熊本地震 非常用持ち出し袋には「心の栄養になるものを!」
NHKによると、14日から熊本県や大分県で続いている地震で、熊本県で死亡した人は41人にのぼり、半数近い20人が押し潰された「圧死」で、11人が「窒息」か、その疑いがあるケースだったそうです。被災者の皆様へのお見舞いと、亡くなられた方々へのご冥福をお祈りいたします。
熊本県の災害対策本部の発表では負傷者は1037人。このうち重傷が202人。熊本県内では855カ所の避難所に約18万4千人が避難しています。大分県内でも一時、1万5千人余りが避難しました。皆さんは非常用持ち出し袋を用意されていますか。中にはどんな物を入れておられますか。
国際協力機構(JICA)、国連開発計画(UNDP)、セーブ・ザ・チルドレンを通じて中東・北アフリカで子供の支援活動に携わってきた田邑恵子さんは日本での非常用持ち出し袋の中身が気になるそうです。経済大国・日本の非常用持ち出し袋は「ハイスペック」だが、心と子供たちへの配慮が十分ではないと指摘しています。
[田邑恵子]仕事柄、非常用持出し袋の中にどんな物が入っているのかをいつも気をつけて観察している。日本の防災フェアなどにて販売されている非常用持出し袋の特徴を要約すると「高スペック、ハイテク、便利。でも、長くなる避難所生活が考えられていない 」というのが私の意見だ。
みんな「非常」のところばかりを考えているからだ。今言われているのは、公の支援が届くようになるまでの最初の72時間をやりくりできるだけの水や食料を用意するようにというのが中心だ。しかし万人にフィットするのはなくて、家族構成や非常用持ち出し袋をどこに置くかでもちろん中身だって違ってくる。
乳幼児がいる家庭では食べ物にも特別の配慮がいるし、高齢者だと、エナジーバーなどは固すぎて食べることができない。それよりは離乳食のように柔らかいご飯の方がいい。
小さいお子さんがいる家庭では、 絵本やお気に入りのおもちゃを入れておくことをおススメしている。避難所生活は長くなることもあるから、見知らぬ環境下で生活したり眠ったりしなくてはならない子どもさんには、いつもの慣れ親しんだ絵本やぬいぐるみがあることがどれほど心の支えになるか。
スペースが許せば小型クレヨンなども。絵本などは、避難所で「図書スペース」などを作って、他のご家庭と貸し借りしたり、共有したりすることができれば尚、良いだろう。
海外の紛争地や災害地にて配布する子ども向けキットでは、同じ絵本で揃えるのではなく、わざと3~5種類くらいの違った絵本が入るようなキットを配布する。全員が同じ絵本を持っているよりも、皆で貸し借りできる種類が大きくなるように、また、貸し借りを通じて、子供の間のコミュニケーションが増えるのを願ってのことだ。
大変なパニックの直後には、心に作用するものがある方がいい
子どもなら、絵本やぬいぐるみ。スペースが許せば小型クレヨンなど、色が綺麗で、遊べて、心を癒してくれるもの。
そして、今回の熊本地震のように余震の恐れがある場合は、家の片付けに向かうこともできず、長い時間を避難所にて待機して過ごすことになる。子ども達には「日常を取り戻す時間」が重要だ。大人が面倒を見なくても自分たちで勉強、遊ぶことができるように自習用のドリル、絵本、クレヨン、ぬいぐるみなどがあるといい。
学校が閉鎖されている間、 避難所での1日は長くて、つまらなくて、不安がたくさんだ。そういう時には、できるだけ、日常のルーティンを確立させる方がいい。いつも使っている自習用の「勉強ドリル」(国語、算数、理科など)があると、学校に行けない期間があっても、勉強するという習慣を取り戻し、心を落ち着ける時間が取れるのでおススメだ。
また、親が相手をしなくてもいいので、避難所運営の仕事にかり出された時や配給の列に並ばなくてはならない時も、子ども達だけで静かに勉強、遊ぶことができる。
「心が美味しい」と思えるものを!
そして、非常食には必ずお菓子を入れておくことを強くおススメしている。エナジーバーもいいのだけれど、追加で一口羊羹とかチョコ、キャラメルなどの甘い物を入れておくのがいい。なぜなら、人間の脳は砂糖を摂取するとストレスが減り、リラックスできるように出来ているから。
ケーキを食べて嬉しくなるのは、もちろん味がおいしいとか、見た目が綺麗とかもあるけれど、砂糖が影響しているところ大なのだ。でも、ちまたで売っている防災関係の本には、味気ないものばかりに言及した例が多く、心を躍らされるようなアイテムが入っていることは少ない。
東日本大震災の被災地・宮城県石巻市の避難所はもともと地域の集会所で、文化教室なんかをやっていて、その時の残りの羊羹が戸棚に残されていたそうだ。 それを全員に行き渡るように小さく切り分けたそうだ。とても小さい一切れだったけど、それを食べたことで、皆ちょっと心が落ち着いたというお話だった。
大変なパニックの直後には、栄養価だけの問題じゃなくて、心に作用するものがある方がいい。そして、こう言った「心が美味しい」と思えるものがあることが、ストレスが著しく増えている緊急時にはとても有効なのだ。
セーブ・ザ・チルドレンの「子どもに優しい持ち出し袋」の例。年齢、性別を問わず遊べるように折り紙とカードゲームのUNOが入っている。
寒さ対策を
暑い夏の数カ月を除いて、寒さ対策も重要だ。特に今回の地震のように、余震を恐れて屋外で眠る人々にとっては、寒さをどう防ぐかが更に重要になる。九州だって夜間は冷え込む。
金属製のレスキューシートは普及したし、避難所には毛布の提供もある。だが、高齢者の方などは体温が低いために「被るだけ」では寒さの解消が難しい。小さくてもいいので、湯たんぽが一つあると、皆で回して使うこともできる。
あるいは、お湯が確保できるのであれば、電気ポットなどで沸かした水を丈夫なペットボトル(ホット飲料用など)に入れ、それを太ももの間など、太い血管が走っているあたりに挟むと、温かい血液が体中を巡るので、短時間で体を温めることができる。(低温火傷には気をつけて!)
避難所に欠けているのは野菜、果物
そして、日本がいかに防災王国だとしても、現実には長い避難所暮らしが待っている。避難所の食生活で欠けるのは新鮮な野菜と果物だ。NHKのリポートでは、東日本大震災発生後、2カ月たっても、避難所で配布されていたのはおにぎりとツナ缶などに過ぎず、圧倒的に野菜、果物不足だった。食生活の偏りは体調不良を招くことになる。
配給される食事は基本的に炭水化物が中心で、野菜は含まれないということを考えてパッキングしておくといい。おススメなのは、乾燥野菜だ。若干かさばるけれども、軽い。お味噌汁に放つと野菜の補給ができる。あるいは、ポリ袋に水と漬け物の素と一緒に入れ、揉むとお漬け物ができる。
「公助」(公的機関によって提供される援助)が提供してくるのは、基本的には「最低限」と思って用意をして欲しい。そのためには、何が、ご自分の、あるいはお子さんの「心の栄養」になるのかを知っておくのが大切だ。
私の場合、ヨガマットなんだけど、大き過ぎるかなー。でも避難所で寝たり、休憩したりするにもいいから、ケースに入れて背負って行くか。避難所でヨガ教室の先生になるのも、皆さんのストレス発散と不眠対策になっていいかもしれない。
各関連機関の非常時持ち出し袋のページを確かめてみた。残念ながら、子供用グッズに関する記述はなかった。
(おわり)
【熊本地震緊急エントリー】
報道とボランティアの皆さんも「心理的応急措置(PFA)」を忘れずに
田邑恵子(たむら・けいこ)
北海道生まれ。北海道大学法学部、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス大学院卒。国際協力の仕事に従事。開発援助や復興支援の仕事に15年ほど従事し、日本のNPO事務局、国際協力機構(JICA)、国連開発計画(UNDP)、セーブ・ザ・チルドレンなどで勤務。現在はフリーランスとして活動している。中東・北アフリカ地域で過ごした年数が多い。