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政治ショーとなった露朝首脳会談 「トランプ氏にとっては悪いニュース」と米紙

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
国際的枠組みの中での非核化を話し合ったプーチン大統領と金氏。(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 金正恩氏とプーチン大統領の初の露朝会談が終わった。この会談、アメリカはどう見ているのか?

 ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストの報道を見ると、結局のところ、会談はロシアと北朝鮮の“政治ショー”となった感は否めない。そして、トランプ氏にとっては、両国の会談内容は“悪いニュース”となってしまったようだ。

メンツ保ちとプレゼンス誇示

 金氏にとっては、ハノイでの米朝会談の失敗で失った名誉を回復するためのショーだった。

「金にとって、プーチンのような世界の指導者との会談は、ハノイでのトランプとの会談決裂後、メンツを保つ好機となった」(ワシントン・ポスト)

 一方、プーチン氏にとっては、朝鮮半島でのロシアのプレゼンスを世界に誇示するためのショーだった。

「大きな賭けとなる核交渉に一役買うロシアにとって、派手な首脳会談は、ロシアが世界で政治的役割を高めていることを証明するものだ」(NYタイムズ)

 しかし、そんなプーチン氏のショーは、結果的に、トランプ外交を台無しにしてしまったようだ。

「プーチン大統領は、トランプ大統領の核外交へのアプローチを台無しにするような北朝鮮の非核化支援ショーを行なった」(NYタイムズ)

6カ国協議の復活

 “プーチン氏がトランプ氏の核外交を台無しにしている”理由は、プーチン氏が会談で、トランプ氏が北朝鮮に対して行って来た1対1の2国間外交に疑問を呈し、トランプ氏が批判してきた6カ国協議(北朝鮮の核問題解決のために、2003年、日本、アメリカ、韓国、中国、ロシア、北朝鮮の6カ国が行なった外交会議)のような多国間の枠組みの重要性を主張したからだ。

「朝鮮半島情勢を解決するために、ロシアや中国のような国々を関与させずに、アメリカや韓国をあてにするのは間違いだ。いかなる2国間合意も不十分だ。今日議論した最重要事項は、国際法のルールを復活させることだ。そうすれば、朝鮮半島で起きている困難な状況を解決する最初の重要なステップになる」

とプーチン氏は話した。

 しかも、プーチン氏は金氏から、会談内容の詳細をアメリカや中国に伝えるよう頼まれたという。秘密にしておく必要はないというわけだ。

 しかし、1対1での2国間外交を重視しているトランプ氏が6カ国協議のような多国間の枠組みの中での段階的非核化に同意するとは思えない。北朝鮮は6カ国協議の取り決めを破るという“前科”があるからだ。6カ国協議に基づき、北朝鮮は2008年に寧辺の原子炉の冷却塔を爆破したものの、2009年にはミサイル発射実験と核実験を再開したからである。

ロシアが今6カ国協議を復活させようと企てていることは、トランプにとっては悪いニュースだ。彼は、6カ国協議は前政権の典型的な失敗例だと何度も言及してきたからだ」

とNYタイムズは指摘している。

安全保証は上手くいかない

 また、北朝鮮は非核化と引き換えに政権の安全保証を求めているわけだが、アメリカがどこまで安全保証をするのかも問題だ。例えば、北朝鮮国内で金政権転覆の暴動が起きた場合、アメリカがそれに介入するかという問題がある。

「どの国も金政権が欲しているような安全保証をする立場にはいない。金政権は海外からの攻撃だけではなく、国内で起きる不満に対する安全保証も求めている。結局、うまく行く見込みはない」と国民大学校の北朝鮮の専門家アンドレイ・ランコフ氏は、ワシントン・ポスト紙で言及している。

 金氏が政権崩壊後に暗殺されたリビアのカダフィー大佐の二の舞にはならないという保証はないのだ。

 詰まるところ、具体的にどのように金政権の安全を保証するのか?という方法論に行き着く。その具体的方法が提示されない限り、非核化は永遠に行われないだろう。

 また、北朝鮮と国境を接しているロシアが本当に北朝鮮の非核化を望んでいるのかという問題もある。その意味では、中国と同じ懸念を抱いているはずだ。もし、金政権が崩壊に追い込まれたら、北朝鮮難民が国境越えしてロシアに多数流入してくるかもしれないし、北朝鮮の核兵器が他国の手に渡る恐れもある。何より、緩衝国となっている北朝鮮がアメリカの影響下に入ることは脅威だろう。

 果たして、非核化が実現できる日が本当に来るのだろうか?

参考記事:Putin: Kim Jong Un needs international security guarantees to give up nuclear arsenal

After Meeting Kim, Putin Supports North Korea on Nuclear Disarmament

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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