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4階級制覇王者を仕留めたサウスポー

林壮一ノンフィクションライター/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
David Martin-Warr / DKP

 第2ラウンド34秒。16勝(10KO)1敗1分けのサウスポー、ブレア・コブスの左フックが、元WBOスーパーフェザー級、WBCライト級、WBAウエルター級、WBAスーパーライト級王者の顔面を捉える。4階級を制したエイドリアン・ブローナーは腰からキャンバスに沈んだ。

David Martin-Warr / DKP
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 34歳の元チャンプが、ドン・キングと手を結んだのは2023年3月。同年の6月に1試合こなし、今回は1年ぶりのリングだった。2019年1月にマニー・パッキャオの持つWBAウエルター級王座に挑戦したブローナーは、0-3の判定で敗れた。以来2年間試合をせず、もはや引退を決めたのかと思わせた。

 2021年2月に14勝(10KO)無敗1分けのプエルトリカンに判定勝ちして再起するも、ドン・キング・プロダクションとサインを交わすまでは、宙に浮いた状態だった。

David Martin-Warr / DKP
David Martin-Warr / DKP

 現在92歳のキングは、もはや大きな興行を手掛けていない。自身が暮らすフロリダ州フォートローダーデールで、年に数回イベントを打つ程度である。それでも、長年密な関係を続けているWBCのボスを現地に呼び、“ピープルズタイトル”などというベルトを作らせる影響力は持っていた。

 今回は、聞いたこともないそのタイトルを懸け、ブローナーに元チャンプと同じ年のサウスポー、コブスをぶつけた。スーパーライト、ウエルターで北米タイトルを獲得した経験のあるコブスは、チャンスに目を輝かせていた。

David Martin-Warr / DKP
David Martin-Warr / DKP

 とはいえ、メディアに向けてドン・キング・プロダクションが発する情報は、全てブローナーがメイン。コブスが<斬られ役>として選ばれたのは明白だった。

 計量時から、両者は同じ歳とは思えないほど体の艶が違った。それは、このファイトに対する意欲の差を示していた。更に、ブローナーがサウスポーと対峙するのはパッキャオ戦以来で、十分な対策を講じていなかった。

 コブスはオープニングから積極的に打って出た。角度を変えてポジションをとり、ジャブを上下に打ち分ける。左もストレート、フック、スイングと多彩な攻撃を見せた。97-91、96-93、96-93で圧勝した。

 勝利した後、「楽な試合じゃなかった。俺のスペシャルなパンチを喰らっても、ブローナーは立ち上がったよね。回復力を見せたし、こちらも何発かいいパンチを貰ったよ。上、下と効果的にパンチを放ったのが良かったんじゃないかな。彼は、俺の予想外の動きに困惑しただろう」とコメントした。

David Martin-Warr / DKP
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 4階級を制した元チャンピオンは、集中力に欠け、何度もマウスピースを吐き出していた。

 キングにとって、この結果は誤算だろう。今後、フロリダでの興行で、コブスをいかに扱うのか、あるいはブローナーにより簡単な<咬ませ犬>を宛がうのか、その点に興味が湧く。

ノンフィクションライター/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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