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EUに残りたい地域政党と労働党が合意案を葬った。英国解体の覚悟は?:イギリスEU離脱ブレグジットで

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者
3月28日議会の前でデモをする離脱派の黒人の人(写真:ロイター/アフロ)

3度否決されてしまった。

3度の投票のたびに、合意案に賛成する数は増えている。今回は、このままでは合意なき離脱になってしまうと考えた保守党内の強硬派が、一部賛成にまわった。賛成286票、反対344票。

BBC.comより
BBC.comより

青:保守党 赤:労働党 レモン色:スコットランド国民(民族)党 オレンジ:自由民主党 グレー:独立グループ党(親EUとして労働党から独立) えんじ色:民主統一党 (DUP/北アイルランドの英国派) 濃い緑:プライド・カムリ(ウエールズ党)薄い緑:緑の党 ピンク: 無所属

EU離脱したくない人たちがブロック

最終的には「欧州連合(EU)に残りたい。離脱反対。だから離脱を取りまとめる合意案なんて賛成できない」という人々が「反対」に投票して、ブロックしたように見える。

彼らは3回の投票で、ほとんど全く変化がない。

イギリスの政党の中では3政党、「自由民主党」11票、「独立グループ党(労働党のEU支持政策が生ぬるいと分離した党)」11票、「緑の党」1票である。

筆者の視点では、一番注目したいのは地域政党である。スコットランド国民(民族)党と、プライド・カムリ(ウエールズ党)、DUP(民主統一党/北アイルランドの英国派)、この3つの党は、3回の投票で「反対」を投じ、ほぼまったく動かなかった(スコットランド人は、一人だけ3回目の投票で棄権した)。

彼らの票数を足すとそれぞれ、35票(34票)、4票、10票。合計すると49票(48票)である。3回目の採決で、もし彼らが全員賛成にまわったら、賛成335票、反対295票で、合意案は可決されていた。

(ただし、もし彼らが全員棄権していたら、賛成票286票、反対票296票で、やはり合意案は否決されていた)

つまり、EU離脱を望まない地域政党や人々の反対にあって、合意案は可決しなかったと言っても過言ではないと思う。

そして、労働党である。労働党はとうとう、残留支持なのか離脱支持なのか、最後までわからなかった。はっきりと「EU残留」という戦略で保守党に反対するのならいいのだが、国家が分裂する危機にあって、反対のための反対をして見えた労働党の罪は重かったと思う。苦しい立場はわかるが、左派政党の長としてのコービン党首には、大いに失望した。左派がナショナリズムを煽る一派に日和っていいのか。

それから、与党の保守党であるが。確かに、保守党の議員は、最終的に34人が「反対」に投票した。この全員が「賛成」に投票していれば、賛成320票、反対310票で、可決できたのだ。

とはいえ、先日の8つの投票の中で、「合意なき離脱」を支持した保守党議員は157人もいた。つまり、123人は本心では「合意なき離脱でもいい。何が何でも離脱だ!」と思いながらも、最後は党の方針に従って「合意がある離脱」に賛成票を投じたのである。

参照記事:8つの示唆的投票で、各党の投票結果と特筆すべきこと。なぜか明るい議場

英国が解体しても「NO」なのか

今後は合意なき離脱になる可能性は高い。予測していた4つの行く末のうち、合意案が否決されたことで1つ消えたので、3つの可能性になったと思う。

1,「合意なき離脱」

2,「総選挙+欧州議会選挙(=再国民投票のかわり)」

3,「英国側は延長を申し出るも、EU側に拒否される。この場合、合意なき離脱になる可能性が極めて高い」

合意なき離脱になったら、本当に英国は解体してしまうのではないだろうか。地域の3政党は、そのリスクを考えた上で「反対」に投票したのだろうか。

スコットランドはそうだと思う。スコットランド国民党は、スコットランドが独立してEUに残るので良いと考えている。

DUP(北アイルランドの英国派の党)の場合は逆である。DUPは英国派で、英国との統一を望んでいる政党で、EU離脱を支持している。

とはいえ、北アイルランド全体ではEU残留が55.8%で、離脱したくないほうが得票率が高かったのだ。無政府状態の北アイルランドで、よく争いが再燃しないなと思う。反対票には「何が何でも離脱だ!」と「EUから離脱したくない、残留したい」という両極が投票している。反対票は、どちらの派も満足させられるという、奇妙な現象が生じているためかもしれない。

プライド・カムリは、スコットランド国民党と協力関係にある。

旧植民地の人たち

それから、EU離脱を唱える人たちは、英連邦(コモンウエルス)からやってきた人々も多いと思う。旧英国の植民地で、英語を話し、英国との歴史的つながりが深い所から来た人々だ。肌の色が異なる人達が多い。

彼らは、元宗主国である「英国」にやってきたのだ。彼らにとってイギリス人になることは良くても、「ヨーロッパ人」になるのは、たいへん抵抗があるものだと思う。

これはスコットランド独立投票のときにも見られた現象だ。旧植民地から英国にやってきて、たまたまスコットランドに住んでいるが、「イギリス人だ」と思っている彼らにとって、「スコットランド人になれ」「ヨーロッパ人になれ」というのは、難しい話なのだと思う。

ただ、それならフランスでも同じなのか。フランスにも、旧植民地から来た、肌の色の異なるフランス人はたくさんいる。彼らはEUが嫌いなのだろうか、ヨーロッパ人に抵抗があるのだろうか。ないとは思わないが、英国とはかなり違うと感じるのだ。

英国とフランスの違い

歴史以外にも、理由は二つ考えられる。

一つは、フランスが大陸であること。EUのために陸続きの国境が広がってボーダーレスになっていく感覚があること。これは島の英国にはないと感じる。日本人にも極めてわかりにくいと思う。

もう一つは思想の違いだ。フランス人は「ライシテ」と呼ばれる、政教分離の意識が徹底している。「平等を実現するために、宗教はあくまで個人の分野に限られる」という思想である。

公務員は宗教色があるものを職場で身につけるのは一切禁止(職場の外なら良い)。子どもも、公立学校は高校生まで同様に禁止である(大学生は良い)。いわば、自由よりも平等が大事なのだ。これはフランス革命に由来する思想なのだが、この思想は英国には薄い。

英国もアメリカも、平等よりも自由を重んじる国で、各エスニックが強いコミュニティをつくる傾向がある。学校しかり、町しかり。これをフランス人は「コミュニティ主義」と言って嫌う。フランス社会は、もっとフラットである。生活レベルでは、コミュニティ主義のほうが「外人」にとっては生きやすいと思うのだが・・・でも同化が薄れるという大きな欠点がある。

このようにコミュニティが集積している状態で「一つの国」として形作るには、始終「英国!」「アメリカ!」と叫び続ける必要がある。かつ、島国という地理的条件も大事になる(「アメリカは巨大な島国である」というのが筆者の持論である)。

そんな彼らに、「ヨーロッパ」という名のボーダーレスを受け入れるのは、とても難しいだろう。彼らにとって(土着のイギリス人にとってさえ)ヨーロッパは海の向こうの別世界なのに違いない。

まだこれからどうなるかはわからないが、筆者の観点からは、ますます「英国の解体とEU」というテーマで考えていくことになるだろう。

左派のゆくえ

最後に一つ付け加えると、前述したように、労働党の罪は重いと思う。

労働党を支持する人々は、EU離脱を支持する人たちが多かった。グローバリゼーションの恩恵を感じられず、離脱を支持する人たちが多かったせいだろう(極右にいかないだけ、マシかもしれないが)。

不思議な話ではある。左派というのは「万国の労働者の団結」ではないが、世界的に連帯するものではなかったのか。

この現代の左派が抱える本質的な矛盾に、労働党は全く答えを与えられなかった。というより、「実はEU離脱派」と常に言われ続けたコービン党首自身が、矛盾の象徴だったのかもしれない。

この矛盾をどう解釈するかというのは、欧州の大きな命題だと思う。

単純に「戦前の労働者と違って飢えていないし、教育も医療も保証されている」とも言える。欧州大陸と異なるイギリス独自の原因をさぐることもできる(欧州大陸では、大きい国のほとんどは共和国であり、王も貴族もいない)。

まったく逆で、今の時代は退化したという考えも可能だ。ソビエト連邦は「自由」を抑圧した悪の固まりではなく、同国が実現した良い面「平等」も再評価するべきだ、という動きも新しい世代から出てくるかもしれない。

ここ数年、極右の台頭で、欧州全体で左派の凋落が目立っていたが、最近また盛り返している印象もある。

スペインでは、4月28日の総選挙を控え、サンチェス現首相が率いる社会労働党の支持が伸びて3割を超えている。欧州議会選挙でも、北方で左派の堅調さが報告されている。欧州議会選挙の結果はどう出るか。(ブレグジットの結果にもよる。英国が合意なき離脱をすれば、左派は伸長するだろう)。

筆者は、ここまで来たら、もう合意なき離脱をしたほうがいいと思っている。大陸側から見ていると、もううんざりである。ナイジェル・ファラージさんよ、あなたはもう欧州議会に来なくて良い(面白かったけどね)。

産業界には甚だ迷惑なことだ。英国商工会議所のアダム・マーシャル事務局長は、「虹を追いかけている」といって非難する声明を出している。でも、人間は何でもやりたいならやってみたほうがいいと思う。欧州司法裁判所の判断により、EUに戻ってきたければいつでも戻ってこられるのだから。

連載「英国の解体とEUを考える」の2回目は、明日アップします。※追記 すみません。明日は日曜日でした。月曜日にアップします。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省機関の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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