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軽度の知的障害の女性の初恋。小野花梨がドラマ初主演。「愛せる役にすることには自分で責任を負いたくて」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)「初恋、ざらり」製作委員会

『カムカムエヴリバディ』や『罠の戦争』などで印象に残る役を演じ続け、日本アカデミー賞の新人俳優賞にも輝いた小野花梨。今月スタートした『初恋、ざらり』で連続ドラマ初主演を務めている。軽度の知的障害と自閉症を抱えながら、20代半ばで初めて恋をする役。生々しいまでの演技を今回も見せているが、これまでになく「自分の要素を少しも入れないように」取り組んだという。

私の代わりはいくらでもいますから

――日本アカデミー賞で新人俳優賞を受賞した際、キャリア19年ながら「経歴とは売れてから数えるもの」と言われたと、スピーチされていました。連続ドラマで主演となると、売れている実感もありますか?

小野 それがですね、この前マネージャーさんと「売れるって何だろうね?」という話をして、答えが出ました。街を歩いていたらパニックになる! これが売れたということです(笑)。となると、私の経歴はまだゼロ年目です。

――パニックにはならないとしても、街で声を掛けられることは増えたのでは?

小野 ないです。どこにでも平然と1人で行けます。何も変わらず、毎日健やかに生きています(笑)。

――『初恋、ざらり』で演じている上戸有紗は「世界に必要とされたい」と言っていますが、主演女優として必要とされた喜びは大きいですよね?

小野 とっても嬉しいです。でも、私の代わりはいくらでもいますから。お芝居が上手な人、人間性が素敵な人はたくさん知っています。その中で、この役を自分に任せていただいたことには、“感謝”という表現が正しいと思います。本当にありがたくて。

役を好きになった感情だけで演じられるなと

――『初恋、ざらり』は原作から入ったのですか?

小野 先に原作を読ませていただいて、台本が続々と上がってきた感じです。オリジナルエピソードもあるけれど、有紗の人間性や精神性は原作から絶対に逸れないように、プロデューサーさん、監督さん、(W主演の)風間(俊介)さんと意見を出し合いながら作っていきました。原作ファンの方の期待を裏切りたくないですし、ざくざくろ先生の漫画の雰囲気にリスペクトもあって。

――有紗は演じるうえでは、難易度が高い役でした?

小野 生意気ながら、絶対に私はできると確信していました。原作を読んだときから、有紗をすごく好きになれたんです。とっても愛おしくて、とってもかわいい。この感情だけで、私は有紗を演じられると思いました。ただ、“かわいい”とか“愛せる”というのは個人の主観すぎて、人とすり合わせるのが難しい部分ではあるんです。人それぞれに“かわいい”のラインがありますから。

――そうですね。

小野 その中で、有紗の人間性の愛らしさの表現は、自分で責任を負わせていただきたくて。言い回しや声のトーン……と言うと表面的ですが、私が原作を読んで感じた有紗の魅力は絶対に消してはいけないと、撮影には緊張感がありました。

障害を表現するより、どんな人生なのかを

――有紗の愛らしさはどんなところで感じましたか?

小野 全体を通して一生懸命なんです。そこがあまりにも健気で、全然うまくいかなくても絶対嫌いにはなれない。欠点と言われる部分まで愛おしいのが、有紗の魅力なんですよね。

――「ただ不器用な女の子が必死に生き、恋をする物語」とのコメントもありました。軽度知的障害や自閉症という部分は、ことさら意識しなかった感じですか?

小野 センシティブな問題ですし、いろいろ調べたり映像を観させていただいたりはしました。ただ、知的障害と言っても、10人いれば10通りの症状と悩みがあって、有紗が抱えているものもまた別なんです。有紗という1人の人間がどんな人生を歩んできて、どんな気持ちで生きていくのか。どんなことが苦手で、どんなことが得意なのか。知的障害者だから、ではなく、有紗ならどうなのかと考えて作りました。

――確かに、カップ麺の液体スープを袋から飛び散らせたりするのは、自分も普通にやるなと思いました。

小野 私も全然やります。おっちょこちょいなことは誰でもしますし、私には有紗の不器用なところもかわいく見えてきます。

――小野さん自身も不器用なタイプですか?

小野 私は手先は器用だと思います。料理やパズルも好きですし。でも、生き方は不器用なのかなと。みんながしれーっと乗り越えていくところで、私は1コ1コ地雷を踏んでいて。バーンと爆発して「なるほど。ここに地雷があったか」と思って、一歩進んだら、またバーンとなる(笑)。隣りの人を見たら真っすぐ歩いているのに……ということがあります。

自分の要素を少しでも入れたら成立しないので

――自分のコンプレックス的な部分を、有紗の悩みに置き換えたりもしました?

小野 自分の要素を少しでも入れると、有紗ではなくなるので。共通点を探したり「自分ならこうする」と考えるのは、リスキーかなと思いました。ただ有紗がどういう人間であるべきかを考えていて。今までの役だと、自分から派生させて作れていたんですけど。

――以前、「自分にある要素を何%出すか微調整する」と話されていました。

小野 そうなんです。それで言うと、今回は自分の要素はゼロに近いかもしれません。声のトーンも話す速度も身振り手振りもすべて、有紗を演じるときは自分がいないようにしないと、成立しませんでした。あまりなかった役です。

――演じ方を悩むところもありました?

小野 相当難しかったです。反射で演じると自分が出てしまうので。1秒1秒、本当に手が抜けなくて、すごく神経を使いました。主観だけでなく、どう見えるかもすごく気になって、カメラマンさんにも「こういう行動をしたら、どんなふうに映りますか?」と聞いたりしました。自分の中から生んだものではないゆえに、必要なことだったというか。

話し方は微妙なサジ加減を調整しました

――有紗の子どもっぽい話し方も、普段の小野さんと違いますね。

小野 トーンと速度は微調整をだいぶ繰り返しました。誇張し過ぎてもうるさいし、抜きすぎると有紗の良さが出ない。そのバランスは難しかったです。伝わっているのかわからないくらいの、本当に微妙なサジ加減を探っていきました。あと、あまりクレバーな言葉は使わないようにしていて。

――「物が立体的に見えなくて、よくぶつかる」という感覚は意識しました?

小野 その表現も難しくて。危ないから階段を降りるスピードが人より遅いとか、そういうことは要所要所でやりました。

――風間俊介さんが演じる岡村との恋愛では、中学生のような純粋さを見せています。

小野 初めての恋の一生懸命な感情の流れが、素晴らしくかわいかったです。

――自分の初恋も思い出しました?

小野 いや、もう、まったく(笑)。この恋も有紗だけのもので、自分と重ねることは一切してないです。

――重ねないにしても、「なんで岡村さんのことを考えると泣きそうになるんだろう?」といった想いに、覚えはありませんでした?

小野 何も思い浮かびません。そんな美しい恋愛を私はしてきてないんでしょうね(笑)。有紗の岡村さんを想う気持ちは純度が相当高いので、共感できる方は素晴らしいと思います。でも、私はないです(笑)。忘れてしまったのかもしれませんね、悲しいことに。

普通の恋愛って何なのかは難しくて

――水族館でのデートシーンは、撮影とはいえ楽しかったですか?

小野 楽しかったです。でも、そういったシーンに限らず、ずっと楽しい撮影でした。皆さんに助けていただきながら、自分の考えたこと、やりたいことを全部やらせていただいて、もの作りという意味でとっても楽しい時間でした。

――有紗はよく「普通の恋愛をしたい」と口にします。何が普通かも考えました?

小野 それは大きなテーマのひとつなんですよね。有紗は「普通になりたい」と言うけど、普通って何だろう? そこは考えながら演じていました。有紗の言う普通は健常者のことですけど、健常者と言われる側もうまくいかないことはいっぱいありますから。恋愛でもそう。普通の恋愛って何なのか? 結論は出ませんでした。

――意味は違いますが、芸能人も普通の恋愛はしにくいと思いますか?

小野 そんなことはないと思います。表面的なところで、たとえば2人で外を出歩けないとかはあるでしょうけど、想い合うがゆえにすれ違うとか、傷つけたくないのに傷つけてしまうとか、みんな同じですよね? 健常者、障害者と分けられないのと一緒で、芸能人かどうかは関係ない気がします。

これだけ考えられる役に出会えたのは幸せです

――ドラマの後半には現実的な問題も出てくるようです。

小野 話が進むにつれて、どうしてもテーマ的に重くなっていきます。有紗が悩む時間も多くなっていくから、私も大変なことが増えました。

――家に帰っても、有紗のことを考えていたり?

小野 現場でも家でもずーっと有紗のことを考えていました。台本を読んでは「この台詞はどんな言い回しにしたらいいかな?」とか「でも、やってみないとわからないから、監督と相談しないと」とか。それだけ考えられる役に出会えたのは、幸せなことでした。

――そこまで役について考えるのも、あまりないことですか?

小野 そうですね。今までは自分から出たもので勝負してきましたから。ここまで自分と乖離させて、役のことだけを考えて作り込んでいくやり方は、あまりしてきませんでした。不思議な気持ちですね。

――そんな最中に、8月公開の映画『Gメン』の試写を拝見しました。小野さんは男女関係にだらしがないヤンキー役で、有紗とのあまりの違いに笑ってしまいました(笑)。

小野 奇しくも同じタイミングで真逆な役をやっています(笑)。あれはあれで、変なことばかりして楽しかったですね。いただいた役を自分なりに精いっぱい演じる繰り返しで、公開が重なったのはビックリでしたけど、一期一会を大切にしています。

自分の感情の分析はずっとやってきました

――いろいろな役をやるために、日ごろからインプットしていることもありますか?

小野 自分の感情を分析することは、やっている気がします。「こういうことを言われて、すごくイヤな思いをした。何でイヤだったんだろう?」「たぶん過去にコンプレックスがあって、そこを刺激されたんだろうな」とか。何か役をいただいたとき、「この子がここでこう考えたのは、こんな理由だったんだろうな」というものに繋がっていると思います。だから、自分の感情を流さない。怒りも嬉しいことも楽しいことも、全部心に留めておきます。

――それは10代の頃からやっていたのですか?

小野 そうだったと思います。何かに悩んだら「私はなぜ悩んでいるんだろう?」と考えたりしていましたし、そうやって役を作ってきた感じです。自覚的でなく、気がついたらそうしていました。

――自分で映画やドラマを観て勉強したりは?

小野 もちろん観ますけど、勉強だとは思っていません。娯楽として観て、右から左に流れていきます(笑)。

――単純に最近面白かった作品というと?

小野 Netflixの『Jimmy~アホみたいなホンマの話~』ですね。明石家さんまさんが企画・プロデュースされたジミー大西さんのお話で、めっちゃ面白いです。1話1話が楽しくて笑えますし、中尾(明慶)さんのジミーが愛らしくて、応援したくなります。

逃げたいこととも闘っていかないと

――『初恋、ざらり』の現場では、座長としての振る舞いもしていたんですか?

小野 そんなことは何も考えず、ケラケラ笑いながら、現場に行って帰るだけでした(笑)。私はそこまでできませんから、周りに甘えさせていただきながら、役を一生懸命演じるだけ。いつかは自覚が芽生えて、みんなをまとめられるようになれますかね? カッコいいことができるように、頑張りたいです。

――これから主役が増えそうな予感はありますか?

小野 そんなの微塵もありませんが、闘っていかなければならないとも思っています。

――何と闘うんですか?

小野 できれば番手や数字からは逃げたいんですけど、自分を甘やかさないために、そういうことにもこだわっていかないといけない。そうやって闘い続けることが、お世話になった方々への恩返しになるのかなと思っています。

役との向き合い方には自信があります

――小野さんくらい演技力が高いと、ぶっちゃけ主役を張っていく自信はありますよね?

小野 ございませ~ん(笑)。演技に対する自信はないですけど、役を想う気持ちには自信を持たなくてはと思います。どんな役でも、長所や短所やクセや育ち、何もかもに興味を持って面白がりたいし、自分が一番理解しようと努めていて。その結果、いい芝居に繋がっているのかはわかりません。自分で観ると「またこんなことをやってる」と思いますし。

――どの役も印象に残っていますが。

小野 自分を信じたい気持ちと、自分だからこそ疑ってしまう気持ちが、いつも半々です。今回も放送されたら、評価や評判からは逃げられなくて。現場で自分たちが積み重ねたものとは、また別のスタートラインに立ちます。戦々恐々として震えながら、結果を受け止めて、これからに繋げていこうと思っています。

Profile

小野花梨(おの・かりん)

東京都出身。2006年にドラマ『嫌われ松子の一生』でデビュー。主な出演作はドラマ『親バカ青春白書』、『カムカムエヴリバディ』、『ロマンス暴風域』、『罠の戦争』、映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』、『のぼる小寺さん』、『プリテンダーズ』、『ハケンアニメ!』など。ドラマ『初恋、ざらり』(テレビ東京系)、ラジオ『おしゃべりな古典教室』(NHKラジオ第2)に出演中。映画『Gメン』が8月25日より公開。

ドラマ24『初恋、ざらり』

テレビ東京系/金曜24:12~

「Lemino」「U-NEXT」にて第1話から最新話まで見放題配信

「ネットもテレ東」「TVer」にて無料見逃し配信

公式HP

(C)「初恋、ざらり」製作委員会
(C)「初恋、ざらり」製作委員会

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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