NewJeansの登録商標の現状について
周知のとおり、K-PopグループNewJeansの所属マネジメント会社ADOR(そして、その親会社のHYBE)との確執が問題になっています(参照記事)。若くて才能あるアーティストの芸能活動が「大人の事情」で阻害されてしまうのは何ともやりきれない気がします。もめ事の内容についてはエンタメ系専門家の方にお任せして、ここでは、商標登録の問題について触れます。今年の4月23日に「NewJeansの商標登録はどうなっているか?」という記事を書いていますが、それの続きです。
その記事執筆時点では、ADORにより、”New Jeans”という(なぜかブランクあり表記の)商標が、3類(化粧品)、9類(コンピューター関係)、14類(アクセサリ)、16類(紙類)、18類(かばん類)、20類(家具)、24類(タオル類)、26類(装飾品)、28類(玩具)、35類(小売等)、41類(エンタメサービス)と広範な商品・役務を指定したマドプロ出願(国際登録出願)(IR1698966)として出願されて審査中の段階でした。3月28日付けで拒絶理由への応答が行われ、7月25日付けでほぼすべての指定商品・役務について登録査定となり、ADORを権利者とする商標権が発生しています。なお、日本以外に、韓国は当然として、米国、英国、欧州、中国で商標登録されました。
なお、先の記事にも書きましたが、25類(衣服類)については出願されていません(韓国の基礎出願の時点でされていません)。"New Jeans"という商標を衣類について使用すると「新しいジーンズ」というそのまんまの意味になってしまい「記述的」という理由で拒絶される可能性大なので断念したと思いますが、衣服ブランドの展開も十分考えられるグループに、衣服そのまんまの意味としてとらえられる名前を付けたのは、そもそもどうだったのよという気もします。センスの問題は別として、たとえば、”New Jeanz”のような表記にしておけば、商標登録の件では楽だったと思われます(ブルーレイディスクが商標登録を可能にするために"Blue-Ray"ではなく"Blu-ray"という表記にしているのと同じ理屈です)。
なお、日本の特許庁の審査運用では、商標が著名な芸名を含むものである場合、正規マネジメント事務所からの出願であることが明らかであっても、アーティスト本人(グループの場合はメンバー全員)の承諾書の提出が求められます。この出願についても、この点に対する拒絶理由通知が出ています。その後、適切な応答が行われて登録されていることを考えると、3月以前の時点では、メンバーはADORが商標権を所有することに同意していたことになります(ここまでもめるとは思っていなかったのかもしれません)。
ところで、実は商標権の効力は「著名な芸名を普通に用いられる方法で表示する商標」(商標法26条1項1号)には及びませんので、仮にADORが商標権を押さえていても、"NewJeans"という芸名の使用には商標権を行使できないと思われます。(ただし、グッズ類でのブランドとして使用については商標権が行使可能でしょう)。いずれにせよ、芸名の使用については、商標権云々の話以前に当事者間の契約で厳格に決められていますので、仮にNewJeansがADORから離脱後に名称を継続使用すると商標権侵害になるかどうかにはかかわらず契約違反となってしまうでしょう。この件に限らず、アーティストが事務所から(非友好的に)独立する際に、「商標登録されているので芸名が使えなくなる」という議論が聞かれることがありますが、実際上は商標登録されてようがなかろうが契約上の縛りを理由として芸名が使えなくなる場合がほとんどでしょう。
”NewJeansおじさん”の私としては、名前は変わってもグループの本質は変わらないと思いますので(極端なことを言えば、”The Group Formerly Known As NewJeans”でもOKです)、ミン・ヒジン氏との関係継続を前提に進んでほしいものだと思っています。