卒業式とは何か:新型コロナウイルスで必要最小限開催や中止が相次ぐ中での卒業式再考
■卒業式は必要最小限/中止
今は、新型コロナウイルスの感染拡大を防がなくてはなりません。学校も休校になりました。総理の要請です。でも、総理は「卒業式も中止にせよ」ではなく、「必要最小限」の開催を要請しました。規模の縮小や時間の短縮です。
日常の授業はお休みにしても、卒業式を中止とは言い難かったのでしょう。
日本中の学校の対応は、それぞれです。
ほぼ例年通りに行った卒業式もあありました。中止(見合わせ)の卒業式もありました。卒業式の前日になって中止が決まった学校もありました。
■様々な卒業式:卒業式の必要最小限とは
在校生や来賓の参加をなくした学校もあります。在校生による吹奏楽部の演奏も中止です。
来賓祝辞や祝電披露をなくした学校もあります。
保護者の出席をなくした学校もあります。保護者は、別室で卒業式の様子をスクリーンで見た学校もあります。
国歌や校歌の合唱をなくした学校もあります。卒業生の合唱はなくさなかった学校もあれば、合唱は全てなくした学校もあります。校歌を録音で流し、卒業生は口を開かない学校もあります。
例年なら、卒業生一人ひとりが卒業証書を受け取っていたのを、代表が受け取ることにした学校もあります。
卒業証書は個別に渡しても、例年なら行っていた校長と卒業生との握手はなくした学校もあります。
先生方とのハイタッチをなくした学校もあります。拍手をなくした学校もあります。
ある高校は、突然の休校で卒業式も中止になりましたが、最後の授業日に急遽3年生を体育館に集め、卒業証書を渡しました。
校長は言います。「心の中ではきょうがみなさんにとって卒業式だと思ってください」。生徒たちは卒業式の中止を嘆きながらも、インタビューに答えて語ります。
「体育館でみんなで集まることはできないと思っていたので、そこはうれしかった」。
「友達、クラス全体がそろうのが、これで最後だと思うと、切ない思いと複雑な感情でいっぱいになった」。
<学校最後の一日に何が行われたか:私たちが「同じ思い」で危機を乗り越えるために>
名古屋市は、市長がいったん卒業式中止の方針を出しましたが、直後に一転して感染症対策を取った上で実施する方針を発表しました。
■卒業式は必要か
卒業式に出席しなくても卒業できます。「命がけで行うものではない」という意見もあります。それはもちろんそうです。コロナウイルス完成位予防のための卒業式中止も、仕方がありません。
学校のルール上も、必須のものではありません。卒業式がなかった学校も、みんな無事卒業です。
卒業式自体が必須ではありませんから、参加者みんなの拍手に包まれた入退場も、合唱も、シュプレヒコールも、卒業証書の個別渡しも、当然なくても良いとも言えるでしょう(卒業証書は渡さなくてはなりませんが)。
卒業式は大切だなどという意見は、単なる感情論、情緒の問題に過ぎないと言う人もいます。
ただ、学校は心を大切にし、情緒を育てる場所ですが。
■卒業式とは
卒業式は、学校の「特別活動」の一つです。授業以外の学校活動は、大体特別活動です。
学級活動、児童・生徒会活動、、クラブ活動、そして学校行事などが、特別活動です。
学校行事の中には、入学式、卒業式、文化祭、体育祭、遠足、修学旅行などが入ります。学校によっては、合唱コンクールがあったり、マラソン大会、完歩大会(長距離を歩く行事)などもあります。
給食も、普段は意識していませんが、特別活動です。給食を一緒に食べている先生は、単に昼食を取っているのではなく、給食指導を行っています。
卒業式をはじめ、特別活動は暇つぶしで行っているわけでもなく、見栄や世間体で行っているわけではなく、教育的効果を狙って行われています。
学校行事は、以前よりも減少傾向ですが、多くの人が学校行事を通して様々なことを学んだことでしょう。
学校は、特別活動を通して、子供たちの社会で生きて働く力を育むことを考えています。
■卒業「式」の意味:儀式的行事の教育目標、教育効果
入学式や卒業式などは、学校行事の中の「儀式的行事」です。
儀式的行事には、次のような目標があります(中学校学習指導要領解説:特別活動編)
○儀式的行事の意義や、その場にふさわしい参加の仕方について理解し、厳粛な場における儀礼やマナー等の規律や気品のある行動の仕方などを身に付けるようにする。
○学校生活の節目の場において先を見通したり、これまでの生活を振り返ったりしながら、新たな生活への自覚を高め、気品ある行動をとることができるようにする。
○厳粛で清新な気分を味わい、行事を節目としてこれまでの生活を振り返り、新たな生活への希望や意欲につなげるようとする態度を養う。
そして卒業式など儀式的行事の教育効果は、「生徒の参加意欲とその儀式から受ける感銘の度合いによって大きく左右される」と述べられています。
だから、卒業式はただ卒業証書を配布すれば良いわけではありません。一方、形式は整えられても、子供の参加意欲がなく、何の感動もないとすれば、その卒業式は失敗でしょう。
学校における儀式的行事、日常生活における儀式、セレモニー。以前に比べれば簡略化の方向にはあると思いますが、良いセレモニーには心理的効果があるのです。
入学式、卒業式、結婚式、告別式。セレモニーを通して、私たちにはやる気や希望が生まれ、喜びや癒しを得ているのです。
あるものを評価するときに、ピークエンドの法則と呼ばれる心理があります。自分の学校生活を評価するときには、学校生活でのピークの出来事、それから最後の出来事が重要だということです。
良い卒業式は、学校生活全体の評価を高めるでしょう。終わり良ければ全てよしです。
■2020年3月の卒業式とは
地域ごと、学校ごとに、今年の卒業式は形を変えました。地域によって事情は違います。市長等の考えも様々です。同じ市立学校でも、学校によって形は変わりました。校長の考え方次第です。
それぞれの状況下で、担当者が精一杯考えた結果を、私は安易に批判したくありません。それぞれの形で、卒業生は卒業していきます。
多くの学校で、突然の休校になりました。本当なら、これから気合を入れて卒業式の練習、合唱の練習があるはずでした。前日のリハーサルも重要なものでした。
それが突然の休校。そして前日リハーサルもなし、合唱も何日も練習しないままのぶっつけ本番の学校もありました。
しかし、先生方は語っています。
「子供たちはよくやってくれた」。
危機的状況で、子供たちはしばしば力を発揮します。危機は好機にもなります(危機の中の心理学:コロナウイルスで緊急事態宣言がなされる今の生き方:Yahoo!ニュース個人有料)
私も、今年はスクールカウンサラーとして、2つの中学校の卒業式に参加しました。それぞれに、良いお式でした。
今年の卒業式では、残念な思いをした子供たちも多いことでしょう。それでも、子供たちはそれぞれ元気に卒業していきます。忘れられない卒業の思い出と共に。