Yahoo!ニュース

熊本地震 報道とボランティアの皆さんも「心理的応急措置(PFA)」を忘れずに

木村正人在英国際ジャーナリスト
熊本で震度7の地震 気象庁が記者会見(写真:REX FEATURES/アフロ)

14日以降続いている熊本県や大分県の地震で死者は29人、避難者は最大で7万4千人にのぼったそうです。熊本県南阿蘇村では道路が寸断され、約1千人が孤立しています。被災地では懸命の救出作業が続いています。被害にあわれた方々に心からのお見舞いを申し上げます。

中東・北アフリカで子供の支援活動に携わってきた田邑恵子さんが、被災地に入る前に報道関係者やボランティアの皆さんに是非、知っておいてほしいと、子供たちのための国際援助団体「セーブ・ザ・チルドレン」のリンクを送ってきてくれました。

シリア難民と東日本大震災の被災者と接してきた恵子さんは、仕事や故郷を失い、「顔も、名前も持たない難民」になってしまったシリアの人々と、震災で家財道具や社会的な立場をすべて失った被災者の間に共通した喪失感を見たといいます。

「そんな彼ら1人ひとりの顔を見て、『自分』を取り戻せるような対応をわれわれは今、しているのだろうか? それとも、彼らの『顔』を奪うことに加担しているのだろうか?」と恵子さんは自問自答しています。

被災した子供たちが示すストレス反応

セーブ・ザ・チルドレンのホームページによると、災害に見舞われ、ストレスを感じている子供たちは次のような反応を見せることが多いそうです。

・また同じことが起きるのではという不安感を示す

・自分自身が傷ついたり、大切な人と離れ離れになったりするのではないかという不安に苛まれる

・破壊された自分たちの町や村を見て反応を示す

・家族や兄弟と離れることに反応する

・眠れなくなる、泣く

また、ストレスの兆候は次のような状態だそうです。

・震え、頭痛、食欲不振、痛みなど

・よく泣く

・パニックになる、混乱している

・たたく、蹴る、かむなど他者を傷つけようとする

・両親や育ての親から離れない

・動かない、引きこもる

・隠れたり、恥ずかしがったりする

・話さない、怖がる

こうした反応を強く示す子供の場合、両親や育ての親と離れ離れになっている、親しい人などが負傷するところを目撃した、自分自身が負傷している、両親や育ての親が悲しんだり不安を覚えたりしているのに影響を受けている、周りの人が死んだのに自分が生き延びたことに罪悪感を抱いていることが多いそうです。

サイコロジカル・ファーストエイド

専門家だけでなく、報道関係者もボランティアの皆さんにも、苦しんでいる人、助けが必要かもしれない人に人間として行う人道的で助けになる対応「サイコロジカル・ファーストエイド(心理的応急措置、PFA)」が求められています。世界保健機関(WHO)の資料によると、PFAとは次のような対応です。

・押し付けずに実際に役に立つケアや支援を提供する

・必要なことや心配事を確認する

・生きていくために必要な食料や水、情報を提供する

・無理強いをせずに、話を聞く

・安心をさせる

・情報やサービス、社会支援を得る手助けをする

・新たな危害を被らないように守る

PFAの行動原則は見る、聞く、つなぐという3つからなっています。

【見る】

・安全確認

・食料や水など明らかに急を要する人を確認する

・深刻なストレスを示す人を確認する

【聞く】

・支援が必要と思われる人々に寄り添う

・何が必要か、気がかりなことについて尋ねる

・人の話に耳を傾け、気持ちを落ち着かせる

【つなぐ】

・生きるために必要は食料、水、情報、サービスが受けられるようにする

・自分で問題に対処できるように支援する

・情報を提供する

・大切な人や社会的支援に結びつける

報道関係者もボランティアの皆さんも、大きな痛手を被っている被災者をさらに傷つけることだけは避けなければなりません。

・信頼されるように誠実に接しましょう

・被災者が自分で意思決定する権利を尊重しましょう

・あなた自身の偏見や先入観にとらわれないようにしましょう

・あとになっても支援を受けられることをはっきりと伝えましょう

・時と場合に応じて、相手のプライバシーを守りましょう

・相手の文化、年齢、性別を考えてそれにふさわしい行動をしましょう

ギリシャで孤立する「難民孤児」

ロンドンを拠点に活動している筆者は昨年9月と今年3月、トルコ、ギリシャ、セルビア、クロアチア、ハンガリーなどで難民を取材する機会がありました。無邪気な子供たちの表情に救われる思いがする一方で、カメラのレンズを通してその一部を切り取って伝えていることに罪の意識を感じることもあります。

線路に独りぼっちで座る難民の少年(3月、イドメニで筆者撮影)
線路に独りぼっちで座る難民の少年(3月、イドメニで筆者撮影)

3月20日以降、欧州連合(EU)とトルコが同国からEU域内に入った難民はすべてトルコに強制送還すると決めてから、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、5万3666人がギリシャの島々や本土の難民キャンプで足止めを食らっています。

特にギリシャ最北端でマケドニア国境が封鎖され、キャンプ生活を強いられている子供たちの姿には胸が痛みました。セーブ・ザ・チルドレンによると、子供の難民全体の75%に当たる2千人がいわゆる「難民孤児」だそうです。

寝台列車の中で暮らす難民の少年(3月、イドメニで筆者撮影)
寝台列車の中で暮らす難民の少年(3月、イドメニで筆者撮影)

報道の仕事はそこに行かなければ決して届けられることのない声を発信することです。現場ではできるだけ時間をかけて話を聞くようにしています。何を伝えるべきか、取材に応じてくれる人々がどういう言葉や声を届けてほしいと思っているかを考えながら取材していますが、人間として振る舞うこと、相手をさらに傷つけることは絶対に避けることをもっと徹底していきたいと思います。

(おわり)

【熊本地震緊急エントリー】

非常用持ち出し袋には「心の栄養になるものを!」

「賢い」支援をするために 善意を届ける前に考えてほしいこと

なぜ日本の防災計画は「子供に優しくない」のか

「女性が安心できる避難所を!」

ボランティアに出かける前にできること

参考:災害時こころの情報支援センター

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

木村正人の最近の記事