なぜバルサはファティを放出したのか?メッシの後継者の決断とブライトンの魅力。
背番号10が、チームを去った。
バルセロナは今夏、アンス・ファティの放出を決めた。新天地はブライトンで、ロベルト・デ・ゼルビ監督の下、1年レンタルの契約でプレーする運びとなった。
「私にとって、ファティは現在においても未来においても重要な選手だ。それはクラブにとっても同様だ。だが、マーケットがある。我々の置かれている状況は周知の通りだ。9月以降も彼がここでプレーを続けているかは分からない」と語っていたのはシャビ・エルナンデス監督だ。
「我々はファティに満足している。日々、ハードワークしてくれている。現在と未来で、戦力に数えられる選手だ。しかし、私は何も確約できない。すべてがオープンな状態だ」
■メッシの後継者
バルセロナは2021年夏にリオネル・メッシが退団。メッシが背負っていた「10番」を引き継いだのが、ファティだった。
ファティはバルセロナのカンテラ(育成組織)出身選手だ。2019−2020シーズン、エルネスト・バルベルデ当時監督の下でトップデビュー。そのシーズン、リーガエスパニョーラ前半戦のオサスナ戦で得点を挙げ、16歳304日とリーガ史上3番目の最年少得点者になった。
だがファティは度重なる負傷に苦しめられた。4度の手術を強いられ、離脱と復帰を繰り返した。トップデビュー後、バルセロナで112試合に出場。しかし、もっと試合数を積み重ねていてもおかしくなかった。
■デンベレのパリ・サンジェルマン移籍
バルセロナは今夏、ウスマン・デンベレがパリ・サンジェルマンに移籍した。デンベレの移籍で、ファティの出場機会が増加するーー。その目論見はしかし、崩れた。
シャビ監督は昨季途中から左WGに中盤型の選手を置くようになった。ガビ、ペドリ・ゴンサレス、新加入のイルカイ・ギュンドアンを含め、今季においては彼らがその役割を担っている。
ファティは左WGをメインポジションにしている。CF、右WGで起用された過去もあるが、ドリブルと右足のカットインシュートを得意としているため、左サイドを主戦場にしていた。今季のリーガでは、ヘタフェ戦(出場時間11分)、カディス戦(22分)、ビジャレアル戦(14分)と開幕から3試合で思うようにプレータイムを得られなかった。
■新星の出現
そして、バルセロナにはラミン・ヤマルという新星が現れている。2022ー23シーズンにクラブ史上最年少でトップデビューを飾った16歳の選手が、今季序盤からインパクトを残している。
ガビ、ギュンドアン、ラフィーニャ、フェラン・トーレス、ヤマル、そういった選手たちとのポジション争いは激しかった。ゆえに、ファティの心は移籍に傾いた。
そのファティに、関心を寄せたのがブライトンだった。デ・ゼルビ監督はファティの獲得を熱望していたとされ、5度、直接電話を掛けて選手を口説いたと言われている。
また、ブライトンは若手に賭けるクラブだ。今夏、移籍金4200万ユーロ(約66億円)でリヴァプールに移籍したアレクシス・マク・アリステル、移籍金1億2500万ユーロ(約197億円)でチェルシーに移籍したモイセス・カイセド、いずれも若くしてブライトンの扉を叩いた選手たちである。
「ブライトンのストラクチャーのレベルは、少しずつ良くなっていった。クラブには、ずっと明確な目標があった。そして、期待を超えるような選手たちを連れてくる術を知っていた。それは現代フットボールにおいて、非常に難しいことだ」とはチェルシーの前暫定監督で、選手時代にブライトンに在籍(2012年―2019年)ことがあるブルーノ・サルトールの言葉だ。
「ブライトンの会長は、補強に大金を使うトレンドを不要なものだと考えていた。リスクを伴っても、補強を当てることを優先していた。補強に関しては、データを駆使して、選手たちの性格を調べて、文脈を追うように獲得を決めていた。そして、当然ながら、そういった若い選手たちを起用する勇敢な監督を引っ張ってきていた」
ファティは若くしてプロデビューを果たし、負傷に苦しみながら、メッシの「10番」を受け継いだ。しかしながら、まだ20歳の選手である。
三笘薫との定位置争いも気になるところだが、タイプが異なる2人を、デ・ゼルビ監督はうまく使うだろう。
いずれにせよ、バルサの「10番」を背負った男だ。いまは、ファティの本当の意味での復活に、期待したい。