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”ゲームチェンジャー”などではなく、従来からある兵器の戦車・大砲・戦闘機を要求したウクライナ

JSF軍事/生き物ライター
2022年4月13日ウクライナのゼレンスキー大統領が行った演説。戦闘機などを要求

 2月24日にロシアによる侵攻で始まったウクライナの戦争では、当初はジャベリン対戦車ミサイルの活躍やドローンからの映像を見て「ゲームチェンジャーだ」という主張が多く見られました。戦況を一変させる新兵器の時代が到来し、旧兵器を駆逐するという論調です。

 しかし当のウクライナがそれを否定しています。

155mm榴弾砲・砲弾(西側製)と152mm榴弾砲の砲弾(東側製)

多連装ロケットシステム:Grad、Smerch、Tornado(東側製) ※Tornadoは間違えている可能性が高い

多連装ロケットシステム:M142 HIMARS(アメリカ製)

装甲車:装甲兵員輸送車(APC)、歩兵戦闘車(IFV)

主力戦車:T-72(東側製)、同級のアメリカ製またはドイツ製

防空システム:S-300やブーク(東側製)、同級の西側製

戦闘機:私たちの都市を解放するために絶対に必要

出典:ウクライナのゼレンスキー大統領が要求した重装備の大型兵器について解説(2022年4月14日)

 ゼレンスキー大統領が4月13日の演説で各国に支援を要求した兵器は榴弾砲、多連装ロケット、装甲車、戦車、防空システム、戦闘機でした。従来からある大型兵器が必要だと訴えたのです。

 もし本当にジャベリン対戦車ミサイルやドローンが戦況を一変させたゲームチェンジャーであるなら、それを中心に供与して欲しいと訴える筈です。しかしそのような要求ではありませんでした。つまりこれらはゲームチェンジャーなどではなかったという結論になります。

 西側の兵器供与は当初は訓練期間が短くて済む歩兵携行兵器が中心にならざるを得ませんでした。事態が切迫していたからです。それが首都キーウ防衛成功で時間的な余裕が生まれたことで、訓練期間が長くなる大型兵器の供与へと要求の中心が移り変わりました。

 確かにジャベリンは首都防衛に貢献し救国兵器と言える大活躍をしました。しかし反攻作戦では主役にはなり得ないだろうと判断されたのです。

 次の主戦場となる東部ドンバスでは熾烈な遠距離砲撃戦になると予想され、決戦兵器は榴弾砲と多連装ロケットになり、さらにこの環境下で進撃し行動するには砲弾の破片から身を守れる装甲車両が必要になるので、4月13日のゼレンスキー演説でこれらが要求されました。

 そして以下の兵器が供与が決まり、既に多くが届いて戦線に投入され始めています。

ゼレンスキー大統領の呼びかけへの応え(重装備の供与)

  • 榴弾砲(東側)・・・D-20、D-30、グヴォズジーカ、ダナ、ズザナ2
  • 榴弾砲(西側)・・・M777、FH70、L118/L119、M114A1、カエサル、M109A3、AHSクラブ、PzH2000
  • 多連装ロケット(東側)・・・BM-21グラド、RM-70
  • 多連装ロケット(西側)・・・MLRS、HIMARS
  • 装甲兵員輸送車(APC)・・・M113、FV103スパルタン
  • 歩兵戦闘車(IFV)・・・BMP-1
  • 東側主力戦車・・・T-72M1、T-72M1(R)
  • 西側主力戦車・・・供与決まらず
  • 防空システム・・・S-300PMU、IRIS-T SLM
  • 戦闘機・・・Su-24攻撃機

【外部参考記事】呼びかけへの応え:ウクライナへ供与される重装備(一覧):Oryx Blog - ジャパン

 ゼレンスキー大統領が4月13日の演説で要求した兵器のうち、現時点で緊急性の高い榴弾砲と多連装ロケットは合わせて250門近くの供与が決まり、T-72戦車は270両以上、装甲車(APCとIFV)は400両近くになります。砲弾の供与数は数え切れませんが、おそらく数十万発になります。

 現在の主戦場である東部ドンバスはウクライナの予想通り熾烈な遠距離砲撃戦になっており、砲戦火力に勝るロシア軍がじわじわと優勢になっている状況です。これに対抗するために各国は急いで榴弾砲を手当たり次第に搔き集めてウクライナに送っている状況で、既に十数種類もの榴弾砲が供与される事態となっています。

 戦車はT-72戦車の大量供与が始まっていますが、西側製戦車の供与はまだ決まっていません。装甲車は西側のM113系と東側のBMP-1系が送られています。

 遠距離砲戦が主体の戦場では砲弾の破片が大量に降って来ます。戦時動員を掛けて兵員数は多いものの装甲車両の足りないウクライナ軍は普通の市販車までも前線に投入していますが、装甲が無い市販車では砲撃下では大きな損害を出してしまいます。装甲車については装甲さえ付いていれば何でもいいのでとにかく数が欲しい筈でしょう。

 大型防空システムは旧東側製S-300地対空ミサイルが一個高射隊分が届いただけですが、新たに西側のドイツ製の中距離防空システム「IRIS-T SLM」の供与が決まり訓練が始まったので、継続して追加補充されていくことになるでしょう。「IRIS-T SLM」は今年1月に開発試験が完了したばかりの文字通りの最新兵器です。

 戦前の予想に反しロシア空軍が航空優勢を確保できなかった最大の要因は、ウクライナの大型防空システムが生き残り戦い続けたことにあります。それでも幾つも撃破され数を減らしていたので、新たに補充されることは継戦能力を保つために非常に重要です。

 戦闘機はロシアの反発を恐れて供与が進んでいません。MiG-29戦闘機供与の話はずっと浮かんでは消えてを繰り返しています。そのような中でSu-25攻撃機14機が分解状態でウクライナに陸送されたという報道が出ています。ただし送った国は不明で、確認は取れていません。ロシアが過剰反応しないようにこっそり送った形になります。

 なおウクライナ空軍パイロットの間ではアメリカ製F-16戦闘機の供与を望む声が強くあります。機種転換訓練にかなりの時間が必要になる上に、ゼレンスキー政権内から出ている要求ではありませんが、性能に勝るロシア軍のSu-35戦闘機やSu-30SM戦闘機に対して旧ソ連時代の戦闘機で挑むのは苦しい戦いになるからです。

【関連記事】

※MLRS/HIMARSのウクライナ供与は6月1日に決定しましたが、使用弾薬のうちATACMS短距離弾道ミサイル(射程300km)の供与は見送られました。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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