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B2・東京EX戦で見かけた飛田選手と少年の『良い場面』

大島和人スポーツライター

31日に開催された男子バスケBリーグ2部の「東京エクセレンス(東京EX)×ファイティングイーグルス名古屋(FE名古屋)」を取材していたら“ちょっといいシーン”に出くわした。

東京EXは今季ここまで19勝29敗と苦しみ、西地区の6チーム中では4位に位置している。対するFE名古屋は34勝で西宮ストークスと並び、同じ地区の2位。ただ、この日は東京EXとFE名古屋が終了間際まで接戦を演じていた。

東京EXは2点リードで迎えた第4クォーター残り2分16秒に、飛田浩明選手の3ポイントシュートが決まる。74-69と点差を拡げられたFE名古屋のベンチは、その直後にたまらずタイムアウトを取った。

飛田選手は守備に備えて自陣に戻りかけていたが、笛を聞いてダッシュを緩める。そのまま惰性で2歩、3歩と進んで、ふと左側を見た。何かを見つけた彼は、左手の人差し指でコートサイド席を指さした。「お前のために決めてやったぞ」というようなポーズだった。

飛田選手はこう振り返る。「ちょうどシュートを決めた後に、僕のジャージを着ている子が目に入ったので……。結果的に良いシーンになりましたね」

小学1,2年の少年が「背番号18」の入った東京EXのユニフォームを着て、コートサイドに座っていた。少年は両脇に座っていた両親から何やら耳打ちされて、満面の笑顔をコートに返していた。

飛田選手と少年が知り合いというわけではなく、コートサイドに自分のジャージを着た子が座っていることも気づいてはいなかったという。ただ「ファンサービスで絡んだことはある。ジャージをプレゼントする企画で当たったのかもしれない」(飛田選手)とのことで、少年を認知はしていたようだ。

31日の飛田選手はチーム最多の16点を挙げる活躍で、FE名古屋を87-79で破る勝利の立役者となった。そんな劇的な場面を目の当たりにして、ヒーローの「どや顔と指差し」をプレゼントされて、少年のバスケへの思いもきっと強くなったことだろう。

東京EXは板橋区を本拠とするB2のチームで、同じ東京のアルバルク東京、SR渋谷のような大企業の支援を受けるチームではない。1試合の平均観客数も三ケタで、31日の試合も観客は784名に止まった。一方でだからこそ選手とファンの「1対1」は深いし、声援一つ、ユニフォーム一つが重い。飛田選手も「今日はたまたまジャージを着た子がいましたけれど、そういう子が増えると僕たちもすごいモチベーションにもなる」と思いを口にする。

飛田選手は3ポイントシュート、そして直後の「指差しガッツポーズ」についてこう振り返っていた。「(中継に)映っていてほしいですね。見せ方も一つの仕事だと思うので、良い絵が撮れるようにこれからも頑張っていきたい」

スポナビライブの中継映像(見逃し配信)を見返すと、幸いにして『決定的瞬間』が画面の隅に捉えられていた。ご覧になれる方は3月31日に開催された「東京EX×FE名古屋戦」の第4クォーター残り2分30秒頃からの流れを、皆様にもぜひご確認いただきたい。

自分のユニフォームを着て応援してくれた子供に何かメッセージはありますか?記者がそう飛田選手に聞くと、彼はこんなことを語ってくれた。

「彼が大きくなったそのときまで現役でやっていけたらなと思う。彼にやられて僕が引退するくらいのことになれば……。夢がありますよね」

彼の未来がファンか選手かは分からない。ただ子供のときの原体験は大人になっても残る。あのような劇的なアクションはどんな言葉よりも雄弁に、少年に“夢”を伝える方法だったに違いない。選手とファンの距離が物理的、精神的に近いからこそ起こった楽しいハプニングを見て「Bリーグって良いな」と素直に思った。そんな飛田選手と少年の“交信”だった。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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