石油・利益「依存症」、「黒い黄金」の終焉はくるか
ノルウェー政府に任命された気候委員会は、10月27日、ノルウェーにおける石油とガスの「段階的廃止計画」を提案した。しかし、11月5日、ストーレ首相は「ノルウェーの大陸棚の開発を止めるつもりはない」と提案を真っ向から否定した。
2050年の気候変動目標を達成するためには、ノルウェーは気候排出量を95%まで削減しなければならない。気候員会はノルウェーが2050年までに低炭素社会になるという目標を達成するためには何が必要かを報告書で示した。
アンドレアス・ビェラン・エリクセン気候・環境大臣は大陸棚での開発の余地はまだあり、「ノルウェーは今後、ヨーロッパへの石油・ガスの販売を減らしていくでしょう。しかし、それは徐々に、そして適切に調整されたペースで行われるべき」と地元メディアに説明。
政府に任命された気候委員会による「段階的廃止計画」は驚きの提案ではあったが、政府も与野党の主要政党も石油・ガスへの依存は「まだまだ断ち切れない」というこれまでと変わらない姿勢を示したのだった。
結局、気候員会の報告書はなんだったんだろうという空虚感が残った。若者の間で「気候不安」が消えないのも理解できる。
この「石油への依存」をテーマとしたドキュメンタリー英国映画が、ちょうどノルウェーの首都オスロで上映された。
英国の映画館や国際映画祭で上映された『The Oil Machine』
Emma Davie監督の『The Oil Machine』は、北海の石油・ガス産業を取り巻く複雑な問題と、この巨大な機械がどのように飼いならされ、廃止され、再利用されるのかを探る内容だ。様々な利害関係者が、私たちの社会から石油とガスの段階的廃止の問題点について、それぞれの主張を発表する機会を与えられている。
北海の底に眠る「黒い黄金」に人類がいかに依存しているか。映画の冒頭は石油発見の歴史から、どれほど多くの商品が石油で製造されているかという、ややありきたりな内容だ。「依存」からの脱却への提案がもっと欲しかったとは筆者は感じたが、後半は石油に依存する社会構造とマインドセットに若者たちが痛快なメスを入れる。
1970年代にスコットランドのアバディーン沖のフォーティーズ油田で埋蔵量が発見されたことで、英国は石油産業に依存するようになった。英国の機能を支える活力源になった天然資源だが、バングラデシュやベトナムなどの国々で洪水や自然災害が増加したこと、若者の気候不安などが記録されている。
石油に依存する利益と雇用優先の社会が、「今の子どもや若者に壊滅的な未来をもたらす」という必ずしも希望を感じる内容ではないが、石油発見前までも人類は生活できていたという可能性も示している。
上映後は専門家を招いて、ノルウェーと英国との違いが議論された。労働組合の青年部(Fagforbundet Ung)のJeanette Lea Romslo さんは「グレタ世代は死んではいないが、今はファンシーな言葉ばかりが踊っていて、気候不安や『石油に依存する社会の脆弱性』はそのままであり、恐怖が消えずにいる。だから若い世代を苦しめている」と語る。
対して、ノルウェー労働総同盟 (LO)の Are Tomasgardさんは、「映画のように心配ばかりしていたら希望は消える。段階的廃止計画を否定した首相は常識的だった」と労働者をまとめる立場としての意見を論じた。
ノルウェー自然保護連盟(Naturvenrnforbundet)のTruls Gulowsenさんは、「ヘゲモニー(覇権)と利益にしがみつく人たち」の低炭素社会への移行に対する抵抗は今も世界的にもとても強いと話した。問題は、石油会社の多くが各国の政府所有であること。国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)で物事を決定するテーブルに座る人たちがまさに、このようなヘゲモニーと利益にしがみつく人々である危険性を強調した。
労働福祉研究所(Fafo Institutt for arbeidslivs- og velferdsforskning)のCamilla Houelanさんはスコットランドには風力発電などがあるので、ノルウェーでのほうが雇用における心配などが強いと指摘。一方で、個人ではなく政府が石油会社を所有するノルウェーはより民主的であり、本来はスコットランドよりも大きな可能性を手にしているとも語った。
本作は希望や解決策を提示しているものではなかったが、石油と利益への「依存症」という問題の存在を露わにした。トークショーで議論された解決策のひとつは、化石燃料ではないものに投資する「投資先の改革」だった。
私たち全員が発症している「依存症」からいかに脱却できるか。「石油依存症」と「利益依存症」はまた異なる依存症として認識し、解決の道を探っていく必要がある。