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パーム油は悪か。人類の油脂依存症に目を向けろ

田中淳夫森林ジャーナリスト
フライドチキンを揚げる油にも、パーム油が多く使われる。(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

 クリスマスシーズンになり、何かと目にするケーキ類やフライドチキン。

 このケーキはショートニングにパーム油を使っているんだろうなあ……チキンやポテトを揚げるのもパーム油だろうなあ……という想像するのは野暮だろうか。

 このところ、パーム油の評判が悪い。悪魔のアブラのように言われがちだ。しかし、実態を知った上での主張だろうか。

ボルネオ島のアブラヤシ・プランテーション。(筆者撮影)
ボルネオ島のアブラヤシ・プランテーション。(筆者撮影)

 パーム油とは熱帯産のアブラヤシから採れる植物油だ。マーガリンに始まりホイップクリーム、コーヒーフレッシュ、パンやお菓子などにも欠かせない。さらに洗剤や石鹸、化粧品など食用以外の分野でも広範囲に使われている。日本では一人当たり年間約5キログラムのパーム油を消費しているという。

 世界中で生産量、そして使用量がもっとも伸びている油脂は、パーム油なのである。栽培面積は約1900万ヘクタール以上と推定されており、年間生産量は全世界で7502万トン(2020年)と、植物油脂全体の3割以上を占めている。

 だがアブラヤシの栽培は、熱帯雨林を破壊して二酸化炭素の排出を増やす、生物多様性を失う、児童労働を誘発する……と、何かと批判の対象になってきた。パーム油を使った商品の不買運動も起きている。

 ただアブラヤシ栽培の内実をていねいに見ていくと、パーム油を使わなければ解決するというほど単純ではない。パーム油をその点から少し紹介したい。

 油脂作物の生産に世界は3億ヘクタール以上を費やしている。その中でアブラヤシ栽培は約6%にすぎない。にもかかわらず油脂の約36%を生産している。これはパーム油が油脂原料として生産性が桁外れによいことを意味している。

 たとえば一ヘクタールの農地から生産できる油脂は、ナタネ油の場合は年間0.55トン、ダイズ油なら0.8トンだ。だがパーム油なら4トンにもなる。このパーム油分を代替油で賄おうとすると、どうなるか。

 ナタネ油の場合なら、アブラヤシ・プランテーションの7倍以上の面積が必要になってしまう。ダイズ油なら5倍。ナタネ畑やダイズ畑を広げようとしたら森林破壊を招いてしまう。当然ながら価格も高騰するだろう。

 またパーム油が世界の森林破壊の約2%を占めているという研究もあるが、よく確認すると、まず木材や製紙用チップを得るために行われた森林伐採の跡地にプランテーションが造成されたところが多い。マレーシアでは、かつて多かったゴム園などから転換した面積も馬鹿にならない。最初からパーム油生産のために森林を切り開いたところばかりではないのだ。

 パーム油は油脂としての品質も優秀だ。飽和脂肪酸のパルミチン酸が主成分で、心疾患や癌を誘発するとされるトランス脂肪酸をつくらないし酸化しにくい。

 汎用性もある。お菓子の食感をよくするほか、チョコやアイスクリームを口の中でほどよく溶けるようになる。代替できる油脂はなかなか見つからない

広大な熱帯雨林を切り拓いてつくられるプランテーション。(筆者撮影)
広大な熱帯雨林を切り拓いてつくられるプランテーション。(筆者撮影)

 とはいえ、私もボルネオの奥地のジャングルを切り拓いてアブラヤシ・プランテーションを開発している現場を訪ねたことがある。空から広大な面積の農園開発を目撃したこともある。あきらかに森林破壊と思える状況だった。それは否定しないし、由々しき事態だと認識している。

 そこで気づいた問題は、アブラヤシ農園の経営方針だ。

 アブラヤシは、採油率が落ち始める20年程度で廃棄される。それが全栽培面積の3%程度になる。ただアブラヤシの幹は6~7割が水分で、木材としては使えずすぐ腐るから、伐採して植え替えるのは大変だ。

 そこで植え替えるよりも、新たな森を切り拓く方がてっとり早いと考える農園経営者もいるわけだ。これが森林破壊を助長している。

 すでに開墾された地域で再生産を行うのなら、少なくとも今以上に熱帯雨林破壊は進まない。まず手を付けるべきはこの点だろう。また労働問題なども企業のガバナンスの問題だ。経営姿勢が左右するところが大きいのだ。

 こうした点について、拙著『虚構の森』でより詳しく論じたのだが、本当に問うべきなのは、アブラヤシではないと感じた。より深刻なのは、油脂消費の拡大そのものではないか。

 実はパーム油は、総生産量だけでなく一人当たり油脂消費量も年々伸び続けている。それは発展途上国の人が裕福になったからだけではない。欧米や日本でも消費は増加傾向にあるのだ。たとえばケーキの食感を美味しくしたい、フライドチキンをよりパリッと揚げたい、化粧品の感触がよくなる……と、より美味しく感じるもの、より快適なものを貪欲に求め続けた結果ではなかろうか。

 つまり、人類がより多く油脂を求めることが、生産効率の高いパーム油の増産に結びついたように思えた。もしパーム油が存在しなかったら、ほかの油脂を求めてもっと多くの森林が破壊された可能性だってある。 

 言い換えると、人類は油脂依存症に陥っているのだ。この点から目を背けては、解決方法は見つからない。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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