なぜ飲食店で「一酸化炭素中毒」が多発しているのか?
名古屋のラーメン店で一酸化炭素中毒か
6月30日14時30分頃、名古屋市内のラーメン店から「吐き気や目まいの症状を訴えている人がいる」と119番通報があった。その結果、従業員3名と客1名が体調不良を訴えて病院に搬送された。いずれも意識はあり命に別条はないという。愛知県警東署や消防によれば、店内から高濃度の「一酸化炭素」が検出されたという。不調を訴えた人たちは「一酸化炭素中毒」になっていた可能性が非常に高い(参考記事:読売新聞 2018年7月1日)。
飲食店における一酸化炭素中毒は決して稀なケースではない。また業態もラーメン店だけではなく、焼鳥店や中華料理店、ファストフード店など多岐にわたる。なぜ飲食店で一酸化炭素中毒が多発するのかといえば、店側の安全管理面での知識が足りないからに尽きる。私も仕事柄、数多くの飲食店に足を運ぶが、危険だと感じる店は決して少なくはない。
炭やガスの不完全燃焼で発生する一酸化炭素
一酸化炭素(CO)とは無色、無臭の気体であり猛毒である。木炭や燃料用ガスなどが酸素不足により不完全燃焼を起こすと発生する。無臭である一酸化炭素は発生しても気付くことが非常に難しいため、中毒症状を引き起こしてしまうことになる。空気中の一酸化炭素濃度が0.02%を超えると軽い頭痛などの中毒症状が認められ、0.08%ともなると頭痛、めまい、吐き気、2時間で失神することもある。0.3%を超えると最悪の場合は死に至る(参考資料:日本ガス石油機器工業会ホームページ)。
炭やガスなどを正しく燃焼させるには酸素が必要だ。特にラーメン店など常時ガス機器を稼働させて火を点けっぱなしの業態は、常に「換気」に注意を払う必要がある。かつて一酸化炭素中毒事故は冬場に起きることが多かったが、冷暖房設備や空調設備などが整備された現在では夏場の発生も増えている。昔ならば夏場は窓や入口を開けて扇風機を回して営業している店ばかりだったが、今はどこも密閉された空間で冷房を効かせて営業しているのだから、換気を意識しなければならないのは当然のことだ。
「換気」に対する意識の低さが事故を生む
そのために厨房内や店舗内には換気扇などの換気設備が必須となっており、常にその設備が正しく稼働しているかをチェックするのは言うまでもない。しかし実際には換気設備のトラブルやスイッチの入れ忘れによる事故だけではなく、店側が意図的に換気扇を回さずに事故となっているケースも少なくないのだ。なぜ敢えて自殺行為のようなことをしてしまうのか。
ひとつは換気設備から出て来る騒音の問題である。マンションの1階で営業している飲食店の場合、早朝の仕込み時などに換気設備を稼働させると住民たちに迷惑がかかるため、敢えて換気扇を回さずに仕込みをすることがある。その時はもちろんドアや窓を開けるなどして換気しなければならないが、臭いなどの問題もあり閉め切って火を使うため換気が不十分になっていることが多いのだ。また、営業中なども冷房効率を良くするために換気扇を回さないという店も少なくない。
一酸化炭素中毒事故は未然に防げる事故
一酸化炭素中毒事故は飲食店に限ったことではない。もちろん一般家庭でも起こりえる事故だ。私たちは事故を起こさないために、なによりもまず換気を徹底する意識を持つことが重要だ。ガス機器や炭火などを使う時には必ず換気をする。次に日頃のガス機器や給排気設備の点検や清掃を徹底する必要がある。
また、ガスを使っている時は炎の状態を常にチェックする。ガスは正しく燃焼している時は青い炎だが、酸素が足りず不完全燃焼になっている場合、炎の色はオレンジや赤になっている。このような状態になっている時はただちに機器の使用を停止する必要がある。さらに万が一のために一酸化炭素の発生を検知するCO警報機などを設置する。一般的な火災警報機などは煙や熱を検知するため一酸化炭素は検知出来ない。専用のCO警報機、もしくはCO検知も兼ねた機器を使用しなければならない。
一酸化炭素中毒になった場合、その初期症状は頭痛やめまい、吐き気など、風邪に似た症状であるため、一酸化炭素中毒である自覚がないことがほとんど。飲食店の厨房や台所などでガスや炭火を使っていてそのような症状になったら、まずは換気して新鮮な空気を取り込むことが不可欠だ。
室内に新鮮な酸素がなければ、不完全燃焼を起こし一酸化炭素が発生する。一酸化炭素中毒事故は知識さえあれば未然に防げる事故だ。飲食店で働く人も、訪れる客も知識をしっかりと持って、不幸な事故をなくしていかなければならない。