お客様の本音を引き出せない人の観察力アップ法「後出しジャンケン」
お客様から共感されない営業は、観察力が低い。
ベテランの営業なのに、最近はめっきり新規で開拓できていない。成績が伸び悩んで落ち込んでいる。現場を見てほしい、とある繊維メーカーの営業本部長から言われた。
実際に同行すると、さすがベテランだと思うことが多かった。事前準備がしっかりしている。
「お客様の業界を調べたうえで、お役に立てる情報をすでに用意しています」
と言い、パソコンに入っている凝った資料を見せてくれた。ところがお客様に会うと、その情熱が裏目に出てしまう。
「繊維メーカーとして何かお役立ちができないかと思っていますので、どうぞよろしくお願いいたします」
「それは嬉しいですね」
「ところでご存じないと思いますが、実は最近繊維業界は新しい素材の開発がさかんでして、そのことについてお話をさせていただけませんか?」
「はあ」
「こちらをご覧ください。わが社を含めた業界全体で取り組んでいるプロジェクトです」
ベテラン営業は入念に作られた資料でプレゼンをはじめた。プレゼンそのものは素晴らしかったが、お客様は退屈そうに聞いているだけだった。
営業本人もわかっていたようだ。帰り道「なぜ私のプレゼンが刺さらなかったのか」とうなだれていた。
私はこの営業のプレゼンが刺さらなかった理由がわかっていた。
すでにお客様は、営業がプレゼンしていた内容を知っていたのだ。にもかからず、営業は「ご存じないと思いますが……」と決めつけて情報提供をはじめてしまった。相手の反応を見ることなく、丹念に用意したプレゼンに没頭してしまったのだ。
■お客様の意思決定プロセスは大きく変わった
お客様が自分で調べる時代になった。
WEBサイトやオンラインセミナー、SNSなど情報収集手段が多様化した。コロナ禍になってからはその傾向が特に顕著だ。
意思決定プロセスにおいて半分以上のお客様は営業の接触前に済ませている、こんな調査結果もあるほどだ。
しかしながら、そのことをよくわかっていない営業が多い。お客様に情報提供するのが営業の役目だと思い込んでいるのだ。
どんな情報がお客様のお役立ちになるのか、仮説を持つのはいい。しかし「アテ」にいってはいけない。
だからお客様とまだ関係ができてないときは、いつも「後出しジャンケン」で情報を集めよう。
そのために大事なことは質問して、相手がどこまで知っているのかを知ることだ。
■質問してから「後出しジャンケン」
それでは、どんな風に質問をすればいいのか。次のようなオープンクエスチョンをしながら相手の反応を観察してみてはどうか。
「お客様は繊維業界のこと、どのぐらいご存じですか?」
「いや、全然わかってませんよ」
「新しい素材の開発についてはいかがですか?」
「ああ、それなら去年のオンラインイベントで聴きました」
「どのようなオンラインイベントですか?」
「AAA社が主催されたイベントです」
「あ! AAA社ですか。当社のパートナー企業です」
「そうでしたか」
「新しい素材に関してはどんな印象を持たれましたか?」
「いや、実はあれからいろいろ調べましてですね……」
「え、どこまでご存じなんですか? いろいろ教えていただきたいです」
「いやいや、教えてほしいのは私のほうですよ。実は東南アジアの生産拠点を拡大しようと思っていまして、新しい素材については情報を集めてるんです」
「そうでしたか! それならぜひお任せください」
このようにうかがってから、お客様が知らない情報だけを提供すればいい。まさに「後出しジャンケン」だ。
繰り返すが、仮説を持ってお客様と接触するのはいい。ただ、その仮説は「後出しジャンケン」で披露していくべきなのだ。