ラスト1ハロンが速い!?美浦の調教時計の一部が自動計測化のメリットデメリット
美浦の南ウッドチップコースの調教時計の自動計測がスタート
今週7月27日よりJRA美浦トレーニングセンターの南Dコースの周回調教タイム自動計測システムが導入された。南Dコースとはいわゆるウッドチップコースで頻繁に追い切りが行われるので競馬予想においてひじょうに重要なコースである。
すでに東の美浦、西の栗東の両トレセンで坂路コースの調教タイムの自動計測は行われているが、周回コースにおいても坂路で使用されているのと同じICタグを使って計測が行われる。
計測は右回り、左回りの両方に対応しており、6ハロンから1ハロン刻み(上がり2ハロンを除く)のタイムを確認できる。
これまで調教時計は人が目視でハロン棒と呼ばれるポールを馬が通過するごとにストップウォッチを押す、という方法で人海戦術で採られてきた。
ウッドチップコースの調教時計自動計測のメリット&デメリット
このシステムが稼働することによるメリットとデメリットを考察してみた。
まず、圧倒的なメリットは目視では確認できなかった調教時計を取得できることだ。美浦トレセンの場合、調教コースに靄(もや)がかかることが結構ある。春のGI戦線など重要なタイミングに限って競馬新聞の調教時計の欄にある「モヤで見えず」の記載にイライラしたことがあるのではないか。今後は、少なくとも南Dコースに限ってはそれが基本的になくなる。
また、追い切りが行われる可能性が低い日は調教の時計を採る人が少なく、従来はそういう日は調教師は時計を入手できなかったのだが、今後は計測システムの時計を使えば可能になる。
デメリットは、現段階ではこの測定システムでは馬場のどのあたりを通ったかがわからないことだ。同じタイムであっても、馬場の内ラチ沿いを通ったのか、外側を大きくまわったのかで時計に対しての評価は異なるからだ。
「ラスト1ハロンは自動計測のほうがコンマ5秒ほど速い傾向」
では、この新システム導入は具体的にどのようなかたちでファンに伝わるのか。また、これまで手動で計測してきた調教時計とどう異なるのか?競馬専門紙・優馬(中光印刷株式会社)の代表である佐藤直文氏に話を聞いた。
「このシステムが導入され、実際に手動で採っている時計と照らし合わせたところ、概ね問題はありませんでした。ただ、ラスト1ハロンについては計測システムのほうが約コンマ5秒ほど速い傾向があります。これは、手動で時計を採る際、ラスト1ハロンについては若干早めにストップウォッチを押す傾向があるからです。理由は、気持ち早めに押すことで重要なラストの脚色などの調教内容をしっかり把握するためです。」
筆者はラスト1ハロンは早めに時計を採る、という話は他社の調教時計を採る人からも聞いたことがある。これについては、これまでそのようなかたちで時計を計測してきた、という伝統であった。
まだこのシステムは始まったばかりなので具体的に各社がどの時計をどのように採用していくかは定まっていないようだが、今後、自動計測が主流になった場合は自動計測以前の調教時計とは僅かではあるが"時計の感覚"が違うことを頭に入れておいたほうがよさそうだ。
調教時計は単にタイムだけではなく複合的な要素がつまった産物
「現在、坂路もそうですが、タイムは自動計測を使いながらも機械でエラーが出た際は人間が手動で採った時計を補完したりしています。その他、馬が通った位置、騎乗者、併せ馬や脚色などの状況、などはトラックマンが調教を見ながら情報を集めており、これらの全ての要素がまとまって"ひとつの時計"となり、競馬新聞の調教欄に掲載されています。」
確かに。単に数字だけではなく複合的な要素がひとつの調教時計にはつまっている。今のところ、この自動計測システムはそういった要素の一部として活用されていくもの、と筆者は認識した。
競馬の予想に役立てるための情報としての"時計"が完成するには、まだまだ人の手、人の眼が必要とされていると感じた。
■取材協力