ウクライナへの米国の地対地誘導ミサイルの供与に対抗し、北朝鮮もロシアに同類のミサイルを提供か!?
北朝鮮の申紅哲(シン・ホンチョル)駐露大使が今朝、米国がウクライナに地対地誘導ミサイル「ATACMS」(射程約300km以上、マッハ3)を供与したことを非難する談話を出していた。一介の大使の談話を珍しくも今朝の北朝鮮の国営通信「朝鮮中央通信」が掲載していた。
申大使は談話で以下のように米国批判を展開していた。
▲米国は国際社会の大きな懸念と強い反対にも関わらず、「ATACMS」地対地ミサイル・システムをついにウクライナに納入した。
▲米国はウクライナに納入した「ATACMS」の最大射程が170キロしかならない旧型であると世論化し、初めから「ATACMS」の納入が招く破局的結果を最小限にとどめようと巧妙に振る舞っている。しかし、旧型であれ、新型であれ、「ATACMS」がロシアの縦深地域に対する打撃に利用されるということは誰も否認できないであろう。
▲米国はロシアとの正面衝突を願っていないと主張しているが、実際上はロシアに戦略的敗北を与え、全世界に対する軍事的覇権を握るために手段と方法を選んでいない。
▲米帝国主義とその追随勢力の不法非道な強権と専横は、自主と平和を志向する平和愛好的な各国家によって必ず決算され、国際的正義を実現するための聖なる偉業は必ず成し遂げられるであろう
申大使は2008年から2013年までバングラデシュの大使を務めた後、外務次官を経て、2020年2月に駐ロ大使に任命された生粋の外交官である。
ウクライナにはこれまで米国から120mm迫撃砲など砲弾やジャベリン対戦車ミサイル、ロケットランチャーからM1エイブラムス戦車、さらには対艦ミサイルなど様々の兵器や軍需品が供給されているが、これまで申大使が談話を発表してまで米国のウクライナへの兵器供与を批判したことは一度もない。
ロシアのメディアのインタビューに答えて、米韓合同軍事演習を批判し、あるいは大使館内で記者会見を開き、北朝鮮の対外政策をPRすることはあっても今回のように特別に談話を発表することは極めて珍しい。当然、申大使の談話発表は個人の判断によるものではなく、外務省、即ち本国の訓令に基づくものであることは言うまでもない。
ショイグ国防相の訪朝(7月25-27日)以降、北朝鮮とロシアが軍事提携を強めていることは誰もが認めるところある。露朝双方とも否定しているが、特に金正恩(キム・ジョンウン)総書記が9月12日にロシアを訪問し、「プーチン大統領同志の全ての決定を支持する」「我々は共に帝国主義(米国を指す)と戦う」と確約したことで北朝鮮による対ロ武器供与は本格化している。
米ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官が今月13日に明かした情報では9月から10月にかけて北朝鮮からすでにコンテナ1千個がロシアに運ばれている。仮にすべてのコンテナにロシアが必要としている砲弾だけが入っていると仮定した場合、韓国国防部の分析ではその数は30万発に上るとのことである。
しかし、衛星からはコンテナの数は正確に捉えることはできても中身までは透視できない。ロシアが欲しがっている122ミリ砲など弾砲弾だけなのか、それ以外にも対戦車ロケットランチャーなどの兵器が含まれているのかこればかりは当事者の露朝しかわからない。
北朝鮮の対露武器支援は9月7日から8日にかけてロシアとの国境に近い北朝鮮の羅津港に300個のコンテナが積まれていたことが偵察衛星によってキャッチされたことで金総書記の訪露(9月12日)前から動き出していたことが判明している。
金総書記は7月27日の軍事パレードに出席したショイグ国防相を兵器展示会に案内し、自ら北朝鮮の最新兵器を売り込んでいた。また、ショイグ帰国(7月27日)から1週間後の8月3日から5日にかけて大口径ロケット砲弾生産工場を視察し、続いて11日から12日まで戦術ミサイル生産工場や戦術ミサイル発射台車生産工場を訪れていた。
北朝鮮には2種類の戦術誘導ミサイルがある。
一つは、米国では「KN―23」、北朝鮮では「火星砲―11나」と呼称されている新型戦術誘導ミサイル(全長7m、直径90cm)である。ロシアの「イスカンデル」と似た短距離弾道ミサイル(射程450km~690km)である。
放物線軌跡を描く一般弾道ミサイルとは違い、マッハ6.9kmで低空飛行した後、目標地点で急上昇して目標物に突き刺さる技術が適用されており、パトリオットやTHAADでも迎撃が困難と言われている。
そして、もう一つが「KN-24」と呼称されている米国製「ATACMS」に似た戦術誘導ミサイルである。速度はマッハ6.1と米国製よりも2倍も速く、射程も400kmと100km長い。
北朝鮮は4年前の2019年8月10日に北朝鮮版「ATACMS」の初の発射実験を行ったが、立ち会った金総書記は「またもう一つ新たな兵器ができた。この兵器の標的にされている勢力にとって我々の試験射撃の結果は払いのけることのできない苦悶となるだろう」と喜び、発射を成功させた国防科学院幹部や科学者らと記念写真を撮っていた。以後、2019年8月16日、2020年3月21日、そして2022年1月17日と3回発射実験を繰り返し、生産体制に入り、ミサイル部隊への実戦配備も終えている。
こうしたことから申大使の談話は米国のウクライナへの「ATACMS」供与を口実に、あるいは対抗措置として北朝鮮もいずれ戦術誘導ミサイルをロシアに供与する布石と言えなくもない。