70年ものあいだ愛され続ける「博多ラーメン」原点の一杯
九州から世界に広がった「豚骨ラーメン」
豚骨ラーメンは言わずと知れた九州を発祥とするご当地ラーメンだが、今やご当地ラーメンという括りはなくなり、九州にルーツを持たないオリジナルの豚骨ラーメンも増えている。豚骨ラーメンは日本全国から世界各国にまで広がっており、海外ではラーメン=豚骨というイメージが定着しているほどだ。
しかし、豚骨ラーメンの歴史80有余年の中で、その知名度が上がっていったのは半世紀にも満たない。1968(昭和43)年に熊本ラーメンの老舗『桂花(けいか)』が東京に進出したことで、本格的な豚骨ラーメンが東京の地でも食べられるようになった。その後、東京で豚骨ラーメンブームが興るのは1980年代後半から90年代にかけて。『なんでんかんでん』『一風堂』などが人気を集め、東京でも豚骨ラーメンの知名度は格段に上がっていった。
本来の博多ラーメンは今とは違う
九州の豚骨ラーメンの中でも特に人気が高いのが福岡の「博多ラーメン」だろう。博多ラーメンといえば、白濁したこってり豚骨スープにバリカタの細麺を替玉で、というイメージが一般的だが、元々の博多ラーメンは醤油味だったり麺が平打ちだったりと、今の形とは随分異なる。同じ福岡市内の長浜ラーメンの細麺替玉文化が融合したり、徐々にそのスタイルが変わって現在の形になっていった。
今では地元福岡であっても進化した博多ラーメンを出す店が大半だが、古き良き博多ラーメンの姿を今も頑なに守り続けている老舗が『元祖赤のれん 節ちゃんラーメン』(福岡市中央区大名2-6-4)だ。節ちゃんの屋号こそ1984(昭和59)年に開業した店からついたものだが、1946(昭和21)年に創業した、博多ラーメンの嚆矢的存在『赤のれん』の嫡流で、赤のれん創業者の津田茂さんを祖父に持つ三代目が暖簾と味を受け継いでいる。
現在の博多ラーメンとは異なり、茶褐色で醤油の味わいがキリッと立ったスープに、平打ちの細麺を合わせているのが『赤のれん』のラーメン。創業者が中国で出会った白濁の豚骨スープをヒントに生み出したものだと言われており、このラーメンが博多の豚骨ラーメンの元祖とも言われているのだ。
東京でも食べられる博多ラーメンの原点
そんな博多ラーメンの原型とも呼べるラーメンを、東京でも味わうことが出来るのをご存知だろうか。1978(昭和53)年開業の老舗『博多麺房 赤のれん』(東京都港区西麻布3-21-24)は、ランチタイムから明け方まで、多くの人が本物の博多ラーメンを求めて足を運ぶ人気店。東京にいち早く博多ラーメンを持ち込んだ草分け的存在だ。
店名の通り福岡の『赤のれん』で修業をした先代が独立して開業。西麻布交差点から程近い、六本木通り沿いにオープンして41年。まだ豚骨ラーメンなどに馴染みのなかった時代から、東京で本物の博多ラーメンを提供し続けている。現在は東京丸ビルにも出店し、こちらも人気を博している。
現在の一般的な博多ラーメンとは異なる味とビジュアル。良質のゲンコツを使い五右衛門釜で継ぎ足しながら炊き続けた、豚骨の香りと甘みにあふれる豚骨スープに醤油ダレ、やや平打ちに切り出したオリジナルの細麺が合わせられた豚骨ラーメン。これこそ、今から70年以上前に博多で生まれた本来の博多ラーメンなのだ。
芯になる部分は変えることなく、時代と共に変化する客の嗜好には寄り添って。「変えるべきを変える」というスタンスが、40年以上愛され続けている理由。福岡でも稀少な存在となりつつある一杯を、ぜひ東京でも味わって欲しい。
※写真は筆者の撮影によるものです。