8つの示唆的投票で、各党の投票結果と特筆すべきこと。なぜか明るい議場:イギリスEU離脱ブレグジットで
不思議な明るさ
3月27日の示唆的投票の結果は、もう既にニュースになっている。
筆者は、イギリス議会の公式サイトで、生中継で見た。夜の21時半、フランスでは22時半から始まった投票は、8つ全部否決という異様な結果になった。
ところが、「オーダー、お〜だ〜」で有名になったジョン・バーコウ下院議長が、8つの投票結果を読み上げ、全部否決だったとわかった時。場内はざわめきと、不思議な笑いにつつまれていた。なぜか明るかった。
その笑いは「笑っちゃうなあ」「苦笑」「笑うしかない」という言葉がふさわしく、「うわ、全部否決になってしまった」「なんだーこりゃー」「私達って何も決められないじゃないかー」という感じだった。下院議長は、イギリス人らしいウイットに富んでいた。
それにしても、あの明るさはなんだろうと思ったのだが、翌朝改めて振り返ってみるとーーー
あれはきっと「いやあ実は内心わかっていたんだよね。やっぱりねえ。でも、こんなにはっきりダメダメなのが明からさまになっちゃったよー」という感じだったのかな、と思う。それでも今まで全力を尽くして頑張ってきたという、やれることは全部やってきた者だけがもつ明るさ・・・なんだかそんな感じがした。
メイ首相は、苦笑いすらリラックスしているように見えた。投票の前には、「もし合意案が可決されたら辞任する」と表明するほど追い詰められていたのに。辞任を決意したことで肩の力が抜けたのもあるだろうし、この投票結果に、今までまさに鬼の形相だった彼女も、なんだか脱力というか気抜けして緊張が取れたのかもしれない。
この議場の様子を見て、今後流れが大きく変わるかもしれないと感じていたら、早速、ブレグジット強硬派のボリス・ジョンソンなど数名が、メイ首相の合意案を支持すると言い出した。ガーディアンの記者によると「このことは、もしメイ首相が辞任したら、ジョンソンは彼女にとってかわりたいサインであると多くの人が解釈した」ということだ。あの男は本当に、愛嬌はあって、機には敏感な頭の良さがあるけど、軽いなあと感じる。
8つの投票における各党の投票を詳述
この投票は、各党が考えていることがわかって、大変興味深いものとなった。
以下の表を見て頂きたい。
青:保守党 赤:労働党 ピンク:労働党からの独立一派 レモン色:スコットランド国民(民族)党 オレンジ:自由民主党 薄いオレンジ:自由民主党からの独立一派 えんじ色:DUP(民主統一党/北アイルランドの英国派) 濃い緑:プライド・カムリ(ウエールズ党) 薄い緑:緑の党 濃い灰色:独立グループ党(親EUとして労働党から独立) 薄い灰色:無所属
各党の行動を詳しく見ていこう。
今回の投票で、労働党は議員に、2度目の国民投票など党幹部が支持する案には賛成票を入れるよう指示した。一方で保守党は、棄権した主要閣僚以外は党議拘束を受けず、自由に投票が許されたという。
◎イギリスのツイッターでも話題になったのは、労働党が一枚岩ではなかったことだ。労働党が提案している「再国民投票」や、「単一市場との緊密な関係」に対して、党内から反対票を投じる人たちがいた。また「ブレグジット中止」では大量の棄権が出ており、「EFTA&EEA」はさらに多くの棄権がある。
◎保守党と労働党は、大体において対立はしている。でも、保守党は「合意なき離脱」「妥協案A」「EFTA&EEA」では、党を二分するほど割れている。
◎スコットランド国民党は、大体は労働党に近いスタンス。でも「再国民投票」と「ブレグジット中止」に賛成で「合意なき離脱」に反対なのはわかるとして、「関税同盟」「単一市場との緊密な連携」「共通市場2.0」には棄権しているのに、「妥協案A」と「EFTA&EEA」には反対をしている。
◎プライド・カムリは、ウエールズの独立とEU加盟を最終的に目指す党。スコットランド国民党と大体同じだけど、同党が棄権している「共通市場2.0」には賛成で、同党が反対している「EFTA&EEA」には棄権をしている。
◎DUP(民主統一党/北アイルランドの英国派)は、「再国民投票」も「ブレグジット中止」も反対だし、「関税同盟」「単一市場との緊密な連携」といったつながりも反対である。このあたりは保守党とそっくりだ。しかし、「共通市場2.0」「EFTA&EEA」「合意なき離脱」には棄権をしていて、唯一「妥協案A」には賛成を投じている。
この党には10人の下院議員がいるが、いつもブロックで固まって行動しているのに、Jim Shannonという議員が一人だけ「合意なき離脱」に反対票を投じている。
◎独立グループ党とは、労働党から派生した政党である。親EUなのだが、労働党のEU政策が生ぬるいと感じて独立した。この政党が一番わかりやすく、「再国民投票」「ブレグジット中止」に賛成で、あとは全部反対である。「離脱後のEUとの繋がり方なんて関係ない、断固残留!」ということだろう。
◎ちなみに、アイルランド島統一を主張するシン・フェイン党は7議席もっているが、女王への忠誠を拒否しているので、議会には現れない。
8つの案に関して特筆すべきところは。
◎「合意なき離脱」に、労働党から3名の賛成が出た。
◎「EFTA&EEA(関税同盟には入らない)」は、メイ首相の合意案に賛成することになるので、労働党は反対を投じたということだ。でも同党からは大量の棄権が出ている。
◎労働党が提出した「単一市場との緊密な連携」に、Ken Clarkeという保守党議員が一人だけ賛成を投じた。
◎「ブレグジット中止」に10人の保守党議員が賛成した。
◎「再国民投票」(労働党支持)に、8人の保守党議員が賛成し、27人の労働党議員が反対した。
全体を見た感想。
◎最も「賛成」が多かったのは、「再国民投票」だった(賛成268)。
◎「関税同盟」が、賛成と反対の差が一番接近していた(賛成:264 反対:272)。
◎地域政党の観点から見た場合、最も妥協して成立する可能性があるのは「共通市場2.0」ではないか。プライド・カムリ(ウエールズ党)が賛成していて、スコットランド国民党とDUP(民主統一党/北アイルランドの英国派)が棄権しているからだ。棄権とは、少なくとも反対はしていないと捉えられる。
今後はどうなるのか
英「ガーディアン」は、8つの代案が全部却下された後、ツイッターで以下のようにまとめた(抜粋)。
◎これらの評決に対して責任があるOliver Letwin卿は、結果が読まれた直後に下院議会で、「このことは予想されていた」と述べ、示唆的投票は、月曜日に行われる投票の2日目において、いくつかの提案をより決定的に支持する方向にもっていくであろう「2段階のプロセス」である、そしてその投票をジョン・バーコウ下院議長は許可をしているという。
◎メイ首相は本日(示唆的投票の日)の午後、保守党議員に「3回目の意味のある投票で合意案が国会で可決されれば、辞任する」と語った。しかし、彼女の発表の前に、バーコウ議長は、実質的に修正されない限りは、同じ合意案に対して、もう一度投票することを許可しないであろうと、議会で繰り返した。
◎DUP(民主統一党/北アイルランドの英国派)は、3回目の投票になった場合、メイ首相の合意を支持しない、かつ議員は誰も棄権しないことを確認した。メイ首相の合意案が可決するのに十分な票を得ることは、できそうにない。
この投票行動を見て、各党は何を考えているのか、もう少し時間をおいて分析をしてみたい。単純に「党の方針に従っただけ」「ライバル政党に反対するために」ということもあるだろうが、色々と割れたのを見ると、やはり提案された内容が重要なのではないかと思う。特に地域政党の投票結果は面白いし、「共通市場2.0」の結果が意外だった。
自分でも考えて、これから出てくるに違いない英語やフランス語の分析報道も参考にしてみたい。
全員が将来像を描きたかった
ところで筆者は、前の記事で「なぜこのような投票をするのか」を以下のように書いた。
今後の道筋を具体的に描ければ、残留派やバックストップ心配派を多少なりとも安心させられる。それらの得票数が多ければ、「EUを離脱するにしても、それほどEUから遠い位置に行かない」とか、「英国と北アイルランドは○○式離脱になるだろうから、分断されない」と説得することができるーー。
今思うと、あまりにも合意案を通そうとする立場からの視線が過ぎたのかなと思う。筆者はEUの側に軸足があるし、毎日メイ首相を見すぎていたのかもしれない。
二元論から脱出し、具体的な将来像を描いて納得してみたかったのは、全員だったのだろう。