冬の日本を熱くした 東京五輪世代の高校生5人
2020年の東京五輪で実施される28競技のうち、球技は6種目。サッカー、バレーボール(ビーチバレーを含む)、バスケットボール、ホッケー、ハンドボールに、16年のリオデジャネイロ五輪からラグビー(7人制)が加わる。このうち、ロンドン五輪で日本の男子が出場権を獲得した種目はサッカー、ビーチバレーの2つ。ただし東京五輪は自国開催のため、予選免除で全種目の出場が可能だ。
今回は年末年始の全国大会で活躍し、2020年に向けた台頭が期待される高校生アスリートをピックアップしたい。五輪で採用される球技6種目のうち、この冬に高校選手権が開催された競技はバスケ、ラグビー、バレー、サッカーの4つ。筆者はそれぞれの戦いに足を運び、その才能を確かめた。
高校バスケの逸材・八村塁
高校バスケのウィンターカップで明成高(宮城)の優勝に貢献し、大会の優秀選手(ベスト5)に選ばれたのが八村塁(高1)。13年9月のアジアU-16選手権で日本の3位入賞、世界大会初出場に貢献した逸材だが、まだ1年生ということもあり、必ずしも今大会の主役候補ではなかった。しかし連戦の中で一気にブレイクを果たし、準々決勝の八王子戦ではマッチアップしたセネガル人選手を圧倒。準決勝・藤枝明誠戦で37点、決勝・福岡大大濠戦は32点と図抜けた結果も出した。
198センチという身長は、国際舞台だと“標準サイズ”になってしまう。しかしこのサイズに機敏さ、バネ、バランスを兼ね備えるところが八村の魅力と言えよう。相手を背負っても横への重心移動、反転で振り切り、シュートの持ち込んでしまう上手さがある。アフリカ・ベナン出身の父から受け継いだ恵まれたフィジカルがあるとはいえ、まだ15歳(98年2月8日生まれ)ということもあり、線の細さは否めない。しかし筋力が身に付き、高いレベルの経験を積めば、国際舞台で通用する選手になるだろう。
万能ラガーマン・梶村祐介
高校ラグビーの花園大会で注目を浴びたのが、報徳学園高(兵庫)の梶村祐介(高3)。高校生ではただ一人、練習生として昨秋の日本代表合宿に招集された逸材だ。今大会のポジションは、オールラウンドなプレーを要求されるCTB。180センチ・96キロという体躯に秘められたパワーは高校生の範疇になく、日本代表エディー・ジョーンズHCが称賛するランニングスキルも併せ持つ。加えて今大会で光っていたのは、周りを生かすプレーだ。大きく蹴り上げる滞空時間の長いキックでFWを前に進め、相手が前がかりだったら虚を突くゴロも蹴れる。アタックラインのテンポを上げるワンモーションパスや、背中越しに通すようなトリッキーなパスもある。肘や手首の使い方が柔軟で、相手をぎりぎりまでひきつけてから、パスの選択を変えられる器用さは秀逸。一芸ならぬ三芸、四芸を併せ持ったオールラウンダーだ。
ラグビーは2019年にワールドカップ日本大会があるから、東京五輪はその先の話となる。ただ走力、パスの技術が光る梶村なら、五輪で採用されるセブンス(7人制)でも生きるだろう。今大会は優勝した東海大仰星に敗れてベスト8に止まったが、進学する明治大学での更なる成長に期待したい。
高校バレーの注目株2人
1月12日に決勝戦を迎えるのが、バレーの全日本高校選手権大会(春高)だ。ベスト4に勝ち残っている星城高(愛知)は現在公式戦97連勝中。2012年に高校総体、国体、春高の三大タイトルを独占し、今年も既に二冠を確保している。チームのエースで、全日本入りを期待される注目選手が石川祐希(高3)だ。昨年夏の世界ジュニア選手権(U-21)では、チーム唯一の高校生ながら得点ランク8位という結果を出している。191センチ・74キロという体格はまだ“成長の余地”を感じさせるが、既にスパイクとジャンプサーブの切れは抜群。最高到達点345センチという高さに加え、空中姿勢の良さと、鞭のようしなる腕の振りが爽快だ。センター、ライト、レフトはもちろん、セッターも問題なくこなす特別なセンスの持ち主でもある。
星城と共にベスト4に勝ち残っている雄物川高(秋田)の主砲が、鈴木祐貴(高1)だ。その長身により中1でこの競技を始めた直後から注目を受け、冬の全国都道府県対抗中学生バレー大会では「オリンピック有望選手」「JOC・JVCカップ」などを受賞した協会お墨付きの有望株である。何よりの魅力は201センチの身長だが、彼は長身選手にありがちな鈍さがない。しっかり腕を振って打つ体のバランス、空間認知力も持ち合わせている。最高到達点330センチという高さは、その長身を考えると物足りないが、そこは鍛錬で十分に伸ばせる部分だ。
女子に比べると元気のない男子バレーだが、春高バレーを見ると人材は決して不足していない。そこで高校バレーからは2人をピックアップさせてもらった。
神戸の全国制覇に貢献した1年生サイドバック
さて最後はサッカー。五輪の男子サッカーには「23歳以下(1997年1月以降の生まれ)」という年齢制限があるため、高2の早生まれと高1から注目株を探すことにする。高校サッカーは1月13日に決勝戦を迎えるが、有望選手が多く集まるのはJリーグのユースチーム。冬の全国大会で光った“東京五輪世代”が、ヴィッセル神戸U-18の右サイドバック藤谷壮(高1)だ。
神戸はプレミアWESTの王者として臨んだチャンピオンシップこそ、流通経済大付属柏高にPK戦で屈したが、その後のJユースカップを制覇。藤谷は右サイドバックの位置から得意の攻撃参加でチームを盛り立てた。中学時代はセンターバックの位置でプレーすることが多く、170センチ台後半の体格は持っている。とはいえスプリントを繰り返せる走力と、柔らかい弧を描くクロスボールを見ると、適性はサイドバックだろう。長友佑都、内田篤人と日本が世界に人材を送り出している“お家芸ポジション”の新星だ。
八村塁、梶村祐介、石川祐希、鈴木祐貴、藤谷壮--。冬の全国大会で熱い活躍を見せ、東京五輪での活躍が期待される逸材たちだ。ただし何より大切なことは今の結果でなく、これから6年半の成長だ。加えて彼らにとって20代前半で迎える東京五輪は“ゴール”でない。2020年のオリンピックを踏み台にして、そこから更に飛躍するような活躍を期待したい。