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カナダ発の森林火災の煙がヨーロッパに到達 赤くなる夕陽

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
NASA出典の27日の衛星画像に筆者加工

「ここ数時間の間に、カナダの森林火災由来の煙雲が、ポルトガル全土を覆った」

現地時間27日(月)、ポルトガル海洋気象庁がこう発表しました。

上のNASAの衛星画像からも、その様子がしっかり分かります。茶色い煙が大西洋を越え、ポルトガル本土全域に到達、さらに隣国のスペインやフランスにも達しているのが見えます。

九州2個分が焼けたカナダ

煙の源となっているカナダでは、記録的な森林火災が起きています。特に東部ケベック州の森林では、現在100か所以上で火災が発生しています。

今年カナダでは、国土の東から西まで非常に多くの森林火災が起きていて、1月1日から数えると3,000件に上ります。これまでのところ、九州2個分の面積よりも広い、78,000平方キロが燃えてしまいました。

その結果、火災によって放出された炭素排出量は、2003年の統計開始以降でもっとも多くなったと、欧州の研究所は発表しました。森林火災のピークは毎年7月頃であることを考えても、この記録はとんでもないことです。

火星化したニューヨーク

カナダの煙がニューヨーク中心部を覆ったというニュースは記憶に新しい所です。

6月初め、ニューヨークは突如としてオレンジ色の空気に包まれ、「まるで火星になってしまった」とか、「映画『ブレードランナー2049』状態だ」などと騒がれました。

大気汚染レベルも世界最悪となって、この大都市の人々は、パンデミック以来ご無沙汰していたマスク生活を強いられました。

ただ、今回ヨーロッパに到達した煙の微粒子は細かいために、上空に留まる見込みです。ニューヨークのように人々の健康に害をもたらす危険性は少ないようです。

その代わり、煙に含まれる微粒子が太陽光をより反射させて、美しい朝焼けや夕焼けを演出することが期待されています。

オレンジ色の空気に包まれた6月上旬のニューヨーク
オレンジ色の空気に包まれた6月上旬のニューヨーク写真:ロイター/アフロ

夕陽を明るくする別の理由

山火事以外にも、美しい夕焼けを演出する原因があります。それは火山の噴火です。噴火によって放出された微粒子は、同じように夕焼けや朝焼けを赤く染めます。

1883年にインドネシアのクラカタウ火山が大噴火した際には、その微粒子が地球を半周して、北欧の人々の口をあんぐりさせるほどの美しい夕焼けを作りました。

かの有名な絵画、ムンクの『叫び』の真っ赤な背景は、この時の赤い夕焼けからインスピレーションを得て描かれたという説もあります。

2011年当時史上最高の96億円で落札された、ムンクの『叫び』
2011年当時史上最高の96億円で落札された、ムンクの『叫び』写真:ロイター/アフロ

また風景画で知られるターナーは、1815年に起きたタンボラ火山の噴火が作り出した鮮やかなイギリスの空を何枚もの絵に描いていた、ともいわれています。

森林火災や火山噴火は、近所で起これば悩ましいですが、遠く離れた人々の心を感動させる効果もあるようです。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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