台風10号「トカゲ」が日本の東を北上中 日本が命名した星座の名前は12で2つ引退
台風10号の北上
令和4年(2022年)の台風10号が日本の東を北上しています。
台風10号はこのまま北上を続け、8月26日には千島の東で温帯低気圧に変わる見込みです(図1)。
台風10号に関する各種情報は、最新のものをお使いください。
日本列島から離れての北上で、しかも海面水温が台風が発達する目安の27度より低い海域を通りますので、台風としては発達しない見込みです。
しかし、これから台風10号からのうねりが入ってくる北日本の太平洋側では高い波に注意が必要です(図2)。
また、フィリピンから南シナ海を台風9号が北西進しており、このまま北西進を続け、8月27日には華南で熱帯低気圧に変わる見込みです(図3)。
台風9号は、日本から離れていますが、沖縄県先島諸島では、台風9号からのうねりが入ってきますので、高い波に注意が必要です。
暖湿気流の流入
令和4年の夏は、太平洋高気圧の勢力が弱く、例年のように日本列島を広くおおうことはほとんどありませんでした。
そうかといって、オホーツク海高気圧が強くて寒気が南下しやすい訳でもなく、日本付近は暖かくて湿った空気の流入が続いています。
そして、強い日射と、ときおり南下してくるちょっとした寒気があると、大気が不安定となって積乱雲が発達し、局地的な豪雨と落雷などの発生が続いています。
台風10号が過ぎ去っても、この状況は変わらない見込みです(図4)。
予想天気図では、日本付近にははっきりした高気圧や低気圧がなく、中国地方に上空に寒気が入っていることに対応している小さな低気圧があるだけです。
暑くて、大気不安定による局地的豪雨が多い夏はしばらく続きそうです
台風に名前をつける
日本の東を北上中の台風10号には日本が命名した「トカゲ(意味は星座のとかげ座)」というアジア名がついており、フィリピンから南シナ海を西進中の台風9号には香港が命名した「マーゴン(意味は山の名前)」というアジア名がついています。
何時から台風に名前をつけたのかということははっきりしていませんが、アメリカ軍が戦闘作戦中に台風に巻き込まれて多くの被害を出し、飛行機による台風観測を始めた昭和20年(1945年)からと思います。
サイパンを基地に、日本各地を爆撃していたB-29戦略爆撃機の部隊の隊員が、戦後、「台風の名前は、遠く離れた故郷の妻や娘の名前をつけた」と話していたという随筆を読んだことがあります。
ただ、アメリカが台風に名前を正式につけたのははっきりしています。昭和22年(1947年)からです。
戦後、日本に進駐したアメリカ空軍は、昭和22年(1947年)からはアルファベット順の女性名の表を作り、中央気象台(現在の気象庁)に対して協議をして台風予報を行うように要請しています(事実上は命令)。
このため、日本でも昭和22年(1947年)から女性名が使われ、この年のカスリーン台風(Kathleen)の大災害で国民に浸透しました。
日本が独立した昭和28年(1953年)からは主に台風番号が使われ、船舶向けの情報など、一部の情報以外では台風の名前(アメリカが命名した女性名)が使われなくなります。
多くの日本人に戦後女性が強くなったと感じさせた台風の女性名ですが、ウーマンリブ運動が盛んになると、災害というマイナスイメージに女性名のみを使うのは不公平ということになりました。このため、アメリカでは世界中の熱帯低気圧の名前(台風を含む)については、昭和54年(1979年)以降は男女名交互の表に変えています。
そして、平成12年(2000年)からは、台風名は、アメリカの表からアジア各国が作った表に変わりました。
台風のアジア名
アジア各国から「なじみの深いアジアの言葉のほうが防災意識も向上する」という意見が出てきたことから、国連アジア太平洋経済社会委員会と世界気象機関で組織する「台風委員会」の加盟14か国・領域(アルファベット順に、カンボジア・中国・朝鮮民主主義人民共和国・香港・日本・ラオス・マカオ・マレーシア・ミクロネシア・フィリピン・韓国・タイ・アメリカ・ベトナム)は、他の国にとって不愉快な意味となる言葉や、発音しにくい名前を避けたうえで、おのおの10個、合計140個の名前からなる表を作りました。
これが台風のアジア名です。
台風委員会にアメリカが入っているのは、グアム・サイパンがアメリカ領であるからです。また、香港とマカオが入っているのは、中国返還前から台風委員会に加盟していた名残です。
日本は船乗りが昔から関心を持つ星座名を10個提案しました(表)。
ただ、台風が人命や経済に甚大な影響を与え、将来に記憶を伝えたい場合に、加盟国からの申請(加盟国の国内事情)によって引退が決まり、以後、台風にはこの名前がつきません。
引退するアジア名は、ほぼ1年に1個の割合で、多くは、中国やフィリピンでの大災害によってです。
日本が提案した名前も、平成23年(2011年)台風21号「ワシ」がフィリピンで大雨によって鉄砲水や土砂崩れ、洪水が相次き、死者・行方不明者約1600人という大惨事を発生させたことから「ワシ」が引退し、「ハト」に変わっています。
また、平成27年(2015年)台風24号「コップ」がフィリピンで死者・行方不明者52人、住宅被害14万棟、被災者312万人という大きな被害を発生させたことから「コップ」が引退し、「コグマ」に変わっています。
日本では台風の人的被害が減っていますが、東アジアでは相変わらず惨事が続いています。
日本の国際貢献として、日本が克服した災害のノウハウが求められています。
図1、図2、図3の出典:ウェザーマップ提供。
図4の出典:気象庁ホームページ。
表の出典:気象庁資料より筆者作成。