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映画「BLUE GIANT」は、アニメと音楽のコラボの歴史に新たな1ページを綴ろうとしている

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
(出典:映画「BLUE GIANT」公式Twitter)

シリーズ累計920万部を超える人気漫画を原作としたアニメ映画「BLUE GIANT」が2月17日に公開され、早速各方面で話題になっています。

映画レビューサイトのFilmarksでは、今年公開された映画の中ではダントツの4.3という高いスコアを記録。

この作品は、漫画では珍しく音楽をテーマにしている上に、日本ではまだファンが決して多いとは言えない「ジャズ」をテーマにしています。

そういう意味で、「BLUE GIANT」は上映館数こそ200館と、「アントマン&ワスプ:クアントマニア」のような大作映画の350館に比べると少なめですが、原作ファンや音楽好きの方を中心に話題になっているようです。

ジャズのアルバムが、ランキング1位に

また、特に注目すべきは、この映画では世界的なジャズ・ピアニストである上原ひろみさんが音楽を手掛けている点です。

その結果、「BLUE GIANT」のサウンドトラックのアルバムが、早速iTunes Storeのアルバムランキングで総合1位を獲得しています。

歌手の歌声が入っていない映画のサウンドトラックが、しかもジャズのアルバムが日本のランキングで1位になるのは、間違いなく快挙ですし、映画「BLUE GIANT」の音楽の完成度の高さを物語っています。

筆者も、漫画を未読の状態で映画館に足を運んだところ、音楽の迫力とストーリーに心を打たれ、すっかりファンになってしまった1人。

同様の方が今も日本中に増え続けていることは間違いありません。

アニメ映画における音楽の存在感は増す一方

もちろん、アニメ映画において、音楽が重要な役割を果たすようになったのは、最近始まったことではありません。

2016年に公開された映画「君の名は」では、RADWIMPSの楽曲を軸にストーリーが展開され、映画もアルバムも大ヒットになったのは非常に象徴的な出来事と言えます。

また、昨年は何と言っても映画「ONE PIECE FILM RED」が、Adoさんと連携して「新時代」をはじめとしたヒット曲を多数輩出。

映画の登場人物であるウタが紅白歌合戦に出場してしまうという快挙を成し遂げたことが記憶に新しい方も多いはずです。

参考:映画「ONE PIECE FILM RED」の大ヒットに学ぶ、デジタル時代のハイブリッド戦略

そういう意味では、アニメ映画における有名音楽家とのコラボ自体は、もはや珍しい現象ではないとも言えます。

音楽を題材にしたアニメ人気も

また、音楽をテーマにしたアニメ作品の人気も、着実にアップしてきています。

例えば、ラップをテーマにした「ヒプノシスマイク」は、2020年にアニメ化され、今年の1月には映画も公開されました。

また、昨年公開されたアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」も、劇中のバンドである「結束バンド」が、昨年末アルバムを発売し、ダウンロードランキングで1位を獲得するなど、大きな注目を集めています。

そういう意味では、映画「BLUE GIANT」も、こうした音楽アニメ人気の一連の流れの中での作品の1つと定義することはできます。

本物のジャズを届けるための映画化

ただ、今回の映画「BLUE GIANT」が非常に特徴的なのは、原作者の石塚真一さんをはじめとする原作サイドが「最大の音量、最高の音質で、本物のジャズを届けたい」という点にこだわった点です。

そのため、あえてテレビアニメシリーズ化や実写ドラマ化ではなく、アニメ映画を選択しているのです。

参考:「『好きなように書いて』って…」マンガ『BLUE GIANT』作者が担当編集者に映画の脚本を“丸投げ”したワケ

その「本物のジャズ」へのこだわりから、この映画ではメインのライブシーンの映像が、ロトスコープ、モーションキャプチャー、3Dと作画を組み合わせ、映画ならではの非常に複雑なアニメのつくりかたがされているそうです。

実際に筆者は、ドルビーアトモス対応の映画館で「BLUE GIANT」を鑑賞しましたが、特にライブシーンにおける映像と音楽のコンビネーションは素晴らしく、ライブが終わった瞬間に映画館にいることを忘れて拍手してしまいそうになるほどでした。

映画の元となっている原作漫画が全10巻と長めなことを考えれば、漫画通りのストーリーをしっかりと紡ぐためには、映画よりもテレビシリーズの方が良かったという見方もできます。

ただ、それではこの「本物のジャズ」を体験することは難しかったはずです。

「音楽が聞こえる」漫画ならではの映画化

もともと漫画「BLUE GIANT」は紙の漫画にもかかわらず、「音楽が聞こえる」漫画として有名だったそうです。

そうした漫画にもある本物へのこだわりが、この映画をアニメなのにリアルなライブを体感できる映画にしていると言えるでしょう。

従来のアニメ映画においては、あくまで音楽は脇役であり、ストーリーを際立たせたり、アクセントとして用いることが中心だったと思います。

その中で、映画「BLUE GIANT」は名実共に「音楽が主役」の映画という、新しいアニメと映画のコラボの歴史に名を刻む作品になっていると感じます。

音楽が主役の映画こそが映画館に求められる時代

現在、家庭にあるテレビの大型化や、ストリーミング配信の進化により、映画館にわざわざ行かなくても、家で映画が楽しめる時代になっていると言われます。

特にこれまでは、いわゆるハリウッドの「大作映画」と言われる巨額な予算で豪華な特殊効果を活用した映画こそが、映画館で視聴するべき映画と言われてきましたが、日本ではそうした「大作映画」の興行成績が明らかに振るわなくなってきています。

500億円以上の制作費をかけたと言われているアバターの続編が、世界興行収入の歴代5位に入るほど世界的には注目されているのに対して、日本ではアニメ映画「THE FIRST SLAM DUNK」とアニメ映画「すずめの戸締まり」の陰で、あまり話題にならなかったことが象徴的な現象と言えるでしょう。

その逆の視点で考えると、実は映画「BLUE GIANT」のような「本物の音楽」を体感できる映画こそが、今後日本では映画館で視聴するべき映画の中心になっていく可能性すら感じる、というのは若干大袈裟に聞こえるでしょうか。

是非皆さんも、映画「BLUE GIANT」が再現する「本物のジャズ」を、映画館で体感してみて下さい。

noteプロデューサー/ブロガー

Yahoo!ニュースでは、日本の「エンタメ」の未来や世界展開を応援すべく、エンタメのデジタルやSNS活用、推し活の進化を感じるニュースを紹介。 普段はnoteで、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についての啓発やサポートを担当。著書に「普通の人のためのSNSの教科書」「デジタルワークスタイル」などがある。

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