何が「国益」か
川口順子参議院環境委員長の解任決議案が可決され、与党は「国益」を考えていないと野党を批判している。川口氏は国会を留守にしても中国要人との会合に出席した方が「国益」になったと主張しているのである。
しかし中国要人との会合に出席する事が「国益」になるのか、出席しない方が「国益」だったのかは両方あり得る。与党が「国益」だと言うのならどこが「国益」なのかを説明する必要がある。ただ会合に出る事が「国益」だなどと子供じみた事は言わないで欲しい。
報道されているところで言えば、そもそも川口氏は自らの判断で委員会の日程を決め、その前日には中国から帰国する予定であった。ところが中国側が日程を変更したため滞在を1日延長して委員会を欠席する事になった。
つまり川口氏は中国側の日程変更を受け入れそれに従った事になる。それでは中国側の日程変更に従わなければならないほど日本にプラスになる何かがあったのであろうか。それが説明されていない。尖閣問題で日本の立場を主張する事が重要であるかのように言うが、日本の主張がどのようなものかはすでに世界中が知っている。川口氏が改めて説明するまでもない。また川口氏が日本国を代表する立場で行ったのかと言えばそうでもない。
中国側がどのような理由で日程を変更したのかは知らないが、あり得るのは急に日程を変更して相手がどう出るかを観察する事である。従えばそれだけ会いたがっているという事で中国には組しやすい。従わずに帰国すれば交渉はタフになると考える。それを試す意味での日程変更だったかもしれない。今回のケースで言えば日本の国会を混乱させても中国要人に会いたがったと言うメッセージが中国側には伝わった。
川口氏が中国側の日程変更に従ったのは、安倍政権の意向だったのか、それとも自民党の意向だったのか、あるいは川口氏個人の意向だったのか。三通りのケースが考えられる。安倍政権の意向だったとすれば、安倍政権発足時から続いている弱腰外交がまたもや繰り返された事になる。この政権は首脳会談を行ったアメリカからもロシアからも足元を見られた。今回はそれに加えて中国にもにじり寄ろうとする姿勢をあからさまにした事になる。
川口氏はしきりに自民党と相談したと言い、官邸は距離を置いた対応をしている。それを見ると官邸の意向ではないようにも見える。自民党執行部の判断だとするならばそれもお粗末な話である。あるいは自民党には初めから野党に批判させそれを野党叩きに利用する考えがあったかもしれない。昔の自民党は選挙のある年にはわざと労働組合にストライキを打たせるよう企業経営者に圧力をかけ、ストをメディアに叩かせて選挙に利用した。そのため与党は今回予算委員会を欠席するなど問題をあえて大きくしてみせたのかもしれない。
昔の野党は確かに国会を理由に閣僚の国際会議出席を認めなかった。大臣がいなければ国会を開く意味がないと言って国際会議に出席させないように嫌がらせをした。そうした悪弊の防御策として作られたのが副大臣制度である。大臣が海外に出ても副大臣が答弁要員として国会に出席するようになった。
だから今では昔の野党ほど閣僚の国際会議出席が妨害されることはない。しかし今回は昔の対応を思い出させるようなメディアの報道で国民に野党批判をさせようとした。何も考えないメディアは与党の思惑通りの報道を行い、「政治は一体どうなっているのだ」と嘆いて見せる相も変らぬ馬鹿馬鹿しい政治批判を行った。
「国益」を真剣に考える国は、中国側の一方的な日程変更を受け入れて国会を混乱させた話を、「国益」になるとかならないとかで揉める国に首をかしげるに違いない。会合に出席するかしないか程度の話を「国益」の問題として騒いでほしくない。それでは「国益」があまりにも軽々しくなる。
しかしこのところ政治の世界から聞こえてくるのは軽々しい話ばかりである。「日本の憲法改正要件は世界で最もハードルが高い」と嘘を言う政治家がいて、改正要件を軽くしろと騒いでいる。よくよく世界を見てほしい。国家の最高法規を軽々しく考えている国などどこにもない。どの国もハードルは厳しく出来ている。それでも憲法改正を行ってきたのは政治家たちがまっとうな努力をしてきたからである。まっとうな努力もせずに軽々しく騒ぐのは止めてほしい。
現実を直視しない政治家たちが嘘発言を続ければ、国際社会はますます日本を馬鹿にする気になるだろう。海外がアベノミクスをもてはやすのも「豚は太らせてから食え」と考えているからで、日本の経済成長を助けようと思っている訳ではない。腹の中では馬鹿にしながらそれを喜ぶ日本人を観察している。