダーズサミットではジョー・バイデン米大統領ら西側首脳の欠席が目立つ中、アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権の代表団が初参加した。
タリバンは2021年、米軍のアフガン撤退に乗じて政権を奪取した。テロ組織との関係やイスラム法解釈に基づく女性の権利侵害を理由に国際社会からまだ承認されていないものの、中国やロシア、イラン、パキスタンなど十数カ国はタリバン暫定政権の外交官を受け入れている。
7月1日までの2日間、国連が主導してカタールで開かれたアフガンの将来に関する会議にタリバンが初参加。公式議題に女性の権利が含まれておらず、大きな批判を招いた。国連側は「女性の権利侵害が解消されない限り、タリバン暫定政権の承認はあり得ない」と強調した。
■タリバン代表団はオブザーバー止まり
COP29でタリバン暫定政権の代表団はオブザーバーの地位にとどまる。人権状況が改善されていないのにタリバンのCOP29参加を認める是非について、国際NGO「危機グループ」アジアプログラムのグレーム・スミス氏はドイツ国営の国際放送ドイチェ・ヴェレにこう話している。
「アフガンの少女と女性にとってもタリバンがCOP29に参加することは非常に重要だ。アフガンが気候資金へのアクセスを回復し、気候変動の恐ろしい影響に適応することはさらに重要だ。気候変動に脆弱なアフガンの干ばつや洪水は悪化の一途をたどっている」
スミス氏によると、今年だけでもアフガンでは異常気象のために何万人もの人々が避難している。農業を営むことはますます難しくなっている。農業は家庭以外で女性が携われる最大の仕事である。干ばつによる栄養失調で多くの少女たちが命を落としているという。
■タリバンは驚くべき前進を遂げた
「タリバン暫定政権を含むすべての国をCOPに参加させることは倫理的に不可欠だ。タリバンはわずかな予算を大規模な水インフラ整備に費やしており、驚くべき前進を遂げている。彼らは気候科学を否定していない。タリバンは環境保護者を自任している」とスミス氏は言う。
化石燃料産業の利益を優先し、再び米国をパリ協定から離脱させるドナルド・トランプ次期米大統領。温暖化の責めを負う先進国が途上国のためにどれだけ気候資金を提供できるかが焦点のCOP29をフランス、ドイツ、欧州連合(EU)首脳は欠席し、本気度が問われている。
パリ協定の立役者フランスの不在はアゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領がフランス領ポリネシアとアルジェリアでの核実験を引き合いにフランスが環境を悪化させたと非難したことが発端だ。フランスがアルメニアを外交・軍事支援をしたことにアリエフ氏は激怒している。
■1950年以降、アフガンの平均気温は1.8度上昇
1950年以降、アフガンの平均気温は摂氏1.8度上昇した。アフガンの気候は干ばつと洪水の繰り返しが特徴だ。干ばつと洪水のサイクルをモデル化した危機グループによると、1990年以降、降雨の過不足は激しさを増し、より広い地域に長期間にわたって影響を及ぼしている。
今年、アフガンの子どもたち約650万人、すなわち10人のうち3人近くが危機的なレベルの飢餓に見舞われると国際人道支援組織「セーブ・ザ・チルドレン」が報告している。さらに人口の28%、約1240万人が深刻な食糧不安に直面するとの予測もある。
アフガンで医療や用水路の整備など人道支援に尽くした医師、中村哲さんが73歳で凶弾に倒れてから間もなく5年になる。地球が一丸となって気候変動に取り組まなければならない時に西側では温暖化懐疑主義者が復権し、権威主義が台頭する国際社会は南北に分裂している。