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『鬼滅の刃』で語られる「日輪刀の原料が採れる陽光山」とは、いったいどこにあるのか?

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。

マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。

さて、今回の研究レポートは……。

最初におことわりしておくと、今回の研究レポートは「トンデモ話」です。

いくらなんでもその結論はない、と筆者自身も思う。

でも、アレコレ考えたら楽しかったので、強引なのを承知で報告させていただきたい。

題材は、『鬼滅の刃』のなかで語られる「陽光山」はどこにあるか、というもの。

鬼を倒すことができる唯一の武器・日輪刀。

竈門炭治郎の日輪刀を作ったのは、刀鍛冶の鋼鐵塚(はがねづか)さんで、彼は日輪刀の材料について、興味深い説明をしていた。

「日輪刀の材料である砂鉄と鉱石は 太陽に一番近い山でとれる

“猩々緋(しょうじょうひ)砂鉄”“猩々緋鉱石”

陽(ひ)の光を吸収する鉄だ

陽光山は 一年中陽が射している山だ

曇らないし 雨も降らない」

鬼の最大の弱点は「太陽の光」だから、それを吸収する鉄でできている日輪刀なら、鬼の頸を切ることができる。

深々とナットクである。

では、そういう特殊な材料が採れる陽光山とは、どんな山なのか?

鋼鐵塚さんによれば「太陽にいちばん近く、一年中陽が射している」山。

これを元に考えると、たいへん興味深い山の姿が浮かび上がってくる。

◆永遠の陽射しの頂

鋼鐵塚さんの「一年中陽が射している」とは、どういう意味だろうか。

普通に考えれば「毎日1回は陽が射す」という解釈になりそうだが、それだと北極圏と南極圏以外の山はすべてそうである。

陽光山は、そんな普通の山ではないのでは……?

そこで、鋼鐵塚さんの言葉「一年中陽が射している」を、そのまま受け取って「1年のあいだ、常に陽が射す」と考えたらどうなるだろうか。

つまり「1年=365.25日=8766時間、夜も含めて、陽の射さない瞬間がない」としたら……?

そんな山はあり得ない?

いや、それが理屈のうえではあり得るのだ。

下のイラストをご覧いただきたい。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

斜線部は太陽の光が当たらない領域だ。

北半球に太陽光がもっとも当たりにくいのは冬至の真夜中で、このとき地軸は太陽の光がスレスレをかすめる点から、太陽と反対側に23.4度傾いている。

もし陽光山が東京と同じ北緯35.7度にあるとしたら、地軸からの角度は54.3度。

すると、陽光山は光がかすめる点から23.4度+54.3度=77.7度の角度でそびえ立つことになる。

図解のなかの陽光山に太陽光は当たっていないが、それは山の標高が足りないからである。

陽光山がもっともっと高くて、その頂上がイラストの斜線部から飛び出して、光の当たる領域にあれば、陽光山の山頂には24時間いつも陽が当たる!

天文学に「永遠の陽射しの頂(いただき)」という言葉がある。

実際にはまだ見つかっていないのだが「太陽系の天体において、常に太陽光が射している場所」のこと。

自転軸の傾きが小さい天体の、標高が高いところに、そういう場所があるのでは……といわれていて、月の山にもその可能性が指摘されている(月は雨が降らないので山が高く、ホイヘンス山の標高は5500mもある)。

「永遠の陽射しの頂」があれば、そこでは常に太陽エネルギーを受けられるため、発電装置などの設置が可能であり、また気温が安定しているために、宇宙基地を作りやすいなどの利点があるのだ。

もし陽光山に常に陽が射し続けているとしたら、まさに「永遠の陽射しの頂」である。

◆陽光山は、宇宙にそびえ立つ!

では、山頂にずっと陽が当たり続けるとした場合、陽光山の高さはどれだけなのだろうか。

これは、高校1年の数学で習う「三角比」を使えば求められる。

「地球半径(6378km)÷コサイン77.7度-地球半径」で、答えは2万4千km!

ここ、単位は「m」じゃなくて「km」です。

一般に高度100km以上を「宇宙」というから、陽光山は宇宙まで届く大霊峰なんですなあ……!

って、のんきなことを言ってる場合ではないか。

地球の直径は1万2800kmだから、2万4千kmというのは、その倍に近い。いくらなんでもあんまりだろう。

もちろん、もっと低くても常に陽が当たる可能性はあって、それは陽光山がもっと北にある場合。

計算すると、日本最北端の都市・稚内と同じ北緯45.3度にあったら高さは1万912km。

もっとも低い場所は北極点や南極点で、その場合の標高は588km。

うーん、いずれも宇宙ですなあ。

――という結論になってしまうのだが、いろいろな意味で「そんなバカな」ですね。すみません。

でも、鬼を倒せる日輪刀の材料が採れるんだから、陽光山はそのくらいスゴイ山なのかも……と、筆者は妄想をめぐらせてしまうのであります。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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