こども家庭庁の設立に向けて、政策決定過程でこども若者の声をどう聞くべきか、議論が進められている。
12月16日に行われた、こども政策決定過程におけるこどもの意見反映プロセスの在り方に関する検討委員会(第3回)では、国内外の先進事例の調査結果や、有識者ヒアリングの結果が公表された。
特に有識者ヒアリングの結果は、この分野で活躍する研究者や実践者の見識がまとまっており、参考になる。
筆者もヒアリングを受けているが、ページ数は膨大になっているため、重要だと思うポイントをまとめて紹介したい。
保護の対象から権利の主体へ
まず最初に抑えておかなければならないのが、大人が持っている子ども像・若者像を転換する必要があるという点だ。
これまで日本では、子ども・若者は未熟であり、保護の対象と見られてきたため、対等な立場として意見を尊重されることはあまりなかった。
しかし、日本が1994年に批准した国連「子どもの権利条約」では、子どもをひとりの人間として、尊重することが定められている。
まずはこの前提が共有されなければ、結局こども・若者が声を上げても、結果に反映されず、あまり意味がない。
むしろ、自分には力がないと無力感を抱くことになり、逆効果にもなりかねない。
たとえば、スウェーデンの若者政策の研究者で、日本福祉大学 社会福祉学部 講師の両角 達平氏はこのように指摘する。
「欧州評議会のユース政策に対するヨーロッパフレームワークには、“家庭、学校、職場、余暇活動、若者の活動で、民主主義を教えることを怠ると、若者は政治に対してひがみっぽくなり、投票率は下がり、政治家、政党、政治的な若者団体への不信感が募る」の部分は、まさに日本が陥っている現状である。
アジェンダセッティングをこども・若者と一緒に
次に、よく政党や政府のヒアリングで違和感を感じる、正直無意味だと感じるケースは、そもそもアジェンダ(お題、聞き方)が間違っているケースだ。
この“失敗”は、課題設定の段階から、当事者であるこども・若者の声を聞いていないために、大人が聞きたい、大人が重要だと思っているテーマを“勝手”に設定しているために起こる。
このまま解決策などを聞いても、そもそも問題設定が間違っているため、なんとなく大人はやった気になるが、こども・若者が問題だと思っていることは解決されない。
その点、日本若者協議会では、課題出しを重視しており、参考になると思われる。
政策決定過程の透明化
そして、こども・若者に影響力を与え(エンパワメント)、参加者のモチベーションを上げていくためには、適切なフィードバックが欠かせない。
この点は、こども・若者に対して、結果とその理由を丁寧に説明することが必要なことは前提として、
日本の場合は、他の政策も含めて、ほとんど透明化されていない、市民が議論に参加できていないことを指摘する必要がある。
例えば、最近の防衛費増税や原発の方針転換に関して、市民との対話の機会を作ったかと言えば、全く作っていない。
有識者会議で議論されているものの、GX実行会議などには、明かに原発推進派や利害関係者が多いなど、正当性に疑義を感じざるを得ない。
そもそも普段の政策議論や政策決定も、国会の審議ではなく、その前の党内議論でほぼ決まっており、非公開の場になっている。
こうした普段のプロセス自体を可視化・透明化していかないと、政府や政治への信頼度を回復することは難しい。
身近な学校や地域コミュニティでの実践
またアジェンダセッティングと重なる部分だが、こどもや若者が課題を感じやすいのは、国全体の抽象的な議論よりも、身近な生活圏のことだ。
その課題の多くは学校や地域にある。
ここをすっ飛ばして、いきなり国の課題を議論しようとしても、自己効力感が低く、課題解決の議論経験に乏しい現状では難しい。
そのため、やはりまずは身近なコミュニティでそうした経験を重ねていくことが重要である。
こども・若者主体の団体への支援
そして、学校外で活動し、日常的に声を上げる組織を作っていくためには、こども・若者主体の団体への経済的支援が欠かせない。
こども・若者は移行期であり、経済的な稼ぎもないため、自助努力だけで継続させることは難しい。
そのため、欧州ではこども・若者主体の団体に多額の公的支援をしている。
こどもの参画は海外でも課題は多い
ただ、若者はともかく、こどもの参画に関しては、海外でも課題が多く、EUの調査では「大人主導で企画段階での関与が多く、政策の実施や評価段階への関与事例は少なく、こども参加のインパクトを評価するに至っていない」という。
そのため、いきなり完璧を求めるのではなく、着実にやれるところからやることが重要である。
その意味で、まず重要なのは、こども・若者を権利の主体として見なすこと、そしてこども・若者主体の団体への経済的支援を行うことではないだろうか。
なぜなら、安定的にこどもや若者が活動できる基盤を作れれば、そこで上がった声を行政や政治に届けることは比較的容易だからである。
一方、現状はそうした若者団体がほとんど存在せず、参加する人数も極めて少ない。
スウェーデンの若者団体への助成事業の条件に、「最低でも6歳から25歳の会員が1,000人いること」が挙げられているが、人口規模は日本の方が10倍程度あるにもかかわらず、その規模の若者団体はほとんど存在しない(ガールスカウト/ボーイスカウトのような大人がしっかりと支えている組織を除けば、日本若者協議会の個人会員がおそらくもっとも多いがそれでも800名程度)。
今回ヒアリング項目として、「声をあげにくいこどもから意見を聴く工夫や配慮事項」があったが、現状の日本では、こども・若者への「支援」の意識が強すぎる傾向にあることを踏まえると、そこばかりを重視すると、結局、出てくる施策が弱者支援ばかりになる懸念もある。
また大人が場をセットすると、大人側が求めるアジェンダになりやすい、堅苦しくなりすぎる、本音が言いづらいなどの課題も出てくる。
それらを考慮すると、やはりまずは、政策決定プロセスだけ保障した上で(審議会の席やこども若者議会の設置など)、具体的な中身はこどもや若者に任せる、大人は活動を後ろから経済的&事務的に支えるというのが、第一歩としては相応しいのではないかと考える。