SM-3ブロック2A迎撃ミサイルがICBM標的の撃墜に初めて成功
11月16日(ハワイ標準時)、米ミサイル防衛局(MDA)の発表によると日米共同開発中のイージス弾道ミサイル防衛システム「SM-3ブロック2A」迎撃ミサイルによってICBM(大陸間弾道ミサイル)に相当する標的の撃墜に成功しました。SM-3は本来IRBM(中距離弾道ミサイル)迎撃用として開発されており、ICBMの撃墜は初めてとなります。
この迎撃実験FTM-44ステラーランサー(星の槍騎兵)に参加したのはイージス駆逐艦「ジョン・フィン」で、ハワイ北東部に待機していました。ICBM標的はハワイ西南西にあるマーシャル諸島クェゼリン環礁のロナルド・レーガン弾道ミサイル防衛試験場から発射され、2基の早期警戒衛星が探知し、C2BMC(指揮管制戦闘管理通信システム)を介して早期警戒衛星の追跡データをイージス駆逐艦に送信。MDAの公式発表では遠隔交戦(engage-on-remote:EOR)機能を使用したとあります。
しかし発表資料によるとイージス艦の自己レーダー以外に参加しているレーダーが無いので、正確には早期警戒衛星(STSS衛星。赤外線によるミサイル探知だけでなく追跡が可能)の追跡データを使用して迎撃ミサイルの発射を前倒しする遠隔発射(launch-on-remote:LOR)機能を用いたのではないかと推定できます。おそらくMDAは遠隔発射を含んだ広い意味で遠隔交戦という表現を用いたのかもしれません。
【参考】前方展開レーダーの役割が重要な弾道ミサイル防衛システム・・・遠隔交戦EORと遠隔発射LORの説明。
イージス弾道ミサイル防衛システム(イージスBMD)のSM-3迎撃ミサイルは本来はIRBMまでが迎撃目標として想定されているので、より高速でより高い高度を飛んで来るICBMを相手に迎撃しようとするとミッドコース段階の間でも高度を下げて降りて来た頃合いを狙わないといけません。ターミナル段階の少し手前くらいで迎撃することになります。このため、ICBMを迎撃するには着弾地点の周辺でイージス艦が待ち構えておく必要があります。つまりSM-3ではICBMの発射直後や弾道頂点付近で迎撃することはできません。
実はこのSM-3でICBMが降りて来たところを狙い撃つという構想は、イージスBMDがまだNTW(海軍戦域広域:Navy Theater Wide)と呼ばれていた1990年代前半にはもう計画されていて、アメリカ本土周辺に配備したイージス艦でICBMを迎え撃つ案が資料で提示されていました。
30年近く前に立案して採用されなかった計画が今になって再利用された形です。これは採用された本土防衛用GBI迎撃ミサイルの試験成績が芳しいものではないので、SM-3ブロック2A迎撃ミサイルで補完しようという意図があります。GBIの迎撃弾頭を改修して性能改善する計画と並行しつつ、SM-3が本土防衛の補助的な代役として選ばれました。
※米ミサイル防衛局(MDA)の公式発表
※米海軍協会(USNI)がMDAの発表動画を纏めたもの。前半がICBM標的の発射とSM-3ブロック2Aの発射と直撃の実写映像、後半はCGによるFTM-44実験の解説。