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文科省の「5億円」は経産省の「16億円」よりも効果をもたらすのだろうか

前屋毅フリージャーナリスト
盛山文科相は効果的な「環境づくり」ができるのか(写真:つのだよしお/アフロ)

 経済産業省(経産省)は11月10日に閣議決定された今年度補正予算案で、教職員の業務の省力化につながる民間サービスの利活用促進に、新規で16億円を盛り込んだ。これによって学校活動支援サービスの学校導入が促進したら、ますます文部科学省(文科省)の影が薄くならないだろうか。

|「#教師のバトン」の二の舞にならないか

 学校における1人1台端末が実現したなかで、その端末とEdtech(エドテック)を活用した新しい学びを学校と組んですすめる企業を支援する「未来の教室」をはじめ、経産省は教育分野での施策を積極的に展開してきている。教員などからも高評価を受けており、「文科省は教育を経産省に獲られてしまうのではないか」という声さえある。

 今回の新規予算は、教職員の業務の省力化につながるものだ。問題にされているものの、いっこうに改善しないのが、教職員の長時間労働である。学校活動支援サービスの導入が促進されれば、教職員の労働時間の短縮につながる可能性はある。教職員にとって最大の課題と正面から取り組もうというのが、経産省なわけだ。

 一方の文科省は、補正予算案で、教員免許をもちながら教職に就いていない人材を掘り起こす自治体の取り組みを支援するために5億円を計上している。掘り起こしが行われていないわけではなく、電話や面談での掘り起こしは、いまや校長や副校長・教頭などの重要な仕事となっている。それでも成功の確率は低く、負担ばかりが増している。

 5億円が、そうした校長らの負担軽減につながるのなら大歓迎されるにちがいない。そして掘り起こしに大きな効果をもたらせば、文科省に対しての評価は高まるはずだ。

 しかし、5億円を使ってやろうとしているのは、「教員のやりがいや魅力」などを発信することらしい。自治体ごとに座談会や個別相談会を開いて、そういう情報の発信を行うのだそうだ。

 教員のやりがいや魅力を発信すると聞くと、頭に浮かんでくるのは、文科省がX(旧ツイッター)でやった「#教師のバトン」である。教員のやりがいや魅力を現役教師が発信する場として文科省は想定していたが、実際には学校現場のブラックぶりを暴露する場になってしまった。文科省の思惑とは、まるで逆の効果しかなかったのだ。

 5億円を使っての座談会も、同じような結果になりかねない。そもそも、長時間労働や業務の効率化が解消されないなかで、発信できるような「教員のやりがいや魅力」はあるのだろうか。経産省の民間サービス利活用促進のほうが、まだ掘り起こしにとっても有効かもしれない。

 教育関係団体の集会に出席した盛山正仁文科相は、「教職員が安心して本務に集中できる環境づくりが、いま求められている」と述べている。まさに、「環境づくり」は喫緊の課題である。「#教師のバトン」の二の舞ではなく、ぜひとも具体的で効果的な策を期待したい。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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