ライアン・ガルシアは本物か──劇的KOでも評価分かれるイケメンボクサーの現在地
1月2日 テキサス州ダラス アメリカン・エアラインズ・センター
WBC世界ライト級暫定王座決定戦
ライアン・ガルシア(アメリカ/22歳/21戦全勝(18KO))
KO7回1分58秒
ルーク・キャンベル(英国/25歳/20勝(16KO)4敗)
ドラマチックなKOで2021年の初戦を飾る
常に毀誉褒貶(きよほうへん)が激しいガルシアを巡る議論はまだまだ終わらなさそうだ。新年早々、これまでで最強の相手とのテストマッチで一定以上の力があることは証明したが、一方で突っ込みどころも残る内容だったからだ。
ロンドン五輪金メダリストのキャンベルと対戦したWBC世界ライト級暫定王座決定戦で、ガルシアは2回に左オーバーハンドを浴びて痛烈なダウン。それでもこのピンチを凌ぐと、すぐに体勢を立て直し、5回には左フックで逆に相手にダメージを与える。7回には狙いすました左をボディに打ち込むと、キャンベルは悶絶。エキサイティングな展開の末に難敵をストップし、22歳のイケメンボクサーは大きな1勝を挙げた。
「自分がどういう選手かを示せたと思う。(懐疑的な人は)僕を“ソーシャルメディア・ファイター”なんて呼んだりする。ただ、人がどう思うかではなく、自分がどうなろうとするかが大事。僕は今夜、王者になることを選んだんだ」
試合後にそう述べた通り、キャリア初めてのダウン後も冷静さを維持したことは特に称賛されてしかるべきだろう。
ホルヘ・リナレス(帝拳=ベネズエラ)、ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)ともフルラウンド戦ったベテランを倒し切ったことの意味は大きい。ハンサムなKOアーティストは単なるソーシャルメディアのインフルエンサーではなく、正真正銘のスター候補であることを証明した戦いだった。
守備面の課題を克服できるか
もっとも、攻撃時の天賦の才は明白ではあっても、ディフェンス面の不安は無視できない。かなり以前から指摘されていた通り、突っ立ち気味でヘッドムーブメントのないところと上がり気味のアゴはやはり気になる。
第2ラウンドのダウン後、反撃時のパンチのキレのなさなどからみても、ガルシアは一時的に小さくないダメージを受けていたのだろう。あくまで結果論だが、キャンベルがより切迫感を持って詰めに来ていたら違った展開になっていたかもしれない。今後、高レベルなライト級でよりパワフルな選手と戦った際、今のスタイルではどこかで致命的なパンチをもらう可能性は少なからずあるはずだ。
キャンベル戦の後、筆者のSNSのタイムラインでは「2回のダウンを乗り越え多くを証明した」というポジティブな見方と、「ディフェンス面で多くの課題がある」という否定論が70/30くらいで混在していた。個人的にはもうガルシアの能力と魅力は認めているが、欠点を指摘する声も真っ当なものに思える。
WBCから対戦指令を受けたWBC王者デビン・ヘイニー(アメリカ)、あるいはガルシア自身が直接対決を熱望するジャーボンテ・デービス(アメリカ)に勝とうと思えば、守備強化は必須。2018年10月以降の5戦でコンビを組んできたエディ・レイノソ・トレーナーの力を借り、どれだけディフェンスを向上させられるかが今後の鍵になる。サウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)の名参謀としても評価を勝ち得てきたレイノソは、ここでも重要な存在となりそうだ。
依然として好き、嫌いの分かれるボクサー
ガルシア対キャンベル戦前後、その話題性は無冠選手同士の暫定王座決定戦とは思えないものがあった。スポーツ・イラストレイテッドのクリス・マニックス記者は、クロスオーバーのアピールが望めるガルシアは「今世紀のボクシング界で最も重要なプロスペクト」と明言。ガルシアがキャンベルをKOした直後には、The Athleticのマイク・コッピンジャー記者、ルー・ディベラ・プロモーターなどがSNS上で「スター誕生だ!(a star is born)」と少々オーバーなコメントを残していた。
一方、否定論者も依然として騒がしく、新アイドルは人気先行であることを懸命に指摘しようとする。支持者であれ、アンチであれ、その一挙一同がこれだけ人々の心を掻き立てるのはガルシアのスター性の証明でもあるのだろう。
「今世紀で最も重要」はやはり大袈裟だし、最初のテストをクリアした時点で「スター誕生」と叫ぶのも早すぎる。それでもガルシアがボクシング界にとって極めて貴重な選手であることは間違いない。
すでに莫大な影響力を誇るガルシアが順調に伸びた場合、同階級のテオフィモ・ロペス(アメリカ)、ヘイニー、デービスらよりも遥かに大きな知名度を得ることも可能なはずだ。間違いなくスーパースターになるポテンシャルを秘めた選手だけに、その成長ぶりをもうしばらく楽しみに見守っていきたい。
最終的にはアメリカ&ラテン系のファンを湧かせ続け、一部で比較されるオスカー・デラホーヤ(アメリカ)の域まで辿り着くか。それとも抜群のスピードと打たれ脆さを併せ持ったスリリングなアミア・カーン(イギリス)、同じようにファンとアンチの両方が多かったエイドリアン・ブローナー(アメリカ)のようになっていくのか。
今はまだコインが宙を舞っており、表と裏のどちらが出るかはわからない。ファイナルアンサーを出そうとするのは早すぎる。現時点で1つだけ確かなのは、ガルシアはそのキャリアを通じてファンを騒がせ続けるだろうということだ。