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新型コロナウイルスでも東京オリンピック・パラリンピックは開催できるのか。ジカ熱とリオ大会から。

谷口輝世子スポーツライター
(写真:ロイター/アフロ)

新型コロナウイルスの感染が日本でも広がっている。飛沫感染、接触感染で広がっていくとされており、丁寧な手洗いのほかに、不要な外出を避け、人混みを避けることが予防策だとされている。

スポーツの大会には人が集まる。それに、何が何でもやらなければいけないものとは言い切れない。スポーツ観戦は、不要不急の外出にあてはまるだろう。3月1日に行われる東京マラソンは一般ランナーの参加を取りやめて、車椅子の部を含めた約200人で競うことになった。16日に行われた熊本マラソンの様子を伝える写真には、マスクをつけたランナーの姿もあった。

感染の拡大が続いた場合、東京オリンピック・パラリンピックは予定通りに開催できるのだろうか。14日のサンケイスポーツ電子版によると、国際オリンピック(IOC)のコーツ調整委員長は予定通り開催する考えを示したという。

ちょうど4年前。2016年の年明け間もないころに、夏にオリンピック・パラリンピックが開催されるブラジルでジカ熱の感染が拡大していた。ジカ熱はヤブカ属の蚊によって媒介されるジカウイルスによる感染症だ。健康な成人が罹った場合は、死に至ることは稀であるとされているが、妊婦が感染すると小頭症の赤ちゃんが生まれる可能性がある。

日本の外務省は2016年1月26日付で「妊娠を予定している人、妊婦の人に対しては流行国、地域への渡航、滞在を可能な限り控えるよう、十分に注意する」と告知した。

2016年2月14日時点でのいくつかの国の五輪委員会の反応は次のようなものだった。

1月下旬にオーストラリア五輪委員会が、女子選手と女子スタッフに対して、妊娠している人はブラジルに渡航するかどうか十分に考える必要があると通達。ケニアのオリンピック委員会はジカ熱の流行が拡大すれば、五輪の出場を辞退する可能性があるとした。米国五輪委員会では2月8日、ジカ熱に不安がある選手は、リオデジャネイロ五輪の参加を見送ることができることを明らかにした。

実際に出場を見送った選手たちも出た。

公衆衛生の専門家であるカナダ・オタワ大学のアミール・アタラン教授は、オリンピック・パラリンピック開催によって先天的に障害を持つ赤ちゃんが誕生するリスクが高まると警告し、開催を遅らせるよう提案した。しかし、IOCは2016年、6月2日に大会期間はブラジルの冬のため「一般的に健康上のリスクはない」と強調。開催へむけて問題はない、とした。

大会はそのまま開催。2016年9月2日にはWHOが「オリンピック期間中に感染した選手、訪問者は報告されていない」と発表した。懸念はあったけれども、感染者が出なかったから開催してよかった。大会は成功したということになるだろう。

しかし、米カリフォルニア大バークレー校で公衆衛生を研究するリー・ライリー教授らは、大会後に次のような問題を指摘した。

○オリンピック後もジカ熱に感染した母親から障害を持つ子どもが生まれ続けている

○選手や外国人観光客の多くは、高層階や空調の効いた部屋、水の衛生管理が十分になされ、定期的に蚊の駆除がされていたところに滞在していた。

○ジカ熱がオリンピックに与える影響にリソースが割かれて、ジカ熱に感染しやすい環境の都市部の貧困街、スラムの感染者には十分な注意が払われていない。

スポットライトのあたる表舞台を守ることに精力が注がれ、もっとリスクの高いスポットライトの裏側までは手がまわらなかったということだろう。祭典が終わると、世界は、ジカ熱の不安があったことさえ、忘れてしまった。グーグルの「ZIKA」「RIO」の検索ボリュームもオリンピック終了後は急降下した。

東京大会は、新型コロナウイルス感染症のために、形を変える部分も出てくるかもしれないが、予定通りに開催されると私は予想している。全力で感染から大会を守ろうとするとき、本当にリスクの高い人たちを守る余力は、もう残っていないのではないかと案ずる。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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