阪神タイガース・原口文仁選手の10年目は『勝』
原口文仁選手(26)が阪神タイガースに入団後、初めて地元の埼玉県大里郡寄居町で野球教室を行ったのは2016年のオフ。この時は寄居町商工会青年部主催で、楽天の銀次選手や女子プロ野球・埼玉アストライアの川端友紀選手、岩見香枝選手と一緒に講師を務めました。そして昨年からは原口選手の後援会が開催しています。“原口先生”単独ってのは、なかなか大変ですね。
ことしは23日に寄居町のキングフィッシャーズ(原口選手の出身チーム、当時は寄居ビクトリーズ)、中町ジュニア、マッキーズ、用土コルツ、オブスマクラブと、深谷市の花園野球、合計6チームから約100人の小学生が参加して行われました。他にもチームに所属していない子や、ソフトボールの選手もいます。お手伝いは、やはり原口選手が中学時代に所属していた深谷彩北リトルシニアの選手たち33人です。
ことしは暖かい野球教室でした!
場所はいつも通り、寄居運動公園の野球場。心配された雨も降らず、しかも気温は高めで風がないという過ごしやすいコンディションで、本当によかったですねえ。10時前から開会式があり、キャッチボール、守備練習、打撃練習(ティーバッティング)と続き、ここで昨年と同じくピッチャーの球を捕って、打ってという“原口選手タイム”へと突入します。先にキャッチャーとして何人かの球を受けたあと、今度は打席に立った原口選手。速い球に驚いたり「ナイスボール!」と声をかけたり、楽しそうに打っていました。
その途中、ある男の子がインコースを攻めてきて、投球はそのまま原口選手にバチンと当たりました!左のおしりを抑え、大きな声で叫びながら痛がる“様子”の原口選手。顔は思いっきり笑っていますからね。そして、同じピッチャーから大きな当たり(結果は中飛)を打つところはさすが。ちなみに当てちゃったピッチャーの話は、のちほどご紹介します。どうやらインコース攻めを指示されたみたいですよ。
各チームのエース級が登板して、最後はソフトボールの女子が登場。かなり打席に近づいて投げるので、原口選手もその速さに驚きつつ、しっかり捉えて打ち返しましたね。昨年も対戦したピッチャーだったようです。右投手11人、左投手1人、ソフトボール1人の計13人と対戦して、安打性の当たりは6本という結果でした。
締めは例年通り、原口選手のロングティー打撃。ボールはもちろんプロ野球用に変わります。何スイングしたかは、写真を撮るのに一生懸命だったので数えていませんが、サク越えは2本か3本だったような…。後ろで見ていた少年が「2本」と証言してくれたので2本にしましょう。
大先輩に当てちゃったエース
野球教室が終了し、閉会式で原口選手は「短い時間だったけど、みんなと野球ができてすごく楽しかったです。きょう少し言葉を交わした子は、その言葉を忘れずに。またお父さん、お母さんへの感謝の気持ちを持って練習していってほしい。僕は来年、レギュラーを目指してキャンプから頑張りますので、応援よろしくお願いします」と締めの挨拶をしました。
これで解散かと思いきや、後援会の方から「矢野監督も話しておられたように、ファンの方を大切にしようという気持ちを込めまして、特別にサイン会を行います」という言葉が。一塁側のファウルゾーンに並んで見学されていた後援会会員の方や、ファンの皆さん全員に1時間近くかけてサインをした原口選手。
気分転換に笑わせてあげようと、幼なじみの正木裕人さんがユニホームを持ってしれっと並んだのに、リアクションは薄かったとか…。本当に疲れていたかもしれませんね。でも遠方から来られた方や、年に一度の楽しみと言われる地元の方は喜んでいらっしゃると思います。
そうそう、引き揚げる前に、死球を当ててしまったピッチャーを探しました。それが何と、キングフィッシャーズの後輩だったんですよ!6年生で副キャプテンを務める太幡陸(たばた・りく)くん。夏の大会でチームが4勝したうちの2勝が彼の功績という、ダブルエースの1人だそうです。
インコース攻めについては「内角に投げろと言われたので」と。なるほど、指令を出したのは原口文仁後援会の会長で、昨年までキングフィッシャーズの代表を務めた田中静雄顧問です(笑)。それで当たっちゃった?「はい…」。そのあと大きいのを打たれて「悔しいです」と本音も。ただ去年はセンター前ヒットだったけど、ことしはセンターフライに打ち取ったので、一歩前進しましたね。
「当たる球には当たっておけばいい」
グラウンドから引き揚げ、控室で我々の取材に応じてくれた原口選手。3年目を迎えた地元での野球教室。感想を聞いたら「見ての通りです」と。疲れた?「1人だと疲れますね、分散できない(笑)」。でも子どもたちは喜んでいたでしょう?「ほんとにね、いろんな人の協力があって野球教室ができているのはすごく大きいし、後援会の人、スタッフ、シニアの子もそうだし、みんなに手伝ってもらって僕が表に立たせてもらっているので。そういう感謝は常に持って、シーズンもやりたいと思います」
後輩から死球を食らっちゃった件は「狙ってきましたね」とニヤリ。
今季も死球が多かったけど、内角を打てば内を攻められることが減るのでは?「当たる球には当たっておけばいいんですよ。投げてきたら打つしかないです。それだけです」。内角を克服しようという取り組みは?「もちろん、それはもちろん頑張っています。いろいろあるので。打てるように頑張ります。いい当たりをしようとするとおかしくなるので別に打たなくてもいいんだけど。詰まってもヒットでオッケー。それが理想ですね」
ただ、ことしは内角攻めがケガにつながったので、やはり減った方がいいかも。「それはしようがない。ケガをしないように、よけるしかないですね」。むしろ当たってもオッケーと?「そんなにこだわっていない。よけられるやつはよけますし、よけられないやつはよけられない。そこを気にして外が打てなくなったのが去年(2017年)だった」
なるほど、そうでしたか。「その自分の形というのはなるべく崩さないようにしたい。それは今シーズンしっかりできたところだったので。これが打席に立っていくとまた変わっていくと思うけど、そこでガマンできるかどうかですね」
スタメンでいきたい気持ちは継続中
改めて今シーズンを振り返ってください。「序盤は多少のスタメンの機会があって。そこで打つ方も守備の方も…。チームの勝ち負けで、負けが多かったというのが、やっぱりスタメンで出られなくなっていったことだと思いますし。まあ打てないのもそうだし」
「そこからは、出たところで結果を出して『どうにかスタメンで使ってもらえるように』という気持ちでした。代打で途中からでも、そういう気持ちでやっていたので。そこまで、その代打で記録とか、そういうのはあまり意識はしなかったですね」
「どこかで切り替えたところ?特にはないですね。またゼロからのシーズンだったから立場もなかったし。ことし代打で、そうやって少しはよかったので、そういった部分ではよかったですけど。まだスタメンでいきたい気持ちがある。何とかそこを狙っていきたいと思います」
監督が変わることについて「それで(何かを)変えるというわけではないですけど、自分がやっていることとか、やってきたことをそのまま出してアピールするしかないと思うので、しっかり準備したいと思います」と原口選手。
変えるといえば、バットもグリップエンドの形が変わったのでは?「変えていないですよ。一緒ですよ」。いや、変わっているでしょう。シーズン途中から、と食いついたものの「いいんですよ、バットは。道具は最後ですから」と、いつもの言葉で締められてしまいました。道具は最後。いいフレーズですね。
取り入れるアドラー心理学
ところで、矢野燿大監督が読書を勧めていることもあり、いろんな選手に聞いています。何か読んでいる本は?「すごく売れているアレとか読んでいます、嫌われる人になれ、みたいな青い表紙のヤツ」。アレとかヤツとか、とても抽象的な説明でしたが…『嫌われる勇気』という本ですね。去年の1月にドラマ化もされた、アドラー心理学を解説したベストセラーです。
「それとかコミュニケーション能力向上の本ですね。ちょっとしか読んでいないです。アドラー心理学ね。人間のすべての悩みは人間関係によるもの。そういう周りを気にしてもしようがないから、自分のやるべきことに集中して取り組むだけということですね」
人の期待に応えようとするあまり、自分のよさも力も出せずに終わっては本末転倒。だから自分の意志を伝えなくちゃいけないけど、それには“嫌われる勇気”も必要。そんな意味だと知りながら、あえて飛びだした質問が「嫌われる勇気は、誰に嫌われる勇気?」
すると原口選手の答えは「記者陣…」とポツリ。しみじみ言われてもねえ(笑)。「別に嫌われようと思っているわけじゃないですよ」。自分の考えを持って臨まないといけない?「結果を出す。それだけ!」
10年目の漢字は『勝』で!
2019年、いよいよ10年目に突入します。ああ10年か、と感じることはある?「全然、何にもない。歳を取っちゃったなあって感じがするだけです。10年か~って」。早かった?遅かった?「早いですよ、だって何もやってないのに7年過ぎちゃったんですから」。でも、その7年があるから今の原口選手がいるわけで。「そうですねえ。でかい10年やなあ、そう考えると」
歳を取ったと思うのは、どこらへんで?「足が速くならない」。それは…歳のせい?いや失礼しました。「でもほんと、あっという間だなあ。そう言っていたら、あっという間に10年経って引退を考える歳になっちゃうから。しっかり1年1年、結果を残してやっていくしかないですね」
では最後に“漢字”で表現。ことしを振り返ると?「足りない、の『足』です」。1年前に挙げたのは『耐』でしたね?「耐えるシーズンから足りないシーズンになったんです。来年は…来年の漢字は『勝(かつ)』。 勝利の勝!」。何に勝つ?「チームの勝ちもそうだし、うん、やっぱり自分のポジションも勝ち取らないといけないし。そうじゃないですかね?どうですか?」。いいと思います。
「勝ちにいく。貪欲に。特にホームでは」。それこそ、今シーズン耐えてくださったファンの皆さんの願いでしょう。
もと寄居リトルシニアの11期生
この野球教室の前日、原口選手が中学時代に所属した深谷彩北リトルシニア(当時は寄居リトルシニア)の練習風景を見せていただきました。ご案内くださったのは、昨年もお話を伺った常木正浩監督です。埼玉県深谷市の南部、荒川の河川敷にあるグラウンドは原口選手が中学2年くらいから使っており、そういう縁もあってチーム名を「寄居」から「深谷彩北」へ変更したとか。
全部で43人の中学生が所属していて、この日は受験生らを除く38人がいました。また、体験練習に来ていた小学6年生の子どもたちの姿も何人か。来年度は同じユニホームを着ている少年がいるかもしれませんね。ことし1月の体験練習に参加した子の中からも、4人が深谷彩北に入団したと聞きました。その体験練習の日にちょうど原口選手が顔を出して、みんな感激したみたいです。
なお今月16日に第23期生の卒団式があり、原口選手からサプライズでビデオメッセージが届いたのですが、締めくくりは「阪神タイガースの原口文仁より」でなく、「第11期の卒団生より」という自己紹介だったのが、何とも奥ゆかしいでしょう?
グラウンドに残る感謝のかたち
常木監督はグラウンドを見ながら「よく走っていましたねえ、ふみは。嫌な顔を見たことがない。いつもニコニコしていた記憶があります」と、しみじみ。いや多分、本当に楽しかったんだと思います。体がきつくても、野球をしていること、させてもらえることが嬉しくて仕方なかったんだと。
だから毎年、寄居町へ帰ってきて子どもたちに会うたび「お父さん、お母さん、みんなに感謝して野球をしてください」という言葉を伝えるんですね。
阪神タイガースに入団してすぐ、原口選手は自身を育ててくれた地元のチームに感謝をこめて寄付をしています。それでキングフィッシャーズはユニホームを作り、深谷彩北リトルシニアはグラウンドで使うネットを購入しました。普通のネットは枠もネットも緑色なのですが、“原口ネット”は枠だけタイガースカラーの黄色に塗ってあります。年数を経て薄くなっているけれど、今もしっかり現役!
地元の皆さんにとって原口選手は誇りで、子どもたちにとっての原口先輩は憧れであり目標なのだと、ことしも多くの方々とお会いして実感しました。もっと大きく、強くなって喜んでもらいたいですね。それが何よりの恩返しだから―。来年も原口文仁捕手に、どうぞご期待ください。
<掲載写真は筆者撮影>