北朝鮮の大陸間弾道ミサイルはロシア製そっくり 金正恩とプーチンの蜜月がもたらす恐怖
■最高高度は過去最高で約7000キロメートル超
[ロンドン発]北朝鮮は日本時間の10月31日午前7時11分ごろ、平壌近郊から少なくとも1発の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を北東方向に向け発射した。ミサイルは過去最長の約86分飛び、北海道奥尻島の西方約200キロメートルの日本海に落下したと推定される。
防衛省によると、落下地点は排他的経済水域(EEZ)外。飛翔距離は約1000キロメートル、最高高度は過去最高で約7000キロメートルを超えるとみられる。石破茂首相は国民への迅速・的確な情報提供や航空機・船舶の安全確認、不測の事態に備え万全の態勢をとることを指示した。
中谷元防衛相は「わが国と国際社会の平和と安全を脅かすもので断じて容認できない。米韓と連携しながら必要な情報収集をし、警戒監視に万全を期す」と述べた。日本では総選挙で自公が過半数割れを喫し、米国では11月5日の大統領選が迫る中、朝鮮半島の緊張は高まっている。
■武器としてのICBM開発にはまだ時間がかかる
韓国のハンギョレ新聞によると、韓国合同参謀本部は「北朝鮮の弾道ミサイルは高角度で発射された長距離弾道ミサイル(ICBM)」と推定している。高角度発射とは飛翔距離をわざと短くするため通常の30~45度の発射角度ではなく、直角に近い角度で発射する方式のことだ。
韓国国防部は「ICBM弾頭の大気圏再突入技術は高角度発射ではなく通常軌道で撃った時に検証できる」と、北朝鮮が使える武器としてのICBM開発に成功するにはまだ時間がかかるとみている。北朝鮮のICBM発射は昨年12月18日に火星18型を発射してから10カ月ぶりだ。
北朝鮮は昨年5回、ICBMを発射している。火星18型は昨年4月13日、7月12日、12月18日の3回発射されたことが確認されており、飛翔距離はいずれも今回と同じ1000キロメートルだが、最高高度は3000キロメートルから6600キロメートル超に向上していた。
■火星18型はロシアのICBMとほぼ同じ
米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)の分析機関ビヨンド・パラレルは昨年8月、火星18型の発射成功はロシアに提供された技術協力の結果である可能性が高いとの報告を掲載した。北朝鮮とロシアはウクライナ戦争で一気に軍事協力を深めている。
分析したのは戦略核に関する米海軍作戦本部長の科学・政策顧問だったセオドア・ポストル・マサチューセッツ工科大学名誉教授(科学・技術・国家安全保障政策)。これまでの液体燃料ICBMと異なり、固体燃料の火星18型が水平エンジン試験のわずか数カ月後に発射された。
火星18型は大陸間を飛び、しかも相当量のペイロードを運搬できることを実証した。このような高度な能力の突然の出現はロシア政府とその科学者の協力なしには説明が難しい。火星18型の設計、サイズと飛行軌道データはロシアのICBM『RS-24 ヤルス』とほぼ同じだという。
■戦闘地域への兵士派遣でルビコン川を渡った金正恩
「火星18型は米国のミサイル防衛を貫通し、複数の核兵器を米国本土の標的に運搬できる。火星18型ミサイル部隊は、米国がドローン(無人航空機)のよる迎撃を含むミサイル防衛のアップデートを検討することを迫っている」(ポストル名誉教授)
液体燃料と違って、固体燃料ならICBMの発射地点を移動させやすい。偵察衛星を使っても早期に探知するのが格段に難しくなる。
10月30日、韓国軍事情報機関は国会議員に「北朝鮮が2017年以来7回目の核実験の準備を終え、米国に到達可能な長距離ミサイルの発射実験に近づいている」と説明。ロシアに1万1000人の北朝鮮軍が派遣され、うち3000人以上がロシア西部の戦闘地域に移動しているという。
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記はICBMや原子力潜水艦の戦力構築を目指す。北朝鮮の核兵器開発に反対してきたロシアのウラジーミル・プーチン大統領だが、ウクライナ戦争をきっかけに北朝鮮から武器弾薬の提供を受け「国防・技術分野における協力がさらに発展する可能性を排除しない」と方針を転換した。
ウクライナ戦争への兵士派遣でルビコン川を渡った金正恩がプーチンから核兵器やミサイルのノウハウを手に入れれば、朝鮮半島は危険水域に突入する。北朝鮮は米大統領選の年には必ず核実験やミサイル発射の瀬戸際戦略を繰り返してきた。
それともプーチンの技術供与で米国本土に核ミサイルを撃ち込む本格的な能力を獲得しつつある金正恩は本気で韓国への侵略戦争に備えているのだろうか。