食物アレルギーを持つ子ども、リスク高まる年末年始 間違えて食べる前に、何を気をつける?
年末年始は、帰省した実家でのご飯やお出かけ先での外食など、普段とは違う場所での食事の機会が増え、食物アレルギーを持つ子どもにとっては気をつけたい時期です。
お休みになる医療機関も多く、かかりつけの病院が休院ということもしばしば。開院している一部の病院に人が殺到し、患者にとっては待ち時間が長く、病院としてはゆっくり話を聞いたり、説明したりする時間を確保することが難しくなりがちです。
そこで、今から年末年始に向けて食物アレルギーの子どもにできる準備や対策を紹介します。
祖父母にも伝えたい、この10年〜20年で増加した食物アレルギー
SNSやネット上でときどき見られるのが『“ちょっとだけなら大丈夫”と、祖父母が子どもにアレルギーのある食品をあたえてしまった』という親御さんの悩みです。
なぜ、この認識の違いは起こるのでしょうか?
というのは、アレルギーの子ども、特に食物アレルギーの子どもはこの10~20年で大きく増えたことに理由があるでしょう(※1)。
そのため、食物アレルギーに対する世代間の認識のギャップが生まれやすく、予期せぬトラブルが起こりやすい状況なのです。このことを、子育て中の方だけでなく、子育てを卒業された方も、ご認識いただきたいのです。
ちょっとくらいがリスクに さまざまな食物アレルギーの『誤食』
実際にアレルギーのある食品を間違えて食べてしまうという『誤食』に関する現状を、日本の保育園15722施設において検討したアンケート調査によると、1年間で3497人に誤食による症状があり44人が入院となっていました。
そして、誤食の可能性があがる原因として、年齢が低いこと、牛乳・小麦・魚アレルギーであること、アナフィラキシーを起こしたことがあることが挙げられました(※2)。
アレルギーに慣れているはずの保育園ですら、誤食は少なからず起こり、入院する可能性もあるのですね。
帰省先では、普段は食物アレルギーのお子さんに対応することに慣れていない方が食事を用意することもあるでしょうから、事前に、帰省先の方と情報を共有しておきましょう。
美味しいものを食べさせてあげたいという気持ちはとても理解できます。でも、『ちょっとくらい』が思わぬ事態を引き起こすことがあるのですね。
レストランスタッフは必ずしも『アレルギーのプロ』ではありません
また、年末年始は、旅行先や初詣先で外食をすることもあるでしょう。
レストランスタッフは料理のプロですが、必ずしも食物アレルギーのプロではありません。
たとえば、英国のレストラン90施設のスタッフに対する食物アレルギーの知識をどれくらい持っているかに関するアンケート調査を行った研究があります。スタッフの90%は食品衛生に関する訓練を受けており、81%が食物アレルギーのある方に、安全な食事を提供する自信があると答えました。
では、実際の食物アレルギーに対する対応はどうだったでしょうか?
38%は、アレルギー症状があったら水を飲んで薄めるべきだと答え(正しくありません)、21%は、できあがった食事からアレルギーのある食材を除けば安全と答え(それでも症状がある場合があります)、16%は、加熱調理するとアレルギーになる可能性をなくすことができる(調理をしてもアレルギーは起こります)と答えたのです(※3)。
もちろん『食物アレルギー』といっても、その重症度は様々です。
『生卵だけ除去しています』という方に厳密な対応は必要ないでしょう。しかし、たとえば牛乳であれば0.1ml、ピーナッツであれば1mg(ピーナッツ一粒は約1000mgです)でも症状があるひともおり(※4)、それまでに少量の食物で症状がでたことがあるお子さんは特に注意が必要になります。
食品パッケージのラベル表示に注意
食物アレルギーのお子さんへの対策として、アレルギーを特に起こしやすい食品に関しては表示義務(もしくは推奨)があります。
ただ、たとえばパッケージの面積が30cm2以下である場合には義務ではなかったなど、表示が徹底されていたわけではなく、箱につめたお菓子の小袋には、その表示がない場合も。そのため、2015年4月1日に『食品表示法』が施行され、パッケージの面積が30cm2以下だった場合でも基本的に表示の省略が許されなくなるなどの変更がなされました(※5)。
ただし、新しい食品表示法は移行期間中で、省略されている可能性もあり、特に旅行先では食べるものには注意しましょう。
それ以外にも、『予想外の混入』の問題もあります。
例えば、誤食が多い牛乳では、重症の牛乳アレルギーを持つ小学生が、牛肉を食べたあとにアナフィラキシーをおこして受診されたことがあります。タレは使用せず塩で食べ、今まで牛肉は食べることができていたお子さんだそうです。
なぜ症状が起こってしまったのでしょうか?
その原因は混入していた乳成分。
牛肉は、乳蛋白によりくっつけて成型肉(サイコローステーキのようなイメージです)にしたり、乳蛋白質を注入して食感を良くしたりするケースがあります。その乳成分に対してアレルギー症状を起こしたのです(※6)。
他にも例をあげると、あるメーカーのグレープゼリーを食べているのに、たまたま同じメーカーのピーチゼリーにしたらアナフィラキシーを起こしたという子お子さんも。グレープゼリーには含まれない牛乳が、ピーチゼリーには含まれていたからです。
特に牛乳を例にあげましたが、このように意外なものにアレルギーを起こしてしまう食品が入っている場合があり、食品パッケージのラベルは、確認しておきましょう。
『加熱をすれば大丈夫』ではありません
また、先ほどレストランスタッフの例を挙げましたが、『加熱調理をすれば食物アレルギーが起きない』と思っている方は少なくありません。
卵に関しては、確かに加熱をすると一部の蛋白質が変化してアレルギー症状が起こりにくくなりますが(それでも症状がある方もたくさんいます)、牛乳や小麦の蛋白質は加熱をしてもアレルギーを起こすチカラは下がりにくいのです。
なので、最初にあげた保育園での報告では、牛乳や小麦の症状が起こりやすかったのかもしれません。
万が一症状が起こったときの対処法
そして、どんなに気をつけていても、症状が出ることを避けられない場合もあります。
カナダと英国の小児病院の検討では、『ピーナッツを除去しましょう』とお話ししたとしても誤食は12.4%あり、過半数は軽い症状ではなく、しかもそのうち半数は病院外で治療を受けたという報告があります(※7)。
とはいえ、食物アレルギーの症状の多くは皮膚の症状で、その場合は、内服の薬で落ち着くことがほとんどです。事前に内服薬を準備しておきましょう。
一方、呼吸器の症状や、消化器の症状は強い症状、すなわちアナフィラキシーの可能性が出てきます(※8)(※9)。
アナフィラキシーに対する対処は、内服薬だけでは危険があり、『アドレナリン』という緊急薬がはいっている自己注射の薬、『エピペン』が必要になります。
エピペンは、体重15kg以上の方に処方され、『登録医』しか処方できません。
過去にアナフィラキシーをおこしたことがあるお子さんに関しては、かかりつけ医に相談してみましょう。
エピペンは、決して危ない薬というわけではありませんが、バネ式の針がついているので練習が必要な薬です。すでにエピペンをお持ちの方は付属しているダミーの薬でもういちど確認しておきましょう。
以下のリンクの動画などを確認するとなお良いでしょう(※10)。
※10)学校におけるアレルギー疾患対応資料:文部科学省(動画)
また、旅行や帰省される場合は、近くの病院を確認しておくとよいでしょう。
そして、外食される場合は、万が一の誤食に備えておき、実際に食べる場所は、アレルギー対応をしているチェーン店のほうが無難かもしれません。
年末年始をきっかけに、気をつけたいこの食品
えび、かに、小麦、そば等はすぐに思いつくアレルギーを起こしやすい食品ですが、気をつけておきたいのが一見しただけではわかりにくい食品です。誤食を防ぐためにも、年末年始で家族が集まる機会をきっかけに共有して、普段から意識するようにすると良いでしょう。
この機会に、帰省先の方とのお子さんの食物アレルギーに関する理解がお互いに深まり、事故のない、楽しい帰省や旅行になることを願っています。
持ち運びたいもの、チェックリスト
最後に、万が一のために帰省時に持ち運ぶもののチェックリストを、『災害時のための必要物リスト(環境再生保全機構ERCA(エルカ) :ぜんそく予防のために食物アレルギーを正しく知ろう)(※11)』を参考に作ってみました。
『お守り』はあるにこしたことありません。参考にしてみてください。
※チェックリスト
【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】
参考文献・出典)
※1)東京都福祉保健局『アレルギー疾患に関する3歳全都調査(平成26年度)』
※2)Yanagida N, et al. Pediatric Allergy and Immunology 2019.
※3)Bailey S, et al. Clin Exp Allergy 2011; 41:713-7.(日本語訳)
※4)Taylor SL, et al. J Allergy Clin Immunol 2002; 109:24-30.
※6)堀向 健太他. 日本小児科学会雑誌 2006; 110:1150-1.
※7)Cherkaoui S, et al. Clin Transl Allergy 2015; 5:16.(日本語訳)