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50代男性が大後悔、介護が始まってからでは遅い GW帰省時に「実家の親」に聞いておきたいこと

太田差惠子介護・暮らしジャーナリスト
(提供:イメージマート)

 いまは元気な親も、前触れもなく”介護”がやってくることがあります。子は慌てふためくことになりますが、事前にいくつかのことを知っているだけで、負担はずいぶん軽減します。GW帰省で、実家の親に聞いておきませんか。

実家の親が倒れた!何もわからない

 カズオさん(50代・東京)の父親(80代)は四国の実家で1人暮らし。母親はカズオさんが大学生だったころに、病気で亡くなりました。カズオさんは東京の大学に通い、その後も東京で就職。実家には、盆正月に帰省するくらいでした。

 父親は79歳のとき、突然倒れました。脳梗塞でした。命は助かりましたが、誤嚥性肺炎を繰り返したため、胃ろうを造設(口からの食事が難しい場合に、腹部に小さな穴を開け、チューブを通し、直接胃に栄養を注入)。

 その後、脳梗塞を再発し、認知症は進み、現在は寝たきりで療養型の病院に入院しています。

「元気な父だったので、こんなことになるとは思いませんでした。別居して長いので、父のことが何も分からず、困り果てました」とカズオさんは言います。

 まず、困ったのが入院費の支払い。実家の"家探し"をしたところ、父親の通帳と印鑑は出てきました。しかし、父親は委任状を書けるような状態ではなかったため、お金をおろすことはできませんでした。通帳が複数出てきて、その中には証券会社のものもあったそうです。「問い合わせても、本人確認が厳しいんです。結局、父が亡くなるまで、父のお金を使えないんですね。僕が立て替え続けています。ほんとに、厳しいですよ」。

 頭を抱えたのは、お金のことだけではありません。医師から「胃ろうの造設」を提案された際、カズオさんの妹は大反対しました。「でも、医者に造設しなければどうなるかと聞くと、『餓死』の状態になると……。そんなこと、できないでしょ。妹の反対を押し切り、僕の判断で医師にお願いしました。その後、妹との関係はぎくしゃくしています。でも、今となってはあの選択が良かったのかどうか。食べることが好きだった父は、こんなまでして生きていたいと思っているのか……」。

元気だからこそ聞けること

 親を看取った人に「聞いておけばよかったことは何か」と尋ねると、「延命治療の希望有無」と答える人が少なくありません。聞いていなかったために、どうしてあげればいいか分からなかった、と……。

「元気な親に縁起でもない話をできない」と思いがちですが、弱って床に臥せると、「延命どうする?」などと聞けるものではありません。元気なときだからこそ聞けるのです。カズオさんの父親のように、“その時”になると、心身機能の低下により、聞くことさえかなわない場合もあります。

聞いておきたい親の希望

 親が元気なうちに下記3点を聞いておきましょう。新年の挨拶から始まる正月帰省では、それこそ縁起でもない、と話すタイミングを見つけにくいので、GW帰省はチャンスです。

1. 身体の自由がきかなくなったら、どこで暮らしたいか。

2. 誰から介護を受けたいか。

3. 延命措置を受けたいか。

 1については、「できる限り、自宅で暮らしたい」と答える親が大半だと思います。その場合、もう1歩踏み込み「それが難しくなったら?」と確認を。2に関係しますが、「ホームヘルパーに来てもらって自宅で」と言う親、「どうしても難しくなったら施設に入れてくれ」と言う親が多いと思います。

 なかには、「おまえがこっちに戻ってきて、介護をしてくれ」と言う親もいるかもしれません。難しい場合は「それはできない」と言って、折衷案を探しましょう。これも、相手が元気だから「できない」と言えるのです。

 そして、万が一の場合、延命措置を希望するかどうかについても……。

親の希望を実現するための算段を確認

 親の希望がみえてきたら、「それを実現するために、どのお金を使えばいいか」と聞きましょう。そのお金の引き出し方も。

 多くの子世代がおこなっているのは、年金の入る口座のキャッシュカードの暗証番号を聞いておくこと。それを知っていれば、毎月、年金収入の範囲で引き出し、親のために使うことができます。

 親が暗証番号を教えることに躊躇するようなら、「どこか分かるところに書いておいて」と言いましょう。

 金融機関によっては、“代理人指定”をしておけたり、2枚目のキャッシュカードである“代理人カード”を作成できたりするところもあります。ただし、親本人が窓口に行き、親の意思で手続きを行う必要があります。

 もしかすると、「いざとなったら、この自宅を売って、施設に入れてくれ」という親もいるかもしれません。けれども、親の判断力が低下してから、子が親の自宅を売却するというのは難しいでしょう。ここでは詳しい説明は省きますが、実現するためには“任意後見制度”や“家族信託”を利用するなど、いまから準備をしておく必要があります。

親の経済状態の全体像を把握する

 親子とはいえ、お金の話はしづらいものです。けれども、カズオさんの二の舞にならないよう、親の希望と、それを実現するためのお金の管理方法を知ることは大事。話し合うなかで、親の経済状況の全体像も把握したいものです。

 例えば、【蓄え2000万円、月々の年金20万円】の親と、【蓄え0円、月々の年金6万円】の親では、介護が必要になった際に選べるプランは大きく違ってきます。望んでも、できること、できないことがあります。

1. 月々の年金額

2. 預貯金など蓄えのおおまかな額

3. 民間の医療保険や生命保険

4. 不動産

5. ローン、負債

 仕事でも予算ありきのように、介護でも予算ありきの面があります。予算以上のことをしようとすれば、子に経済的な負担がまわってきます(いずれ、子にも老後は来るので、自分の老後資金を残しておかなければ!)。

 一度には難しいかもしれませんが、少しずつでもこのあたりについて知っておきたいものです。親に少しでも穏やかな晩年を迎えてもらい、それと共に、自分自身を守ることにつながります。

 GWに一歩を踏み出してみませんか。

介護・暮らしジャーナリスト

京都市生まれ。1993年頃より老親介護の現場を取材。「遠距離介護」「高齢者住宅」「仕事と介護の両立」などの情報を発信。AFP(日本FP協会)の資格も持ち「介護とお金」にも詳しい。一方、1996年遠距離介護の情報交換場、NPO法人パオッコを立ち上げて子世代支援(~2023)。著書に『親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと 第3版』『高齢者施設 お金・選び方・入居の流れがわかる本 第2版』(以上翔泳社)『遠距離介護で自滅しない選択』(日本経済新聞出版)『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門』(共著,KADOKAWA)など。

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