校歌がJASRAC管理下にある場合の対応について
「公立学校が校歌の歌詞を卒業式の式次第に印刷(複製)することについてJASRACから指導があったらしい件」というtogetterまとめを読みました。ある学校が、卒業式で参加者に歌詞を印刷して配ることが「JASRACの指導により」できないため、代わりに(出席者が見ながら歌えるようにするための)校歌額を設置することで対応したという話です。
そもそも、校歌の作詞をJASRAC信託者に依頼することがあるのでしょうか?結構あるようです。JASRACの作品データベースJ-WIDで、後方一致「校歌」でタイトルを検索すると、何と19,461件ヒットしました(ドラマ金八先生における「桜中学校歌」等リアルな校歌でないものも含まれています、一方「~校歌」というタイトルではない校歌もあるでしょう)。有名な例としては、谷川俊太郎氏作詞の校歌(参考Wikipediaエントリー)や秋元康氏作詞の校歌(参考過去記事)などが思い浮かびます。
なお、JASRAC著作権信託契約約款によれば、原則的に信託者はすべての自作品をJASRACに信託しなければなりませんので、JASRAC信託者に校歌の作詞・作曲を依頼すると自動的にJASRAC管理楽曲になってしまいます。
しかし、これには例外規定があって、依頼により作成された校歌や社歌は著作者の判断で依頼者に譲渡することができます。この学校のケースでは、作詞者の方はそのような手続はしていないのでしょう(この学校の校歌の作詞家がどなたかはわかりませんが、自分の感覚的には職業作家であれば通常譲渡はしないと思います)。
(追記:すみません、ツイッターで指摘されて気がつきましたが、以下の規定もありました。)
校歌の作詞者がしかるべき手続をすれば、式次第への歌詞掲載を許諾不要にできるものと思われます(もちろん、作詞者が嫌だと言えばどうしようもないですが)。 (追記終り)
では、まず学校での著作物利用に関する著作権法の規定について見ていきます。
非営利・無料・無報酬の演奏は自由にできますので、学校の授業や行事で校歌を歌う場合にはJASRACの許諾は不要です(正確に言うと校歌に限らずあらゆる楽曲について著作権者の許諾は不要です)。
今回問題になった複製については、授業のための複製は(必要と認められる限度において)JASRACの許諾は不要です(こちらも、校歌の歌詞に限らずあらゆる著作物について著作権者の許諾は不要です)。
ここで、卒業式の式次第に歌詞を印刷するのがどう扱われるかですが、JASRACのサイトでは、「入学式・卒業式は"授業"の一環ですが、部数が多い場合、手続きが必要になります。」と微妙な書き方がされています。
「JASRACの指導」とはこのことを指しているのだと思いますが、著作権法はそう簡単に改正できないとしても、特別に許諾するのはJASRACの判断でできる話なので、学校の行事での複製は全面的に自由にしてくれた方が、話が早いのではないかと思います。
なお、学校の公式ウェブサイトへの校歌歌詞の掲載はJASRACの特別な規定により自由にできますので、卒業式の参加者がスマホで学校のウェブサイトを見て歌うようにすれば良いのではという案が上記togetterで挙げられています(こういう馬鹿げた回避策が出てきしまうことからも、JASRACは学校の行事で参加者に配るための校歌歌詞複製は自由にできるという特別規定を置くべきだと思います)。
さて、この件をちょっと別の視点から見てみましょう。仮に、JASRACの許諾を受けて所定の使用料を支払っていたらどうでしょうか?催物プログラムに歌詞1曲を掲載して1,000部配ると使用料は900円です(通常は1,800円ですが、教育機関の場合2分の1に減額されます)。正直、掲載を断念するような金額とは思えません(学校の予算計画上の問題ならばPTAの予算から寄付するなり、個人がポケットマネーで払うなりできるのではないでしょうか?)。
この学校はクリエイター(作詞者)への900円の支払いは惜しいが、(その100倍以上の金額になると思われる)校歌額を作るのは問題ないと考えているということなのでしょうか?(額は寄付かもしれませんがそれでも誰かが対価を払ったことになります、もし使ってなかった額を流用したということであればすみません)。仮に、額に対して何らかの金銭を支払ったということであれば、有体物への対価は払うが、無体財産への対価は絶対払わんという姿勢が、知財立国を目指すわが国の教育機関としてどんなもんかという見方もあるかと思います。