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「コロナに負けるな」。生まれ変わった独立球団、滋賀ブラックス

阿佐智ベースボールジャーナリスト
滋賀ブラックスのホーム球場のひとつ、甲賀スタジアム

 滋賀県甲賀市。滋賀と言えば、琵琶湖のイメージだが、ここは周囲を山に囲まれた盆地で真夏の暑さは尋常ではない。江戸時代にさかのぼれば、東海道が通り将軍の上京の際にはその宿泊所となった水口(みなくち)城が建てられた交通の要衝も、現在は地方都市のご多分にもれず、覇気のない田舎町と化している。

 10数年前に日本にできたプロ野球独立リーグは、地域密着を掲げ、このような疲弊する地方都市に元気を与えることをその使命のひとつとして掲げている。その理念に賛同した起業家が4年前、近畿地方初のルートインBCリーグの球団として立ち上げたのが滋賀ユナイテッドだった。しかし、元社会人野球の選手がスポーツへの思いから創ったこの球団は、親会社をもたず、常に金欠に悩まされていた。そのためか、補強も思うままにならず、チーム創設以来下位に低迷している。

 そこに「ホワイトナイト」として名乗りをあげたのが、横浜に拠点を置く建設・不動産業を中核とする企業グループ、オセアンだった。この企業は、スポーツ支援に積極的で、NPBのオリックス・バファローズがファームの本拠を神戸から大阪に移した際には、新球場の命名権を買い取っている。

 地域密着を掲げる独立リーグだが、BCリーグではチーム名のネーミングライツは認めている。昨シーズン開幕前、この会社をメインスポンサーに迎えた滋賀球団は、その名を「オセアン滋賀ユナイテッド」と改めた。そして、シーズン途中に運営会社の経営権を買い取ったオセアンは、今シーズンを前にして、ニックネームも「ブラックス」と改め、再スタートを切った。

 創設時から球団運営に携わっているスタッフは、「身売り」についてこう話す。

「我々の仕事はそんなに大きくは変わっていませんよ。少ないスタッフで東奔西走。いつも忙しいです(笑)。でも、親会社がついて、そのグループ企業のひとつとなったことで、財政基盤は盤石っていう思いはしますね」

 とは言え、通勤圏とも言っていい阪神大都市圏にNPB2球団を抱える滋賀にあって、「オセアン滋賀ブラックス」の名はまだまだ浸透しているとは言えない。そもそも「野球が盛ん」というイメージの薄いこの県は、そのイメージ通り、照明塔を備えた数千の集客に耐えうる球場は少ない。その上、NPBの二軍戦が開催可能な県内のふたつの球場はその高額な使用料のゆえ、ほとんど使用することなく、ブラックスは球団創設以来、交通の便のいいとは言えない小さな球場を転戦している。この日の試合会場の甲賀市民球場も、時代物の電車が30分に1本走るローカル線の駅から徒歩20分という、周囲を田んぼと山に囲まれたスタジアムだった。それでも休日とあって、小さなスタンドはそれなりに埋まっていたが、発表された観客は200人ほどだった。滋賀球団は観客動員でも創設以来低迷を続け、昨シーズンは2年連続リーグ最下位の1試合平均305人しか集めることができなかった。

田園風景に囲まれた甲賀市民球場
田園風景に囲まれた甲賀市民球場

 

 これにコロナが追い打ちをかけた。BCリーグは、他のプロスポーツと同じく今回のコロナ禍を前に開幕を遅らせ、6月20日に今シーズンのスタートを切ったが、観客の有無は各球団に任された。滋賀球団は、様々な対策を講じたうえで、7月23日にようやく有観客試合の開催に踏み切ったが、その直後にチームスタッフの感染が判明。試合興行どころか、PCR検査の結果を待って活動再開に踏み切った他球団を尻目に、8月5日まで一切の活動を休止せねばならなくなった。8日、2週間ぶりに試合が解禁となり、ホームゲーム2連戦を戦ったが、連敗を喫してしまった。とくに昨日の試合は、投手陣がストライクを取ることができず、ランナーを貯めてからの痛打を浴び、序盤に試合が決まってしまう大敗だった。

滋賀は先発に元日本ハムの高良を先発させたが、調整不足から1回1アウトしか取れず降板となった
滋賀は先発に元日本ハムの高良を先発させたが、調整不足から1回1アウトしか取れず降板となった

 この状況に5回には下位打線に次々と代打を送り、福井投手陣に零封を喫したふがいない打線に喝を入れたかに見えた成本年秀監督だったが、試合後のコメントは極めて冷静だった。

 「2週間ぶりの試合だったんでね。今回のこと(コロナによる活動自粛)があって、5日までは選手も自宅でのトレーニングしかできませんでしたから。本当はうちは打線が弱いんで何とか先発投手に試合を作ってもらいたかったんですけど」

 「アスリートファースト」ならば、活動再開後、十分な調整期間を設けた上での公式戦再開というのが理想なのだが、スポーツ興行としては、とにかく試合をせねば、それを前提としたスポンサー収入も入らない。NPBで長らくプレーし、プロスポーツの酸いも甘いも知っている通算83セーブを挙げた元クローザーは、大敗にも選手を責めることはなかった。

福井先発の仲里は、安定したピッチングで3勝目を挙げた
福井先発の仲里は、安定したピッチングで3勝目を挙げた

 今シーズンも例年通り(失礼!)、というよりも例年以上の2勝13敗というダントツの最下位街道を走るオセアン滋賀ブラックスだが、それでも成本は前を向いている。

「今シーズンは、何年か独立リーグでプレーした選手が出ていって、新しい選手が入って迎えたんです。これで今シーズン戦って、補強はその後でしょう。親会社がついて、やっぱり環境は良くなりましたよ。ジプシー生活は相変わらずですけど、ある程度、毎日の練習球場も普通の野球場(野球専用ではない「運動場」で練習することも多い)を確保できることも多くなりましたし。我々の環境も、例えば用具の面ではずいぶん改善されました。親会社がついて、私からもいろいろ要望するようになりましたが、これから良くなっていくように我々も頑張りますよ」

 

 オーナー企業が表に出る、「コーポレーション・アイデンティティ型」の日本のプロ野球においては、「身売り」はこと否定的に捉えられてきた。しかし、プロスポーツの発展・成長には、オーナーからの資金提供は欠かせない。滋賀という野球界にとっては「ビミョー」な地に芽生えた小さなプロ野球の発展には、オーナーの熱意だけでなく、ファンの後押しが必要であることは言うまでもない。滋賀ブラックスの私設応援団は、BCリーグにあっても熱心なことで名を馳せている。監督の成本が「やっぱりありがたいですよ」というファンの声援がスタンドを埋めるとき、湖国に独立リーグという野球文化が根付くことだろう。

スタンドには熱心ファンが陣取っていた
スタンドには熱心ファンが陣取っていた

(写真はすべて筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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